
電子情報通信学会 光エレクトロニクス研究専門委員会
LiDAR
馬場俊彦(横浜国立大学)
baba-toshihiko-zm@ynu.ac.jp
本会ハンドブック「知識の森」
1.LiDARとは
Light detection and ranging(光の受信と測距)の略語であり (1),要は光学式測距センサを意味する.以前は対象の一点測距センサを指し,LIDARと表記されていた.近年は多点測距によって物体の3次元形状を取得するイメージセンサを意味することが多く,これを特にLiDARと表記するという解釈もある.この他にLaser Radarという言葉もあるが,いずれも技術的に差異はなく,測距系とレーザ照明系で構成される.
2.測距方式
LiDARの測距方式で広く用いられているのは,往復する光信号の遅延から測距する飛行時間(Time of Flight:TOF)方式である (2).これはさらに,正弦波の位相遅延を計測する間接TOF(iTOF)と,光パルスの遅延を計測する直接TOF(dTOF)に分類される.iTOFは光変調と位相計測が簡単という利点があり,位相計測が難しい遠距離や極短距離を除く近距離で3Dスキャンやロボット応用に用いられる.ただし位相誤差を発生させる光のマルチパスに弱い.dTOFは高強度の短パルスレーザと高感度検出器を必要とし,iTOFよりはシステムが高度になる.dTOFでは難しい中遠距離を対象に自動運転等に用いられるが,アイセーフ条件を満たす光パワーの設定に注意が必要である.また,TOF全般にいえることだが,直接検波を用いるため,太陽など環境光ノイズに弱い.
一方,近年は周波数変調連続波(Frequency-Modulated Continuous-Wave:FMCW)方式が話題である (3).これは狭線幅の周波数変調光を物体に照射,反射戻り光と内部ローカル光をミキシングし,ビート周波数より測距する.変調光の生成やレシーバ構成がさらに高度になるが,コヒーレント検波のため高感度で,環境光ノイズにも強い.さらにドップラシフトを検出することで,速度や振動を同時に計測できる点が魅力的である.

3.照明方式
携帯端末に搭載される小型LiDARで使われるのがフラッシュ方式である (4).これは光を拡散させて周囲を一括照明する.CMOSセンサの各画素で戻り光の遅延を計測すれば,3次元像を並列的に一気に取得することができる.システムが簡単なので小型になり,可動部がないので安定である.並列動作で高速なので,動く物体でも歪みの少ない像が得られる.ただし最初の光の拡散で光パワー密度が著しく低下し,反射戻り光も微弱なので,その利用は近距離や環境ノイズが少ない屋内に限られる.この状況を改善するため,多数のレーザを並列的に用いる照明もある.
中遠距離用のLiDARに用いられるのはビーム走査方式である.コリメートされた光ビームで測距を用い,その2次元走査で3次元像を得る.光パワー密度が高いので高感度になるが,ビームスキャナが必要なので通常は大型になる.また,フラッシュ方式よりも1フレームの取得に時間がかかるので,動く対象物だと歪みが生じる可能性もある.そこで,ライン状ビームと光検出器アレーを使ってビーム走査の次元を減らし,高速化を図るような中間的な方式もある.
4.ソリッドステートLiDAR
ビーム走査方式では,メカ式スキャナが装置を大型化させる.そこでメカを排除する試みがあり,これをソリッドステートと呼ぶ.半導体技術で製作される微小電気機械システム(Micro-Electro-Mechanical System:MEMS)ミラーが代表例であり,これによってシステム全体は小型になる.ただし,これも広い意味でメカなので,動きの自由度が制限され,振動に対して脆弱といったメカの弱点が残る.
そこで近年,メカの要素が全くない,純粋に光学的なソリッドステートが研究されている (5),(6),(7).光フェーズドアレー(Optical Phased Array:OPA)は光を多数の光アンテナから放射させ,各アンテナの位相を調整して任意の角度のビームを合成する.電気的に位相を変えると,自由なビーム走査が得られる.レンズ光学系を必要としないので,薄型になる点も魅力である.これに対して,多数の光アンテナの1つを光スイッチで選択して光を放射させ,レンズによってこれをコリメートする焦点面アレー(Focal Plane Array:FPA)もある.レンズの位置に対する選択された光アンテナとオフセットによってビームが偏向される.光アンテナを切替えれば,ビームが走査される.OPAとFPAには光アンテナの大規模集積が必要となるが,シリコンフォトニクス技術を用いた実証例が数多く報告されている.
このほか,回折格子付き導波路から光を放射させ,波長掃引等によりビームを走査させる方法もある.ここでフォトニック結晶導波路を利用し,そのスローライト効果でビーム走査効率を高めるスローライト回折格子(Slow-Light Grating: SLG)もある.これは1本のSLGでこれに沿った方向に多数の解像点が得られるため,多数のSLGを利用するとしても,その数はOPAやFPAに比べて1次元分少なく,光集積に対する要求は緩和される.OPA,FPA,SLGスキャナは,FMCW用レシーバも含めてシリコンフォトニクスにより一体集積され,LiDAR動作が実証されている.
5.期待される応用(図2)

LiDARは古くから大気中のエアロゾルや航空機による地形の観測に用いられてきた.近年,汎用なイメージセンサとなってからは自動運転への利用が話題の中心になり,最近は低価格化も進んで,実車への搭載が始まっている.近距離の応用では各種のロボット,3次元キャプチャ,認証,VR/ARなどがある.FMCWにより速度や振動も同時に計測すれば,音場や振動場の可視化,インフラの監視,人の健康管理などの可能性もあり,発展が期待される (7).
文 献
(1)Z. Li, Y. Han, L. Wu, Z. Zang, M. Dai, S.Y. Set, S. Yamashita, Q. Li, and H.Y. Fu, “Towards an ultrafast 3D imaging scanning LiDAR system : a review,” Photon. Res., vol. 12, no. 8, pp. 1709-1729, Aug. 2024.
(2)J. Ma1, S. Zhuo1, L. Qiu1, Y. Gao, Y. Wu, M. Zhong, R.. Bai, M. Sun, and P.Y. Chiang, “A review of ToF-based LiDAR,” J. Semicon., vol. 45, no. 10, pp. 101201(1-13), 2024.
(3)N. Li, C.P. Ho, J. Xue, L.W. Lim, G. Chen, Y.H. Fu, L.Y.T. Lee, “A progress review of solid-state LiDAR and nanophotonics-based LiDAR sensors,” Laser Photonics Rev., vol. 16, no. 11, pp. 2100511(1-24), 2022.
(4)D. Liang, C. Zhang, P. Zhang, S. Liu, H. Li, S. Niu, R.Z. Rao, L. Zhao, X. Chen, H. Li, and Y. Huo, “Evolution of laser technology for automotive LiDAR, an industrial viewpoint,” Nature Commun., vol. 15, no. 7660, pp. 1-7, Sept. 2024.
(5)W. Xu, Q. Yuan, Y. Yang, L. Lu, J. Chen, and L. Zhou, “Progress and prospects for LiDAR-oriented optical phased arrays based on photonic integrated circuits,” Nanophotonics, vol. 2, no. 14, pp. L383-L385, May 2025.
(6)馬場俊彦,“ビームスキャン型FMCWライダのワンチップ化”,電子情報通信学会誌,vol. 106, no. 2, pp. 136-142, 2023
(7)馬場俊彦,“シリコンベースのフォトニック結晶によるチップ型LiDAR”,フォトニック結晶による革新的光制御技術,エヌ・ティー・エス,pp. 45-73, 2025.
(2026年1月9日受付)

