
* 今月号の小特集であるISAC(Integrated Sensing and Communication)は,無線通信のための信号や資源を,同時にセンシング(位置・速度・形状や周辺環境の推定)に使うことを目指す技術です.従来の無線通信では,反射や散乱,移動体によるドップラーなどは通信品質を乱す要因として扱われ,推定して補償する・影響を受けにくくする方向で技術が磨かれてきました.ところがISACは,これまで通信にとって望ましくないとされてきた成分の中から,空間の情報を読み取るという発想の転換を行います.通信のための信号を環境観測の手がかりとしても生かし,波形やビーム,資源配分を工夫しながら,データ伝送と環境推定を同じ無線システム上で両立させる.一見すると余計に見えるものを意味ある信号として捉え直すところに,この分野の面白さと難しさがあります.
* この発想の転換は日常にも通じるところがあります.私自身でいえば,子育てのときでした.最初は赤ちゃんの泣き声はどれも同じように聞こえ,何を訴えているのか分かりません.けれど,泣き方の違いに加えて,手を口にもっていくといった仕草や,時間帯・直前の出来事を合わせて見ると,空腹なのか眠いのかといった推定が少しずつできるようになります.こちらが「観測の仕方」を工夫すると,同じ泣き声が単なる騒がしさではなく,赤ちゃんの気持ちを代弁する手段に変わっていきます.
* 4月,新しい生活が始まる方も多いかと思います.慣れない環境で感じる違和感や戸惑いも,少し受け止め方を変えれば,日常を好転させる手がかりになるかもしれません.本特集が,そうした捉え直しのきっかけになれば幸いです.
(編集特別幹事 鈴木晃人)
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