9.
Physical AIの新展開
──ムーンショットから産学連携データ基盤構築まで──
New Developments in Physical AI: From Moonshot Goals to Industry-Academia Data Infrastructure

近年の機械学習の進展は,ロボット制御における「Sim to Real」問題を克服し,ヒト型ロボットによる複雑な動作を可能にした.現在,研究の焦点は単なる移動から,上半身を用いた器用な「作業」へと移行している.本稿では,物理的実体を持つAI「Physical AI」の現状を概観し,筆者が推進するムーンショット目標3での汎用型AIロボット「AIREC」の開発事例を紹介する.あわせて,国内のデータ基盤構築を目指すAIロボット協会(AIRoA)の活動や,学術的課題に挑むCRESTプログラムの取組みを通じ,日本が目指すべきAIロボット戦略の展望を論じる.
キーワード:Physical AI,模倣学習,汎用AIロボット,データエコシステム,CREST
1. は じ め に
近年のAIロボット技術の進展は目覚ましく,ヒト型ロボットが複雑な動作をこなすデモンストレーションが世界中で公開されている.この躍進の鍵は,機械学習(AI)がロボットの制御を可能にした点にある.かつてロボット開発の大きな障壁であった,シミュレーションと実世界のギャップ「Sim to Real」問題は,歩行ロボットの強化学習において一部克服されつつある.
現在,研究の焦点は単なる「移動」から,上半身を用いた器用な「作業」へと移り,人間の代わりに複雑なタスクを遂行する能力が求められている.本稿では,物理的な実体を持つAI「Physical AI」の現状を概観するとともに,筆者が携わるムーンショット目標3での研究事例,更には産学官が連携してデータ基盤構築を目指すAIロボット協会(AIRoA: AI Robot Association)や,学術的課題に挑むCRESTプログラム(注1)の取組みを紹介し,日本が目指すべきAIロボット戦略の展望を述べる.
2. Physical AIのブレークスルーと現状
2.1. 強化学習によるブレークスルー:「Sim to Real」問題の克服
近年のAIロボットの技術進展は目覚ましく,ヒト型ロボットによる多様なデモンストレーションが世界中で公開されている.この革命的な進展の鍵は,紛れもなく機械学習(AI)がこれらの複雑な動作制御を可能にした点にある.
特に,AIロボットの制御技術にブレークスルーをもたらしたのは,2021年にスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)が発表した研究である.この研究は,ロボットがトライ・アンド・エラーを通じて学習する強化学習を,シミュレーション環境の中だけで完結させるという,画期的な手法を実証した(1).
従来のロボット開発における最大の障壁の一つが,シミュレーションで学習したプログラムを実機に適用した際に,実世界の複雑性や予測不能な要因(ノイズ,摩擦,センサーの誤差など)に対応できず,動作が破綻してしまう「Sim to Real」問題であった.
ETHの研究チームは,この課題に対し現実よりも意図的に遥かに不安定で厳しい環境条件をシミュレーション内部に設定して学習させるという,逆転の発想とも言える戦略をとった.具体的には,極めて多様な形状の地面や,予期せぬノイズを大量に加えたりする学習環境を構築した.これにより,実機にこのアルゴリズムを導入した際,ロボットは外部環境の変化に対して極めて高いロバスト性(頑健性)を持つ動作を獲得することに成功した.
この成果は,シミュレーション内の学習だけで現実の脚型ロボット全般を安定的に歩かせられるという革命的なものであった.この成功以降,関連する手法や,それに対応した高性能なモーター,アルゴリズムが積極的に公開され,現在では,専門家でなくとも,熱意ある大学院生であれば(中国製の)ヒト型ロボットを制御できる時代へと突入している.
2.2. 二足歩行の次の焦点:上半身タスクの重要性
かつて二足歩行は,日本のホンダASIMOやトヨタ,ソニーなどが,特定の熟練技術者による緻密なバランス制御とメカニズムの調整によって実現していた極めて特殊性の高い技術であった.しかし,当時は物体認識,言語理解,ハンドリングといったAI技術が未成熟であったため,高度な歩行能力を持ちながらも,実用的なマーケットを形成することは困難であった.
しかし現在,AI技術の進化により,二足歩行におけるバランス制御自体は誰でも実現可能なレベルに近づいている.その結果,研究の焦点は「移動」から「作業」へとシフトしている.特に,上半身を使った器用なタスクの実現こそが,実用化に向けた真のブレークスルーポイントとなっている.
特に米国のロボット企業のデモンストレーションでは,派手な飛行やジャンプといった移動能力よりも,物をつかむ,道具を使う,環境と相互作用するといった上半身のタスクに重点が置かれるようになっている.これは,実社会におけるロボットの価値が,移動能力だけではなく,人間の代わりに作業を遂行する能力にあるという認識の現れである.
2.3. 変形物体への挑戦と模倣学習の台頭
上半身タスクの中でも,最も難易度が高い領域の一つが,袋,液体,生地などの「非剛体物体」,すなわち変形しやすい物体を正確にハンドリングするタスクである.
これらの非剛体物体の挙動をシミュレーション内で正確に,かつ効率的に再現することは極めて困難である.シミュレーションによる学習が現実の複雑性に追いつかないため,ばくだいな計算資源と電気代を費やしてシミュレーションを行うよりも,実世界で直接学習させた方が費用対効果が高いという状況が生まれている.
しかし,実機での試行錯誤(強化学習)はロボットの破損リスクが高いため,現場での学習は「模倣学習(Imitation Learning)」が主流となっている.これは,人間が実際にロボットを遠隔操作したり,動作を実演したりすることによって,大量のデータを収集し,その動作をロボットに写し取らせる手法である.このデータ駆動のアプローチにより,例えば,Figure社のデモンストレーションでは,袋のバーコードが正しい位置にくるように向きを変えるといった,非常に複雑で器用な作業が可能となっている(2).
このデモンストレーションでは,フェイクでないことを担保するため,自律動作の動画を,1時間ノーカットで公開している.これは,人間の遠隔操縦や生成AIによる動画では難しく,学習によって獲得された複雑なスキルの証明となっている.デモ動画が,長い時間,ノーカットで公開されることには,重要な意味がある.つまりこれはCGや編集によって「できた瞬間」だけを切り取った動画では証明できない,動作のロバスト性,継続性,そしてその背景に人間によるリアルなデータ収集が存在することの証明となる.
2.4. データ収集競争の激化とエコシステムの変化
模倣学習を支えるのは,大規模言語モデル(LLM)と同様に,異常とも言える量のデータ収集競争である.教えるデータの量が多ければ多いほど,ロボットはより賢く,より器用に,そしてよりロバストに動くようになるとされる.
例えば,Google,OpenAI,テスラといったビッグテック企業は,豊富な資金力を背景に膨大な量の実世界データを収集し続けている.一例として,NVIDIAのワールドモデルCosmosは,動画データだけで2,000万時間分(約2,300年分に相当)もの学習をしている(3).この巨大なデータセットの構築こそが,現在のAIロボット技術を牽引する競争の核心となっているのである.
更に巧妙なのが,データの経済圏を構築する戦略である.ヒューマノイドロボットのスタートアップ1X Technologies社は,従来の相場より大幅に安価な約300万円という低価格でロボット「NEO」を2026年度に販売する予定である(4).当初,このロボットは限定的な自律動作しかできず,メインは人間の遠隔操縦となるが,これにより,実際に現場で働く環境のデータを効率的に収集するという目的が達成される.ユーザーは安価にロボットを入手でき,企業は現場の貴重なデータを獲得できる,という形で市場を形成し,データ収集を加速させる.
AIロボット開発のエコシステムも変化している.Hugging Faceをベースとする「LeRobot」などの開発環境や(5),行動学習用の基盤モデル(Vision-Language-Action Model)がオープンソース化され始め,専門的な知識を持たなくても,安価なロボットと機械学習の知識を用いて自律動作の競技ができる段階に到達した.ロボットを皆が「遊べる」時代が,技術の民主化によって実現しつつある.
2.5. End-to-Endアプローチと内部構造の自動獲得
この技術的な変革の根底にあるのは,言語モデルと同様の「End-to-End」というアプローチである.
伝統的なロボット制御は,人間が物体の3次元モデル,逆運動学(目標位置から関節角度を計算する),把持計画といった内部構造や手順を緻密に定義し,プログラミングする必要があった.しかし,End-to-End学習では,カメラからのピクセル単位の画像情報などのセンサーデータを直接入力とし,モーターのトルクや動作を直接出力とする.この大量のデータに基づく学習により,人間が定義したフレーム(枠組み)を介さない方が,ロボットはかえって柔軟で,実世界に即した動作を獲得できるという利点がある.例えば,予期せぬエラーが発生した際のリカバリー動作など,人間が明示的にプログラムしていない動作が,自律的に出現する.これはEnd-to-End学習の非常に興味深い側面である.
3. ムーンショットでの研究事例──汎用AIロボットへの挑戦──
筆者が研究総括(PM)を務めるムーンショット目標3は,「2050年までに,AIとロボットの共生により,誰もが多様な社会活動に参画できる社会を実現する」という野心的な目標を掲げている(6).この計画が目指すのは,単に高性能なロボットを開発することではなく,人間とロボットが協調し,互いの強みを生かし合う新しい社会モデルの構築である.
この計画は生成AI以前の2020年にスタートしたが,その当時から「汎用型AIロボット」実現を核とした.現在のスマートフォンが,カメラ,電話,ゲーム機などの機能を統合し,一つのプラットフォームとして爆発的な普及を遂げたように,ロボットも,掃除,料理,介助など,用途が限定された専用機から脱却し,「スマートロボット」として汎用的な知能と身体を持つべきである,というビジョンである.これは現在のPhysical AIそのものと言える.
汎用AIロボットが実用化されれば,人間がスマートフォンを使うように,一つのロボットハードウェアに対し,様々なAIアプリをダウンロードして,多様なタスクをこなせるようになる.これが,AIロボットが真に社会インフラとなり,普及するための鍵となると考えている.
3.1. 研究事例──AIRECシステムの開発と実証──
この汎用AIロボットの実現に向けて,我々が開発しているのがAIREC(AI driven Robot for Embrace and Care)である.AIRECは,ロボット本体,各種センサー,そしてEnd-to-End学習のためのプラットフォームであり,人間とロボットの共存を目的とした設計が施されている.
AIRECのデモンストレーションは,人間にとって日常的だが,ロボットにとっては極めて難しいタスクの実現に焦点を当てている.例えばその一つに,スクランブルエッグ調理の事例がある(7)(図1).スクランブルエッグの調理は,単なるかき混ぜ動作ではない,卵の状態に応じた複雑な要素が絡み合うタスクである.卵が,熱によって流体から固体へと状態変化していく過程をリアルタイムで認識する必要がある.その状態に合わせて,ヘラという道具を利用して卵を中央へ向ける動作や,カッティングに似た動作が必要で,見た目のテクスチャ(質感)と色の変化,更に触覚の状態に依存する.人間はまさに暗黙的なスキルによってこれを行うが,ロボットにとっては,これをプログラム化することはほとんど不可能に近い.

我々は,この一連の調理プロセスを,マルチモーダルな注意機構を有する模倣AIによって実現した.具体的には,人間がAIRECのアームのインピーダンス制御を利用することでアームを直接把持した状態で教示を行う.30回以上スクランブルエッグを調理する過程で,AIRECはその動作を視覚とハンド内の触覚を統合した模倣学習を行う.モダリティの注意機構を導入した学習の結果,調理初期状態では主に視覚を利用しているが,調理後半では主に触覚情報を利用していることが判明した.またこの学習結果は混ぜご飯など,他の調理にも援用可能であることが確認されている.
もう一つの重要な研究事例に介助動作がある.これは,特に日本における喫緊の社会課題に対応するものであり,ロボットの社会実装の最も高いニーズがある分野の一つと言える.
この研究では,AIRECによる介護支援,中でも「体位変換介助」をタスクとした(8)(図2).これは,身体の不自由な方の健康維持やQOL向上に直結する重要な技術である.しかし,患者との柔軟な接触を伴うこのタスクには,部位に応じた適切な力の調整や,位置の不確実性への対応といった高度な課題が存在する.本研究では,自己受容感覚と視覚的アテンションを統合した深層予測学習モデルと,インピーダンス制御を組み合わせた新しい制御アーキテクチャを提案している.Dry-AIRECを用いた実証実験では,過度な負荷をかけずにマネキンの背中へ手を差し入れ,仰臥位から抱き上げ動作へとスムーズに移行できることを確認した.

これらのAIRECにおける実証は,ロボットが工場などの閉鎖環境から脱却し,予測不能なオープンな実社会で,人間と協調しながら複雑な作業を遂行できることを示している.これらのデモンストレーションにおいても,上記したリアリティを確保するためにノーカットの動画を公開している.
4. AIロボット協会(AIRoA)と尾形CRESTの目指すもの
上記のムーンショットのような研究活動に加えて,現在,AIロボット活用を促進するための産学連携の仕組みづくり,そしてAIロボットの基礎研究の推進を行っている.この二軸が,筆者が理事長を務めるAIロボット協会(AIRoA)と,同じく筆者が研究総括をしているCREST「実環境知能システムを実現する基礎理論と基盤技術の創出(略称:実環境知能システム)」である.
4.1. 産業界主導のデータ連携──AIロボット協会(AIRoA)──
3.で詳述したように,世界のAIロボット開発は,巨大テック企業が主導する,大規模な実世界データ収集競争の渦中にある.彼らは潤沢な資金力を背景に,ロボットの普及を通じて,例を見ない規模の行動データを集積している.
これに対し,日本が単独で対抗するのは極めて困難である.日本は,世界のロボット市場において,産業用ロボットや応用事例の数では圧倒的な強みを持つものの,これらの事例がデータとして共有・活用される仕組みが確立されていなかった.
この状況を打開するため,経済産業省やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受け,AIロボット協会(AIRoA: AI Robot Association)が設立された(9).筆者は,この協会の理事長を務めている.
AIRoAの設立目的は,日本の企業や研究機関が個別に保有している貴重なロボット・AIデータを共通の基盤上で連携・活用し,国際競争力を高めることにある.具体的には,以下のような仕組みを構築することを目指している(図3).

① 圧倒的に不足するロボティクス分野の動作データを協会で収集しデータ基盤を構築する.
② このデータ基盤にあるデータを用いて協会でベースとなるロボット基盤モデルを開発する.
③ 基盤モデルを基に会員企業のニーズにあった個別モデルをファインチューニングする.またこのファインチューニングに用いたデータをフィードバックして頂く.
④ 会員企業が基盤モデル/個別モデルを組み込み,社会実装し評価する.
⑤ 創出されたデータ(でフィードバック可能なもの)をデータ基盤に還元・蓄積し,データ基盤とモデルをアップデートしていく.
4.2. 学術的課題への挑戦──尾形CREST「実環境知能システム」──
AIRoAが産業界との連携を通じて短期的な社会実装を目指すのに対し,文部科学省・JST(科学技術振興機構)の尾形CRESTプログラムは,ロボット基盤モデルにおける根本的な学術的課題の解決を目的としている(10).
現在のロボット基盤モデルの根本的な課題として,(1)AIモデルの構築方法,(2)AIにあった身体(ハード)の構築方法,(3)AIロボット開発のための基盤技術,という三つがある.例えば,(1)に絞っただけでも代表的な問題として,以下の3点があると考えている.これら3課題を含む尾形CRESTの概念図を図4に示す.

課題1:膨大な必要データ量と人間的な知能の欠如
ロボット分野だけでなく,現在のAI基盤モデルは全て,膨大な量のデータに依存している.公開されているロボット基盤モデルの多くが極めて長時間の動画や行動データを必要とする一方で,人間(子ども)は,比較的少量の経験から多くのことを学習し,汎化できる.AIロボットが真に人間と共生するためには,このデータ効率性を根本的に改善しなければならない.データ量が異常に多い現状は,知能の本質的な理解に到達していないことを示唆している.CRESTでは,数理的アプローチ,人間の発達学習を参考とするアプローチなど,様々な学術的知見を組み合わせてこの問題に挑戦する.
課題2:継続的な発達・学習の欠如
現在のAIモデルは,大規模データの学習が完了し基盤モデルを構築すると,一部の重みはファインチューニングするものの,その大部分の重みは固定される(フリーズされる).追加の学習を行うと,過去に学んだことを忘れてしまう「破局的忘却(Catastrophic Forgetting)」という現象が発生するためである.
これに対し,人間は生涯にわたって新たな知識やスキルを学習し続ける.AIロボットが汎用性を持ち,社会で長く活躍するためには,この継続的な発達と学習の能力が不可欠である.CRESTでは,新しいタスクを学ぶ際に過去の知識を応用し,忘却を克服するメカニズム,すなわち知能の発達モデルの構築に取り組む.
課題3:リアルタイム性の概念不足
現在のAIの研究の多くは,学習プロセスを重視しており,推論や意思決定がリアルタイムで行われることの重要性が十分に考慮されていない.ロボットが実世界で動くためには,秒単位,ミリ秒単位での環境変化に対応し,即座に行動を決定する必要がある.CRESTでは,このリアルタイムな予測と制御を可能にする,より効率的で動的なAIアーキテクチャの研究に焦点を当てている.
更に(2)AIにあった身体(ハード)の構築方法,であれば,AIの学習に適した(例えばシミュレーションでの再現性が高い)センサーやアクチュエータ設計,(3)AIロボット開発のための基盤技術,であればエッジ基盤,通信基盤,オープンな開発環境,などが研究対象になる.
これらの課題を踏まえ尾形CRESTでは,基盤モデルのトレンドを的確に捉えつつも,それを大幅に活用する提案や,全く異なるアプローチで根本的解決を目指す提案を,2025年度に五つ採択している.2027年までに合計15件程度の提案を採択する予定である.
AIRoAが「急いで社会実装」を掲げる裏で,CRESTは「本質的な問題をアカデミックで解決する」という役割を担い,両輪で日本のAIロボット研究を推進しているのである.
5. ま と め
──今,AIロボット研究に取り組む意義──
今日のAIロボット技術の進展は,まさに「AI研究者」と「ロボット研究者」,あるいは情報学と機械工学の融合によって推進されている.
AI研究者(情報学)の側では,ネット上のデータが既に枯渇しつつあり,これ以上の知識獲得には,実世界にあるデータや,実世界に働きかけてデータを取得する仕組みを求めている.AIRECや模倣学習の普及は,このニーズの明確な現れである.
逆にロボット研究者(機械工学)の側ではハードウェア技術は長年の蓄積により一定水準に達しているが,AIがなければ,複雑な環境認識や汎用的な知能を搭載できず,マーケットを形成できない状況にあった.
両者は相互に強く必要とし合っている.AI研究者は実世界のデータ供給源としてロボットを求め,ロボット研究者は知能とマーケット形成の鍵としてAIを求めている.この相互作用が,AIロボット研究を爆発的に加速させている最大の要因である.
筆者が早稲田大学に設立したAIロボット研究所は(11),まさにこの分野の融合を目指している.機械工学,情報学,加えて人文科学,社会科学が一体となり,ロボットの身体(メカニズム)と知能(AI)を統合的に研究する体制を構築した.これは,伝統的な工学分野の垣根を越え,真に人間と共生できる知能を持ったロボットを創造するための,文理融合的なアプローチである.
我々は2020年にムーンショットにおいて,AIロボットが社会のインフラとして普及し,誰もが多様な社会活動に参画できる「共生社会」を実現するというビジョンを立てた.現在,それはまさに実現する方向に進んでいると感じている.AIRoAとCRESTの二軸戦略は,このビジョンを現実のものとするための戦略であると考えている.
文 献
(1)T. Miki, J. Lee, J. Hwangbo, L. Wellhausen, V. Koltun, and M. Hutter, “Learning robust perceptive locomotion for quadrupedal robots in the wild,” Science Robotics, vol. 7, no. 62, 2021.
(2)https://www.figure.ai/news/helix(2025年12月現在)
(3)NVIDIA著者多数,Cosmos World Foundation Model Platform for Physical AI, arXiv:2501.03575, 2025.
(4)https://www.1x.tech/neo(2025年12月現在)
(5)https://huggingface.co/lerobot(2025年12月現在)
(6)https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal3/index.html(2025年12月現在)
(7)N. Saito, M. Tatsumi, A. Kubo, K. Suzuki, H. Ito, S. Sugano, and T. Ogata, “Learning multimodal attention for manipulating deformable objects with changing states,” Proc. IEEE-RAS 24th International Conference on Humanoid Robots (Humanoids 2025), 2025.
(8)T. Miyake, N. Saito, T. Ogata, Y. Wang, and S. Sugano, “Deep predictive learning with proprioceptive and visual attention for humanoid robot repositioning assistance,” Proc. 2025 IEEE/RAS International Conference on Intelligent Robots and Systems (IROS 2025), 2025.
(9)https://www.airoa.org(2025年12月現在)
(10)https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/research_area/bunya2025-2.html(2025年12月現在)
(11)https://www.waseda.jp/inst/fro/institutes/ai(2025年12月現在)
(2025年12月27日受付 2026年1月7日最終受付)
(注1)JST(科学技術振興機構)が運営する,戦略目標達成に向けた基礎研究を推進する事業.研究チームを編成し,革新的技術の種を創出することを目的としている.


