
会長就任にあたって
──“Connecting X”で新たな価値を創造しよう!──
Message from the President : Toward New Value Creation with “Connecting X”
1. はじめに(信学会との関わりの変遷)
このたび,電子情報通信学会(以下,本会と呼ぶ)の第103代会長を拝命しました,辻ゆかりです.歴史ある本会の舵取り役を担わせて頂く重責に,身が引き締まる思いです.会員及び幅広い関係者の皆様方と協力し,本会を盛り上げていきたいと考えておりますので,どうぞよろしくお願い致します.
はじめに,自身の本会におけるこれまでの活動について,自己紹介を兼ねて簡単に紹介させて頂きます.私は,1989年にNTTに入社以来,ネットワーク関連の研究所で,ネットワークアーキテクチャの検討やATMスイッチの開発,ITSサービスの研究開発等に携わってきました.その間,研究者として本会の研究会や大会等に参加してまいりました.特に,同じ分野の方々と交流を持つことを楽しみに,地方開催の研究会を探しては,そのタイミングを狙って発表していたことを思い出します.(『必要は発明の母』と言いますが,行きたい場があると,その研究会までには何とか成果を出すよう頑張る―いわば“ニンジンぶら下げ方式”で仕事をしていた,というのが正直なところです.あしからず.)

その後,研究所内でマネジメントを任されるようになり,研究発表の場からはしばらく離れておりましたが,役員として本会に関わるようになりました.2016年から2017年にかけて総務理事を務めた際には,まさに本会の創立100周年のまっただ中でしたので,100周年記念史の準備から記念行事の司会・報告書執筆まで,やらなければならないことが半端なく多く,黒子役として必死に走り回りました.会社業務(当時は研究所長)と並行しての総務理事の職務は,なかなか痺れるものがありました.また,そろそろコロナが明けようという2021~2022年には通信ソサイエティ会長を務めさせて頂きました.この頃は,ようやくコロナが一段落してきた時期で,アフターコロナ第一弾イベントとして,ICETC(通信ソサイエティ主催の国際会議)を北海道で開催したのが一番の思い出です.久しぶりにFace-to-Face中心に,とはいえ,集合形式に対する心理的バリアがまだまだある時期でしたので,リモート参加も可能としたハイブリッド開催とすることを決断しました.ハイブリッド開催にあたっては,参加費の設定・申し込み受付方法から,会場の音響設備準備やら,オンライン配信環境での会議の進行方法まで,全てが暗中模索で,推進チームの皆さんには随分御苦労をおかけしました.結果的にはとてもいい国際会議となり,うまく次にバトンをつなげることができたかと思います.このように,通信ソサイエティ会長までさせて頂きましたので,もう次はないだろうと高をくくっておりましたら,今回,会長という大役を仰せつかった次第です.
さて,既にお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが,これまで本会の歴代会長は皆さん男性でした.第103代にして初めて女性会長が誕生したわけです.女性活躍(性別に関係なく,多くの先達がずっと活躍されてきていますので,この表現もどうかとは思いますが)という観点からみますと,巷には,“ガラスの天井(組織内の昇進・昇格で女性やマイノリティが一定のランクより上にはいきにくい)”とか“ガラスの崖(組織が危機的状況にあるときほど女性が要職につきやすい)”とか,そんな言葉があるようですが,あいにく,私は目が悪いので,ほぼガラスは目に入らないようです.また,少々おっちょこちょいなため,ガラスを突き破ってしまうだけでなく,崖から落ちてしまったりすることもあるかもしれません.そんなときはやさしく助けて頂くか,せめて,温かい目で見守って頂けますと幸いです.この点,何卒よろしくお願い致します.
2. 我々を取り巻く環境変化と課題
ここで,我々を取り巻く環境変化について,振り返らせて頂ければと思います.私は長らくネットワークの研究開発に携わってきましたので,ネットワーク寄りの視点になることを御容赦下さい.
図1に通信の歴史の概要を示します.日本で初めて電話サービスが始まったのは1890年,本会の母体である電信電話学会が設立されたのは,その27年後の1917年です(なので,既に述べたとおり,2017年が本会の創立100周年でした).電話サービスが始まってから約100年間は,通信といえば電話の時代でした.電話サービス開始当初の利用者は200ユーザほどだったものが,ピーク時(2000年代,日本の人口のピーク時とほぼ同じ時期)には6,000万ユーザまで増えました.このような急速な拡大に対応するため,電話を支える技術というのは,いかに収容ユーザ数を増やし,装置を小型化するか,を追求するものでした.更に言えば,非常に厳しい電話品質や信頼性を求められる歴史でもありました.(今も材料系やデバイス系の基礎研究においては,性能向上をとことん追求するという点で,電話の普及拡大期と重なる部分があるような気がしています.これらの分野でまだまだ日本の競争力が強さを保っているのは,このような共通点が影響しているのかもしれないと感じる次第です.)こうした状況を大きく変えるきっかけともいえる情報通信分野における分岐点は,インターネットと生成AIの登場ではないかと私は考えています.

1990年代半ばにWindows 95の登場をきっかけに,インターネットが世の中に急速に普及しました.その後のITデジタル革命は皆さん御存じのとおりで,スマホの普及でどこからでも誰でもネットワークを利用できるようになり,使えるサービスもテキストだけのメールから,画像や映像を送受信するSNSや動画配信サービスが広がり,一人当りのトラヒック量が格段に増加しました.更に,IoTも加わり,人だけでなくモノもネットワークに接続するようになりましたので,ネットワークに接続する端末数が一気に増えました.また,クラウド基盤の発展に伴い,大量のデータを収集し処理するデータセンタが数多く構築されました.まさに,インターネットの登場を契機として,この30年間で一気に現在の便利な世の中になってきたわけです.
更に,2020年以降は,生成AIの登場を契機に,AIが急速に進歩・普及してきているのは記憶に新しいところです.米国テック企業に代表されるように,情報(データ)を多く持つものが,AIの力を借りてより強くなっていき,更に多くのデータを集める,という強者の法則が成り立つようになりました.年単位どころか,日進月歩で技術が進歩しており,技術開発のクロックスピードが変わってしまったというのが実感です.“San Francisco Consensus”として,米国テック業界が発したビジョンでは,「AIは今後3~6年で人間社会に劇的な変化をもたらす」,とも言われています.AGI(Artificial General Intelligence)の実現について諸説あることは承知していますが,いずれにしましても,AIが人々の生活環境にも,産業にも,学術研究にも,大きな影響を与え続けることは間違いないでしょう.誰でもいつでもネットワークに接続できるインターネット環境が整い,あらゆる場面でAIが活用されるようになり,利便性が大きく向上し,一見,豊かさが増したように感じる一方で,AI時代だからこその様々な課題も明らかになってきています.
一つ目は,ネットワークの問題です.これまでのネットワークは,基本的に要所で人が介在してきました.若しくは,インターネット上のトラヒック量増大にネットワーク増設が間に合わなかったり,一時的に混雑が生じたりした場合に,データの欠損が生じても,再送等で補い,多少の遅延が生じても問題ない範囲の使い方がなされていました.ある意味,途切れるかもしれない,遅延が生じるかもしれない,という前提で,プロトコルやユーザ側で工夫して使ってきたのが従来のインターネットを中心としたネットワークです.しかし,そこかしこにロボットや自動運転車が動き回る世界になったとき,データが届くのが遅れたり,欠損したり,ネットワークが使えない状況になったら,一体どうなるでしょうか.今後,医療や交通など命に関わるサービス,金融や製造などビジネスに大きな影響を与えるようなサービス,その他,多くの社会システムがネットワークで相互につながり,AIの処理スピードで動くようになっていきますので,ネットワークのレジリエンス性が求められるだけでなく,遅延やデータ欠損も許されない状況となることが想定されます.そこかしこに分散して存在する多くのAI間を結ぶネットワークをどう実現するのかは,AI時代の喫緊の課題の一つであると考えます.
二つ目は,データの信頼性やセキュリティの問題です.あまりにも多くのデータが草の根的に発生する状況において,かつ,AIによるハルシネーションも起こり得る状況において,データの信頼性やセキュリティをどう担保するかが問われています.また,技術的対策だけでなく,倫理・法制度・経済安全保障等,様々な角度から総合的に対策を考えていく必要が生じています.
三つ目は,サステナビリティの問題です.ここ数年の生成AIの開発競争は皆さん御存じのとおりですが,例えば,一つのデータセンタで処理するデータが増えれば増えるほど,電力消費量も増加していきます.データセンタはできるだけ利用者(企業や個人)の多い都会の近くに作った方が,遅延時間が少なく,様々なサービスを提供する上で有利です.しかしながら,AI向けデータセンタの建設には,広大な土地と大量の電力,水(冷却用)が必要になります.まさに今,AIを支えるデータセンタの建設ラッシュが起きていますが,土地だけでなく,電力や水の確保が大きな問題となっています.利便性の向上と同時に,いかにサステナブルなシステムを作っていけるかについても,我々は考えていかなければなりません.
また,我々を取り巻く社会的な環境変化を考えたときに,次の二つのポイントも忘れてはなりません.
一つは,デジタル赤字です.今,我々は,あらゆる産業・社会生活において,主に国外企業が提供するクラウドサービスや生成AI等を日常的に使っています.最大限,その技術の恩恵を受けているわけですが,それはすなわち,“デジタル赤字”が拡大する一方であることを意味します.あまりにも国外技術に頼り切った状況というのは,経済安全保障の観点からも,日本の競争力の観点からも,何とか改善していかなければならない重要な課題です.ある日突然,特定国の情報サービスが使えない状況になったら,全ての産業や社会活動が影響を受けることになるからです.デジタル赤字の解消に対し,情報通信分野の研究コミュニティである本会の果たすべき役割は大きいと考えています.
もう一つは,日本の人口推移です.日本の人口は2004年をピークに減少へ転じました.2050年頃には9,500万人あまりとなり,2100年には,約100年前の水準である5,000万人を下回るとの予測もあります.2100年は,現在25歳の世代が100歳となる年です.情報通信を含む社会基盤をどのような形にしていけばよいのか,今から,関連する分野の人たちが皆で考えていく必要があるのではないでしょうか.
以上述べてきましたように,今,我々は第二の産業革命ともいうべき時代を生きています.AIによる多くの恩恵を受ける一方で,AI時代だからこその課題(ネットワークの遅延やレジリエンス性,データの信頼性やセキュリティ,電力消費などサステナビリティの問題)を解決していかなければなりません.また,子や孫の世代となり,人口が激減した状況においても,人々が豊かに安心して暮らせる社会とするため,どのような都市構造とし,更には,どのような情報社会基盤としておかなければならないかについて,今から,あらゆる分野の研究者たちの総合知を結集して考えなければなりません.
情報通信はあらゆる産業や社会生活をつなぐ神経網です.“Connecting X”.様々なX,すなわち,Intelligence(知性),Human(人),Community(学会)をつなぐ神経網としての役目を本会が担い,次の100年を支える情報社会基盤づくりに貢献することを願ってやみません.
歴史を振り返ってみますと,明治初期,日本は政府主導で産業革命後の欧米の技術を取り込み,僅か20年あまりで,電話,郵便,鉄道等のインフラを整備し,紡績,鉄鋼等の産業基盤を確立していきました.次は我々の番です.今後の産業基盤となるであろう,AI時代の情報社会基盤を本会だけでなく,関連する諸学会と連携して,総力戦で,一緒に考えていければと思います.
3. 本会の価値って何だろう?
本会は設立以来100年以上にわたり,各研究分野において多くの技術を創出してきました.現在,本会は,大きな技術分野ごとに5ソサイエティで構成されており,更に,それぞれのソサイエティ内に研究会があり,研究会の数は右肩上がりで増えている状況です.現在,84の研究会で,年間8,000件以上の研究発表が行われています.研究会は,同じ分野の研究を行う者同士が活発に議論を行う場として,それぞれの研究者が研究開発を進める上で非常に大切な役割を担っており,この活動を継続することは本会の存在意義としても非常に重要なものであると考えます.多くの研究者が,「研究会の場で育てられた」と感じられているのではないでしょうか.
一方で,AIの技術進歩と普及により,技術開発のクロックスピードが変わった今,各分野の研究スピードを上げるだけでなく,異分野間の交わりの重要性が増しています.理由は以下の3点です.
(1) イノベーションは境界領域でこそ起きる
違う分野の常識がぶつかることにより,新しい視点ができ,そこで生まれた疑問から画期的なアイデアが創出されます.それぞれの専門家が持つ知をぶつけ合うことで,新たなシーズを発掘できるのではないでしょうか.
(2) 社会課題の多くは特定分野だけでは解けない
個々のAIによって,情報収集・整理からプログラミングまでできるようになりましたが,今後はAIエージェントが発達し,より複雑な問題を複数のAIエージェントが協力して解決する方向に向かいます.現在は,個々の分野で課題解決策が閉じており,つなぎの部分は人間が補い,判断し,動いています.これからは,現実世界の中に機械的なAIが入ってきて,複雑に絡み合った環境において,AI同士の判断・処理で完結する状況も増えてくることから,関連する複合分野の相互影響を考えたシステム設計の重要性が増すと思われます.
(3) AI時代の社会課題を解くためには,技術のみならず,倫理,法制度,経済との関係が非常に重要である
AIに関するガイドラインについては,既に各方面で議論が始まっています.何をAIに委ねるのか,人の役割や存在価値をどのように位置付けるのか等,技術だけの問題ではなく,倫理,法制度,経済など,多面的な検討が必要となります.
こうした背景から,従来の研究会活動のように,そのコミュニティの中で専門性を追求し続けると同時に,異分野・異文化との交わりを増やす工夫が必要だと考える次第です.AI時代の情報社会基盤を実現するために,情報通信関連の技術を担う本会が,もっと柔らかい発想や企画ができる集団のハブになれるよう,本会内の横連携のみならず,関連学協会との連携も含め,皆さんと一緒に考えていけたらと思います.
本会は約2万3,000人の会員を有する,日本でも有数の規模を誇る学会です.ただ,先に記載したとおり,日本は急激な人口減少局面に入っていますから,本会のみならず,関連学協会も会員数減少の課題に直面しています.そこで,関連学協会とも適宜協力し,次の方向性に基づく取組みをしていきたいと考えています.本会の現在の立ち位置と今後の方向性を図2に示します.

・ ジュニア(中高生)や学生へのアプローチ(理系教育や挑戦の場の提供)
中高生や学生等,若年層に対し,広く理工学に興味を持ってもらうとともに,将来的には各種学会へ参画してもらえるよう,理系教育や新たな挑戦の場を提供していきます.若手研究者が自ら課題を設定し,主体的に挑戦できるよう,本会として機会設計を進めてまいります.その際,試行錯誤の過程で生じる失敗を次の学びにつなげられる,安心して挑戦できる環境づくりにも取り組んでいきます.
・ 企業とのマッチング(産学連携,就職)
産業界からは異業種同士の集まる場の提供,将来の技術動向の情報発信,産学官の連携強化,若手研究者の育成等の期待が寄せられています.更に,ICT関連の産業の裾野は広がっている一方で,そこで活躍する研究開発者を学会に取り込めていない実情があります.そこで,新規のICT分野の方にとっても魅力的な企画の立案を引き続き進めていきます.
・ 省庁への働きかけ(技術動向,提言)
政府・自治体の政策に対し,専門知識に基づく本会の提言にも力を入れるため,大会等の場を活用し,省庁等の政府機関や自治体との対話を更に進めていきます.
4. 目指すは“Connecting X”
既に述べたとおり,本会は100年以上の長きにわたり,常に先進的な技術を生み出し続けることを支える研究コミュニティとしての役割を果たしてきました.これまでも現在も,それらの技術は様々な場面で我々の社会生活や産業を支えています.個々の研究領域において,個別の要素技術を深めていく活動については,今後もその重要性は変わりません.
一方で,インターネット登場以降,ここ30年ほどで我々を取り巻く環境は大きく変化しました.特に,2020年代に入り,生成AIの登場を契機に,変化のスピードが一段と上がっただけでなく,AIやICTはあらゆる産業・社会活動に大きな影響を与えるようになりました.こうなりますと,従来のように個々の研究コミュニティに頼った活動だけでは社会課題の解決に向けた道筋を描ききれない状況になってきているのが実情です.
そこで,今後,“サステナブルな情報社会基盤”のあるべき姿を描き,必要な技術を創出していくために,個々の研究会やソサイエティ単体の草の根運動だけに頼るのではなく,“Connecting X”(X=Intelligence(知性),Human(人),Community(学会))で様々な関係者を結びつけた活動を志向していきたいと考える次第です.
その際,以下の3点を心がけることが必要だと考えます.
① 個々の活動を見える化
② 積極的に外部に発信
③ 同じ課題を持つ,他の研究会/ソサイエティ/学会を巻き込んで一緒に活動
私一人が動いてどうこうなるものではなく,皆で同じマインドで進めていくことにより,大きなムーブメントになるものと信じています.
また,学会活動の見える化を進めることにより,課題を明確化し,できるだけ効率的かつ効果的な学会活動に変えていきたいです.まずは,企画戦略室でどういうやり方がよいか試してみた後に,ベストプラクティスとして学会全体に展開していければと考えています.今まで時間がかかっていた事務的な作業をできるだけ省力化し,浮いた時間で本当に考えるべき課題に取り組んでいければと思います.
本当に考えるべき課題,それは,これからの日本の社会のあるべき姿,それに資する研究テーマの設定,研究推進,そして発信をし続けることだと考えます.皆さんの知恵や営みを点のままとするのではなく,つなげていくことにより,一人一人が学会活動そのものを楽しみながら,豊かな社会づくりに貢献できる学会を目指していきたいと思います.
5. 絶賛,改革推進中!
本会ではこれまでも,グローバル化,本会のステータス向上,サステナブルな学会運営,の3点を目指し,様々な施策を行ってきました.この3点について,これからも目指す方向性としては変わらないものと考えています.新たな時代に向けた学会の在り方として,本会全体で取り組んでいる代表的な各種施策を以下に紹介します.
① ソサイエティのフラグシップ国際会議
本会の海外における存在感の拡大に加え,海外会員や留学生の発表,交流の場を作り出すことで,海外会員増加を狙う取組みとして,ソサイエティ単位で国際会議を実施する検討を2025年度から進めてきました.2026年度は,新たにESSシンポジウム(基礎・境界ソサイエティ)を開催するほか,既存のICETC(通信ソサイエティ)は開催地域を広げる取組みを進めていきます.
② 多言語出版サービス
海外学会が英語一択によるグローバル戦略を進める現状に対して,各国母国語選択は,多様性の観点で本会グローバル化の差異化要素になり得ます.また,母国語は発信や理解が容易であり,近年のAIによる翻訳の積極的な利用はその助けとなります.例えば,各国語で執筆,プレゼンした内容が多言語に翻訳されると,海外学会会員の相互利用につながり,本会コンテンツの利用機会増加,自国にいながら自国の言語で本会に参加できる等,海外の研究者に新しい学会との関わり方を提供できる可能性があります.このような新しい学会の形を作っていくため,英文論文誌,会誌の多言語での出版サービスのトライアルを2024年度から実施してきました.2026年度はトライアルの実施により具現化した諸問題の解消を図りつつ,引き続き評価を行い,本格サービス提供に向けた議論を加速させます.また,専門分野の機械学習精度を向上させ,会員への多言語翻訳サービス提供の可能性を模索していきます.
③ GlobalNet Workshop(大会英語セッション)の開催
総合大会とソサイエティ大会において,大会に先行したイベントとしてGlobalNet Workshop(留学生が参加しやすい英語ポスターセッション等)を開催しています.GlobalNet Workshopは留学生と母国の会員との関係構築を進めるだけでなく,優秀な留学生へ企業からの参加者に向けたアピールの場を提供しています.
④ 社会への問題提起と発信
社会に対しての問題提起など,1企業や1大学といった組織では対応困難なことを,学会という立場で発信し,社会に変革を起こしていくことも学会の大きな役割であると考えます.2024年度には,昨今の就職活動に対して問題提起をするため,「大学・大学院生の教育機会を尊重した求人スタイルへの移行」について会長声明を発表しました.2025年度には,情報通信分野の発展に資するため,「第7期科学技術・イノベーション基本計画に向けての提言」を行いました.今後も社会への問題提起をタイムリーに発信していきます.
⑤ 新規選奨(未来60年賞)による学会活性化
選奨は学会活動を活性化するために重要な要素であり,本会においてもこれまで様々な業績を顕彰する選奨を実施しています.2025年度には,本会の更なる活性化のため,外部資金を導入した選奨設置のガイドラインを定め,新たな選奨の設置に取り組んできました.その端緒として,業績を対象としたこれまでの顕彰から大きく発想を転じ,将来技術に向けた若年層(35歳以下)の果敢な挑戦を奨励する賞として,『未来60年賞』を設置しました(図3:未来60年賞のチラシ).3月の総合大会と併催した未来60年賞最終審査会では,8名のファイナリスト(最終審査対象者)が熱弁をふるいました.2026年度は,未来60年賞受賞者と審査員とが,受賞した提案について意見を交わし,若手研究者や技術者の未来に向けた取組みを導く会議を開催していきます.更に,受賞者インタビューなどを通じた未来60年賞の認知度拡大と賞に連動した広報の強化により,本会の価値向上に向けた取組みについても進めていきます.

⑥ 情報通信エンジニアリング
情報通信インフラは,現代の人々の生活を支えるとともに,将来の人々にも多大な恩恵をもたらす社会基盤・システムです.これらを総合的に運営(設計,工事,運用,維持管理)することは本会に課せられた使命であり,情報通信エンジニアリング分野の健全なる発展を図る機能を具備し,社会の発展に寄与していくことを考える必要があります.このような背景を踏まえ,情報通信エンジニアリングを総合的に扱う情報通信エンジニアリング部門を2025年度に発足させ,本格的な活動開始に向けた検討を進めてきました.2026年度は具体化した計画を実施に移していきます.
『三人寄れば文殊の知恵』と言いますが,本会の会員23,000人寄れば情報通信分野の日本最大の総合知,です.それぞれの会員が関連する人・技術とつながり合えば,更にそれを拡大することができます.あなたは誰とつながりますか? どんな技術をつなげていきますか? “Connecting X” を合言葉に,新たな価値を皆で創造していきましょう!

