我々は,「インターバル速歩」を核とした「遠隔型個別運動処方システム」を開発し,一般中高年者10,000名以上を対象に5か月間の効果を実証してきた.その過程で,同運動の開始・継続を左右する因子として,遺伝子など先天的要因,運動の強度と量など物理的要因,仲間づくりなど心理的・社会的要因をそれぞれ検出した.そして,それらの要因に着目し,運動習慣の“拡張”を目指して,同システムのスマホアプリ化を行い,更に,運動の開始・継続を促進するサプリメントも同定してきた.本稿では,これまでの我々の研究結果を報告する.
3.
運動習慣の拡張を目指して
──遺伝子レベルからスマホアプリによる社会実装まで──
Enhancing Human Capacity for Exercise Adherence: From the Genetic Level to Social Implementation with Smartphone Apps
Abstract
キーワード:IoT,インターバル速歩,効果,運動習慣定着,遺伝子
1. は じ め に
最近のビジネス関係の記事によれば,「人間拡張とは,AIやIoTといったテクノロジーによって,人間の身体能力・知覚などを拡張させる技術のこと」と定義されている(1),.例えば,パワーアシストスーツは「身体能力」,遠隔操作ロボットは「存在」,補聴器は「知覚」,AI(Artificial Intelligence),AR(Augmented Reality)は「認知能力」といった,個人が現在持っているそれらの能力を補助・拡大するテクノロジー,という意味で“人間拡張”という言葉を用いている.一方,本稿でいう“人間拡張”とは,個人が現在持っているそれら身体特性を改善・向上するテクノロジー,という意味で用いている.大雑把に言えば,前者は,飽くまでも個体に対して“外付け(加算的な)”のテクノロジーであるのに対し,後者は個体の“身体特性自体を変革する”テクノロジーである.本題に入る前にこの点を断っておく.
2. 加齢性疾患の根本原因は体力の低下にあった
図1で示すように,我々の体力は20歳台をピークとし,その後,30歳以降10歳加齢するごとに10%ずつ低下する.それは,何も怠惰な生活をしているからではなく,肌にしわが寄ったり,髪の毛が白くなるのと同様,加齢現象の一つ「加齢性筋量減少症(サルコペニア)」のためとされる.そして,この体力の低下が20歳台の30%を下回ると「要介護」状態となる.自分一人でトイレに行けない,お風呂に入れないといった自立した生活が送れなくなる.もう一つ興味深いのは,同じく図1で示すように,この加齢に伴う体力の低下と年間医療費が見事に相関することである.すなわち,30歳以降の医療費の増加は,中高年特有の疾患の有病率増加によると考えられるが,その根本原因が加齢による体力の低下であり,運動トレーニングによって体力を向上しさえすれば,これらの疾患を予防・治療できるのではないか,という仮説が成立する.

