人間拡張研究は,VR/AR,HCI,ロボティクスなどを統合する領域として,2010年代以降に大きく発展してきた.コロナ禍による遠隔化,生成AIやロボットの進展,少子高齢化による人手不足への対応を背景に,労働生産性とウェルビーイングを両立させるB2Bサービスビジネスの創出へ展開した.本稿では,産総研の人間拡張研究を俯瞰しながら,社会問題駆動型アプローチによって社会機能を拡張する研究への展開について解説する.
1.
人間拡張研究の俯瞰と展望
──人間の社会機能拡張を経て社会の機能拡張へ──
Overview and Prospects of Human Augmentation Research: From the Augmentation of Human Social Functions to the Augmentation of Society's Functions
Abstract
キーワード:人間拡張,HCI,XR,サービス学
1. は じ め に
人間拡張(Human Augmentation)という研究分野が学術的に認識されるようになって10年以上がたった.もちろん,それ以前からサイバネティクス,マン・マシンインタフェース,ウェアラブルコンピューティングなどとして,萌芽的に研究されてきたわけだが,国際的な学術集会(例えば,ACM Augmented Humans)が開催されたり,大学の研究室などに「人間拡張」を関する名称が使われたりしてきたのは,2010年以降であろう.遅ればせながら,産総研も2018年末に「人間拡張研究センター」を設立している.同じ頃,Gartner社のHypecycleにも「Human Augmentation」がキーワードとして登場し,AIやロボティクス,VR/ARを統合した新しい技術動向として注目されるようになった.2020年代に入り,生成AIやヒューマノイドロボットが急速に進展し,コロナ禍や少子高齢化社会への対応が求められた中で,人間拡張研究がどのような役割を果たしてきたか,これからどのように展開していくべきか,筆者が研究センター長を務めた産総研の人間拡張研究センターの活動を通じて俯瞰してみたい.
2. 産総研の人間拡張研究
人間拡張は,英語のAugmentationという言葉から分かるように,人間の心身の機能や能力を増強することを意味している.全く異なるものに置き換え,革新しようというものではない.ただし,人間拡張によってもたらされるアウトカムは十分に革新的なものになり得る.人間拡張のマップ図としては,暦本が提唱している図がよく知られている(図1)(1).ここでは人間の機能を身体能力,知覚,認知,存在の四つに分けている.ロボット的な拡張技術に基づく身体から,VRによるテレイグジスタンスまでが網羅的に類型化されている.何より「存在」という概念を人間機能として位置付けているところが面白い.筆者も,人間拡張研究センターの設立に当たり人間拡張のマップ図を提示した(図2)(2).筆者のバックグラウンドが人間工学であることもあり,こちらは,教科書的に人間機能を身体運動,感覚知覚,認知分析,コミュニケーションの四つに類型化し,更に個々の人間機能を向上させる技術,仮想空間を活用して遠隔化・規模拡大する技術の8象限に分けている.いずれにしても,人間拡張研究は,人間計測,ディジタルヒューマン,ロボティクス,VR/AR,HCI(Human Computer Interaction),バイオメカニクス,心理学など多様な学術分野を統合した研究領域ということになる.

