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Vol.109 No.5 (2026/5) 目次へ

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タイトル7.

ICTのフル活用によるデータ駆動型農業の実現

Realizing Data Driven Agriculture by Utilizing ICT

中川路哲男

中川路哲男 正員 農業・食品産業技術総合研究機構

Tetsuo NAKAKAWAJI, Member (National Agriculture and Food Research Organization, Kawasaki-shi, 211–0066 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.109 No.5 pp.376–381 2026年5月

© 2026 電子情報通信学会

農家の高齢化が急速に進む日本では,担い手不足が深刻となっており,生産性の向上が喫緊の課題となっている.本稿では,今後の農業において気象・土壌といった変動する自然環境や,作物の多様な生育に関するデータを活用するデータ駆動型農業の重要性を述べ,そのデータを活用したAI事例,そしてそれらAIによるサービスをAPIとして提供するデータ連携基盤WAGRIなどのICT活用事例を紹介する.これらのICTをフル活用することにより,経験と勘に頼ってきた従来の農業から脱却し,省力化による生産性向上,魅力的な食品提供による輸出拡大,減農薬による地球環境保護を同時に実現する持続可能な農業の未来像を描く.

キーワード:データ駆動型農業,農業用生成AI,データ連携基盤

1. はじめに(農業とICT)

インターネットの普及と,その上でのデータ流通は私たちの日常生活を大きく変えた.外出する際は,スマホで天気を調べ,電車の運行状況に問題がないことを確認し,地図アプリの案内で目的地に到着する.もし事故などが起きれば通知が来る.連絡を取りたい相手とチャットやメールでやりとりする.このようにデータを活用し,その裏ではAIが動き,ICTによって毎日を安全・安心・快適に過ごすことが当たり前になってきている.

一方,農業という分野に目を向けると,生産者の高齢化が進み,2024年時点での基幹的農業従事者の平均年齢は69.2歳,2023年に約116万人だった基幹的農業従事者数が2050年には36万人にまで減少すると見込まれるなど,食料自給率の低下や食料安全保障への懸念に直結する危機的な状況になりつつある.それにもかかわらず,様々な産業分野で生産性向上に威力を発揮しているICTの活用が,農業分野ではまだあまり進んでいない.その原因を分析してみると幾つかの課題が浮かび上がる.

(1)データがデジタルデータとして蓄積されてきていない.

(2)野外での活動が主であり,自然環境下での人間の機器操作やロボット機器動作が難しい.

(3)日本は地域によって気候が大きく異なり,作る品種もまちまちであり,生産形態のレパートリーが多様である.

一方近年では,ドローンや人工衛星,センサなどのセンシング機器が充実し,気象や作物の生育状況など,多種多様なデータを連続的かつ正確に取得することが可能になってきた.野外での無線通信環境も整ってきており,エッジでのデータ処理能力も格段に向上した.トラクタ・コンバインといった農機や,栽培・収穫を行うロボットにもAIが搭載されつつある.これからの農業は,それらのICTをフル活用することで,生産性の向上だけでなく,より精緻な状況判断や予測に基づく新しい作物生産形態が期待できる.

本稿では,まず2.で農業に関するデータを概観したのち,3.でそのデータを活用したAI事例を幾つか紹介する.また4.では,それらのデータやAIを産業利用するためのデータ連携基盤WAGRIを紹介し,ICTをフル活用したデータ駆動型農業の将来像を描く.


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