小特集 4. 日本古典文化と生成AI

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生成AIの光と影――安全な活用と未来への展望――

小特集 4.

日本古典文化と生成AI

Japanese Classical Culture and Generative AI

北本朝展

北本朝展 正員 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構データサイエンス共同利用基盤施設 人文学オープンデータ共同利用センター

Asanobu KITAMOTO, Member (ROIS-DS Center for Open Data in the Humanities, Research Organization of Information and Systems, Tokyo, 101-8430 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.8 pp.805-809 2025年8月

©2025 電子情報通信学会

Abstract

 日本古典文化に関する生成AIのユースケースとして,作業支援,コンテンツ作成,コンテンツ加工の三つの事例を取り上げる.具体的には,作業支援について「IIIF Tsukushi Viewer」,コンテンツ作成について「Evo-Ukiyoe」,コンテンツ加工について「Evo-Nishikie」を題材に,技術的な概要や社会的なインパクトを紹介する.また,これらの生成AIの社会での受容について,オリジナルとフェイク,権利と倫理という二つの論点を中心に,文化領域に特有の問題を考慮する必要性について論じる.

キーワード:生成AI,日本古典文化,AIチャット,画像生成,画像カラー化

1.は じ め に

 日本は,長い歴史の中で生み出された過去の文化遺産を大切に保存してきた.例えば江戸時代以前に書かれた古典籍(複製された書籍類)や古文書(記録や通信のための一点ものの文書)については,今でも数億点程度が残存していると推定されており,この規模は世界的に見ても大きいと言える.それに対して,現代の日本人はその遺産を継承し,うまく活用できているだろうか.日本の資産である文化遺産は,人々の日常生活を豊かにするだけでなく,インバウンドを含めた観光資源として,あるいは世界に向けて日本への注目を高めるソフトパワーの資源として価値ある存在である.こうした資産を有効に活用するために,AIはどのように貢献できるだろうか.我々はAIの使い道として,過去の日本文化と現代の日本人との「距離を縮める」という役割に着目している.両者の間に存在するギャップをAIで橋渡しすることで,過去の文化へのアクセス性を向上させることができるのではないか.本稿はそうした方向を目指す生成AIのユースケースとして,筆者自身が関わった三つのプロジェクトを中心に概要を紹介する.

 2.では,生成AIの作業支援への利用,すなわちタスクの自動化や高度化への利用について述べる.歴史的日本語(古文)に対しても生成AIの実用性が着実に向上してきたため,過去のテキストを現代日本語で理解するというタスクに生成AIを利用する.

 3.では,生成AIのコンテンツ作成への利用,すなわち新しいコンテンツの生成への利用について述べる.日本文化のコンテンツを学習した画像生成AIにより,日本文化を反映した新しいコンテンツをプロンプトから生成するというタスクに生成AIを利用する.

 4.では,生成AIのコンテンツ加工への利用,すなわちコンテンツの一部を保持しつつ,そこに新たな要素を付加したり,既存の要素を改変したりする方法を述べる.日本文化のコンテンツを学習した画像生成AIにより,色のない画像をカラー化するタスクに生成AIを利用する.

 5.では,上記の生成AIに対する社会の反応をまとめる.生成AIの利用にあたっては,技術と社会の間に発生する摩擦がどんなものかを把握しておくことが重要である.本稿ではオリジナルとフェイク,権利と倫理などの論点を提示することで,今後の議論の叩き台としたい.


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