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Vol.109 No.5 (2026/5) 目次へ

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タイトル13.

量子コンピュータがAIにもたらす可能性

Potential of Quantum Computing for AI

御手洗光祐

御手洗光祐 大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻

Kosuke MITARAI, Nonmember (Graduate School of Engineering Science, The University of Osaka, Toyonaka-shi, 560–8531 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.109 No.5 pp.413–417 2026年5月

© 2026 電子情報通信学会

近年,AI技術は目覚ましい成功を収めているが,その計算基盤である古典コンピュータ上では効率良く解くことが困難であると考えられている学習問題が存在する.本稿は,このような原理的な壁を,新しい計算パラダイムである量子計算の導入によって乗り越えられる可能性について議論する.量子コンピュータが古典計算では効率的に表現・生成できない確率分布を扱えるという理論的優位性を概説した後,現実のデータセットに対する実践的なアプローチについても概観し,それらの現状の性能と課題を整理する.

キーワード:量子コンピュータ,量子機械学習,量子特徴量,学習理論

1. 現状の延長線上のAIにできないこと

近年,深層学習をはじめとするAI技術は,画像認識から自然言語処理,科学的発見に至るまで,多岐にわたる分野で目覚ましい成功を収め,社会の様々な課題解決に不可欠な存在となりつつある.しかし,その輝かしい成果の裏で,現代の計算機(古典コンピュータ)を基盤とするAIが原理的に解くことが困難だと考えられている問題も存在する.

その代表例が,図1に示すような,現代の暗号技術の安全性を支える素因数分解に関連した学習タスクである.ある学習理論の枠組み(具体的にはPAC学習理論)では,もし素因数分解に関連する何らかのパターンを効率的に学習できる古典AIが存在するならば,それは素因数分解問題そのものを効率的に解くアルゴリズムの存在につながることが,理論的に示されている(1).したがって,「素因数分解が古典コンピュータ上で困難である」という計算量理論上の強い信念は,「それに関連する学習タスクを,古典コンピュータによって解くことも困難である」という信念と表裏一体となる.これは,古典コンピュータ上で動作するAIが直面する,原理的な壁の一例と言える.

この壁を乗り越えるための一つの方策として,新しい計算基盤として量子計算を導入することが考えられる.本稿ではまず,量子計算が古典計算に対して有する計算量理論的優位性を整理し,次いでその性質を活用することで,どのような機械学習タスクが原理的に可能となり得るのかを,設計指針と具体例を交えて検討する.

古典コンピュータでは困難であると考えられる機械学習タスクの例


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