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今年の初め,子供の受験を間近に控え,やはり最後は神頼みか,などと思いながら,学問の神様と慕われる菅原道真公で有名な東京都文京区にある湯島天神に参拝してきました.平日の朝の時間帯ということもあり,境内には数えるほどの人しかおらず,顔に感じる凛とした空気が,妙に心地良かったことを思い出します.菅原道真公が詠まれたという歌に,「心だに誠の道にかなひなば祈らずとても神や守らん」があります.「心から誠実に努力をすれば,祈らなくても,神様は守って下さるだろう」という意味があるようで,職種や世代を問わず,非常に身に染みる歌だと思います.
努力するというのは,目標達成のために励むということではありますが,その方法や考え方は千差万別です.「最近の若者は努力が足りない」とか「オジサンたちはちっとも新しいことを学ばない」とか,年齢や世代であれこれ議論するのは無意味ですし,そもそも達成したい目標が個々人で違うわけですから,当然の話かと思います.
研究開発の仕事という観点で見てみると,そのときの仕事内容や役割などによって,「誠実に努力をする」に対する,視点や思考は異なるかと思います.知識や実験スキルの習得,国際会議への投稿や論文執筆などの場面においては,「努力する」のベクトルは,自分に向いていたように思います.言い換えれば,それは「個」による努力と言うこともできます.一方で,ビジネスや社会にどう役立てるのかを考える場面においては,「個」の努力だけではどうにもならない壁の存在に気付くと同時に,「チーム」「仲間」の必要性を感じます.
私は,大学卒業後,企業の研究開発部門に入社・配属されて以来,長年様々な形で本会にお世話になってきました.総合大会や研究会での発表・聴講はもちろん,コミュニケーションシステム研究専門委員会幹事,通信ソサイエティ総務幹事,総務理事など運営側のお仕事もさせて頂いております.こうした学会でのお仕事は,個による知識の習得はもちろんのこと,チーム・仲間による努力という観点でも一役買ってくれております.大学や他企業の研究者の方々との触れ合いは,思考の幅,価値観を広げ,高い見識をもたらします.ここで経験上言えることは,名刺交換だけで終わらせるのではなく,継続的にコミュニケーションを取ること,質の高いコミュニケーションを取ることが大切だということです.「忙しい」「今の研究に直接関係ない」など,継続しない理由は,言い出したら枚挙にいとまがありません.また,全く自分とは異分野の身の丈に合わない偉い人の話を聞いても,なかなかそのメリットを実感できず,良質な経験が得られません.変化の著しいこのVUCAの時代,そして不確かな情報があふれるこの時代に,現在の自分に合った質と量の双方を満たすことを可能とする学会という場は,非常に貴重だと思います.しかしながら昨今は,タイムパフォーマンスという名の下,随分と打算的な側面でしか学会活動を見て頂けないこともあり,少々寂しく感じます.損得抜きで議論をしたり,粋に感じて協力してくれたりする仲間と,時間をかけた分だけ,信頼関係は深まりますし,将来良いチャンスに巡り合える可能性が高まるにもかかわらず.
菅原道真公の「心だに誠の道にかなひなば…」という歌には,そんな短期的な努力ではなく,もっと「長い年月をかけて」という,人生100年と言われる時代を生きる我々に対する熱いメッセージが込められているのかもしれません.
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