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Vol.109 No.2 (2026/2) 目次へ

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4.

社会を大きく拡張し得る「ディジタルワーク」の本質的価値

The Inherent Value of Digital Work: Its Potential for Large-scale Social Expansion

星野尚広

星野尚広 (株)エクオル

Naohiro HOSHINO, Nonmember (aequol inc., Tokyo, 107–0061 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.109 No.2 pp.104–109 2026年2月

© 2026 電子情報通信学会

Abstract

人手不足が深刻化する中,VR,メタバース,遠隔操作ロボットなどの拡張技術を活用した新たな働き方に期待が寄せられている.エクオルもそうした新技術に着目する企業の一つだが,当社は個人の能力を拡張する技術そのものより,それがもたらす社会拡張にこそ本質的価値があると捉えている.本稿では,接客領域における人材能力の「複製」の重要性を示し,それを可能にする「ディジタルワーク」に対するエクオルの視点や構想を紹介した上で,活版印刷がもたらした社会拡張との比較により,「ディジタルワーク」が持つ社会拡張の潜在性を検証する.

キーワード:ディジタルワーク,感情労働,空間的・時間的同時性,複製アプローチ,AIボットエージェント

1. 序論──人間拡張と社会拡張──

技術の進展がもたらす「拡張」の概念は,二つに分類できる.一つは個の能力を拡張する「人間拡張」.もう一つは個の能力拡張の結果としてもたらされる「社会拡張」だ.この二つの拡張は排他的な関係にあるのではなく,むしろ相互補完的な関係を持ち,多くの技術革新において両立している.

歴史的事例を見ると,17世紀にガリレオ・ガリレイが用いた望遠鏡は,この二重の拡張効果を分かりやすく示している.望遠鏡は個人の視覚能力を拡張する装置として機能したが(人間拡張),同時にそれによって宇宙に関する研究が飛躍的に進歩し,天動説から地動説への科学革命を促した(社会拡張).現代のディジタル技術も同様の構造をしている.インターネットやスマートフォンの普及は,個人の情報アクセス能力を劇的に拡張した(人間拡張)と同時に,情報社会の形成を促し,電子商取引,SNS,テレワークなどの新たな社会システムを生み出した(社会拡張).また,情報へのアクセスが民主化されることで,既存の情報格差が縮小し,知識社会への転換が加速している.

通常,「拡張」という語から想起されるのは「人間拡張」の方であろう.現代のVR技術が使用者の没入感を高める例や,AR技術が現実空間に情報を重畳表示する機能は,拡張のイメージと直接的にリンクしやすい.これらの技術は確かに個人の認知能力や知覚能力を一時的に拡張する効果を持つ.しかし,社会の進化方向というより大きなトレンドを把握する上では,「人間拡張」の集積やその結果としてもたらされる「社会拡張」に着目する必要がある.技術革新がもたらす社会拡張は既存の社会構造そのものを変革する潜在力を持つからだ.

今後起きるディジタル技術革新も,この歴史的パターンの延長線上に位置付けることができる.特に労働分野における技術活用は,個人の作業効率向上(人間拡張)から,労働市場構造の根本的変化(社会拡張)へと展開する可能性を秘めている.以上を踏まえ本稿では,同視点から「ディジタルワーク」の本質的価値を考察し,その社会拡張効果の可能性を検証する.


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