
聴覚障害者に情報を伝える
手話CG生成技術
Sign Language CG Generation Technology to Convey Information to the Deaf and Hard of Hearing People
Abstract
手話を母語とする聴覚障害者への手話による情報提供を拡充するための手話CG(Computer Graphics)生成技術の研究が進んでいる.本稿では,NHKが開発を進める手話CG生成システムを紹介するとともに,国内外で進められている手話翻訳や手話CG生成技術について紹介する.
キーワード:手話,情報保障,アクセシビリティ,聴覚障害,Computer Graphics
1. 聴覚障害者と手話
聴覚障害は,音が聞こえない,または聞こえにくい状態のことで,生まれつきの場合もあれば,病気や事故などによって後天的に生じる場合もある.障害の内容や程度によって個人差はあるものの,聴覚に障害のある人の多くは,日常生活における様々な場面で情報取得やコミュニーションなどに支障が出る.厚生労働省が実施した「平成18年身体障害児・者実態調査結果(注1)」によれば,日本国内の聴覚・言語障害者の数は約34万人とされている.コミュニケーション手段として,補聴器や人工内耳などの補聴機器を用いた音声言語による会話,筆談・要約筆記,読話,手話・手話通訳があり,手話・手話通訳を日常的に用いる人は約6万人と言われている.
手話は,手や指の形や動き,位置,顔の動きなどを用いて視覚的に表現する言語で,音声言語と文法体系が異なる自然言語である.生まれつき聴覚に障害がある,若しくは音声言語を習得する前の幼少期に聴覚を失った人にとっては手話が母語となる.
このような背景から,手話を言語として認識し,その普及を推進するために全国で手話言語条例が制定され,また手話に関する初めての法律である「手話に関する施策の推進に関する法律」が2025年6月に制定されるなど,手話を使うろう者をはじめとする聴覚障害者が安心して日常生活を送ることができる環境の整備が進められている.放送においても,提供される情報へのアクセスを高め,聴覚障害者の社会参加をより一層促進していくことが求められている.動画コンテンツの場合,音声情報を補う方法には,「字幕」と「手話」がある.手話を母語とするろう者から,日本語の字幕に加えて,手話によって情報アクセシビリティを向上する施策が求められている.
動画コンテンツに手話を付与するには,多様な話題について元の情報を理解して正確に伝えることができる専門的な知識やスキルのある手話通訳が必要となる.現在,様々な機関・団体で手話通訳の育成が進められているが,手話通訳の人数は限られている.放送局に手話通訳を常時確保することは難しく,災害時や緊急時に迅速に手話付与の体制を構築することは極めて難しい.このため,地震や津波などの緊急時でも迅速に,手話による情報提供を行うための技術開発が期待されている.
本稿では,その手段の一つとしてNHKで開発を進めている手話CG(Computer Graphics)生成システムについて述べるとともに,最新の手話関連の研究について解説する.

