小特集 3. 生成AI活用の海外事例

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Vol.108 No.8 (2025/8) 目次へ

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生成AIの光と影――安全な活用と未来への展望――

小特集 3.

生成AI活用の海外事例

Generative AI Implementation Worldwide: Case Studies

石角友愛

石角友愛 パロアルトインサイト

Tomoe ISHIZUMI, Nonmember (Palo Alto Insight, CA, 94301 U.S.A.).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.8 pp.797-804 2025年8月

©2025 電子情報通信学会

Abstract

 2022年11月30日にOpenAI社がChatGPTを一般公開して以降,生成AIの認知度は飛躍的に高まったと言える.利用者が極めて短期間で爆発的に増加したことも大きなニュースとなった(リリース5日間で100万人).今では生成AIコンテンツは,エンターテイメントだけでなく,ビジネスや学術といった幅広い分野で使用されるようになった.特に,海外ではインフラ産業や防衛・軍事といった分野などでも生成AI活用は顕著である.本レポートでは生成AIの活用事例を具体的に列挙し,生成AIの活用が進む背景や開発面での課題や展望について考察する.

キーワード:生成AI,海外事例

1.生成AI活用が進む背景

 生成AI(Generative AI)は,既存データを基に新しいコンテンツや情報を生成する人工知能技術である.生成されるコンテンツの種類は文章,画像,音楽,動画像など多岐にわたる.

 複数のコンテンツ形式を統合的に入出力するマルチモーダル化,新アイデアとインスピレーションを提供する創造的機能の実装,高性能GPUやクラウドコンピューティングの拡充といったソフト面とハード面の相乗効果によって,これから生成AIは更に急速な進化と利用拡大が予想される.

1.1 生成AI開発で重要視されるリソース

 生成AIの進化と利用拡大が進む中で,その「開発」が重大な意味を持つようになった.国や企業は,生成AI開発のイニシアチブを確立することで,国際競争で優位な立場を得ようとしている.そして,生成AI開発競争で重要になってくるのが次の三つのリソースである(図1).

図1 生成AI開発で重要視されるリソース

計算リソース

データリソース

人材リソース

 計算リソースは,生成AIモデルのトレーニングやコンテンツ生成の性能を担う.コンピューティングには,AIの並列計算に最適化された「GPU(Graphics Processing Unit)」,AI推論処理を効率化する「NPU(Neural Processing Unit)」,Googleが開発した機械学習の行列演算に強みを持つ「TPU(Tensor Processing Unit)」といった高性能チップが使用され,世界的に需要が伸びている.AWSやAzureといったクラウドコンピューティングサービスを契約し,計算リソースを提供してもらうという戦略も有効である.一方で,経済安全保障上の観点から計算リソースの国産化を求める声もある.

 データリソースはインターネット上の公開データ,政府や公共機関のオープンデータ,企業や組織が保有する独自データなどである.正確で信頼性のあるデータを多く利用することで,生成AIの品質は向上する.しかし,大量のデータ(ビッグデータ)の利用は簡単ではない.プライバシーや倫理といった問題が発生するからである.特に西側先進諸国ではプライバシーと倫理が重視される.そのため,正当性のあるデータリソース取得が重要となる.

 最後に人材リソースである.PythonやC++を使えるAIエンジニア,データの収集や分析を行うデータサイエンティスト,生成AIの新しいアルゴリズムやモデルを研究するリサーチャーが生成AI開発を支える.しかし,生成AI開発への急激な需要増加によって,人材供給が追いついていないのが現状である.各国は教育支援や産学連携プログラムなどの導入を通じて,生成AI開発に関わる人材を確保しようとしている.


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