1-2 1. エッジコンピューティング基盤技術
MECの可用性を向上させるモバイルシステムの設計
A Design of a Mobile System to Improve MEC Availability

MECは通信事業者の閉域網内でユーザ近傍に計算資源を置く概念だが,標準5GSでは端末の状態データ(コンテキスト)を中央拠点で管理するため,データ処理部のみを地域分散しても通信制御が中央拠点依存となる.そのため,中央拠点から分断されると,MECが稼働していても端末がアクセスできない状況が生じる.本稿はこの構造的要因を整理し,それらの要因を解消し中央拠点に低依存な自律分散モバイルシステムを紹介する.次に通信サービスとMECの計算サービスを継続する設計について説明し,おわりに今後の展望を述べる.
キーワード:RAN Core Convergence,自律分散モバイルシステム,耐障害性
1. はじめに:モバイルシステムの変遷
1.1. アプリケーションの多様化
日本のMNO(Mobile Network Operator,移動体通信事業者)各社の加入者数は一千万を超えており,モバイルシステムは今や世界有数のサブスクリプションサービスということができる(1).モバイルシステムは,第1世代のアナログ音声通信にはじまり,第2世代のデジタル化,第3世代のパケット通信の増加,第4世代におけるスマートフォンとSNSの流行,そして第5世代ではデバイスの多様化や産業利用への拡大という進化をたどってきている.
このように,これまでは1対1の音声通信やベストエフォートのインターネットサービスが中心であったが,アプリケーションやデバイスが多様化する中で通信システムに対する要求も変化し続けている.高品質な無線通信を各種産業に提供することが引き続きMNOの重要な役割である一方,他の産業でもデジタル通信やアプリケーションの導入が進められていることから,今後は通信サービスと計算サービスを一体として提供することもMNOの重要な役割であると言える.実際,第4世代後半以降は通信サービスと計算サービスが連携したMEC(Multi-access Edge Computing)が注目されている.
1.2. MECの役割と可用性
MEC(Multi-access Edge Computing)(2)は,通信事業者の所有する閉域ネットワーク内において,基地局などのユーザ近傍にて計算処理をするエッジコンピューティングの一種である.図1には,第5世代モバイルシステムである5GS(5G System)を例に典型的なMECのデプロイメントを示している.帯域保証が有効で遅延やジッタも小さい通信が可能になることから,MECは以下の4点の特徴がある.(1)局地的に高信頼性を要するアプリケーションへの無線通信の提供.(2)インタラクティブで計算量が大きいアプリケーション処理のオフロード.(3)データの地産地消によるアプリケーショントラフィックの集約.(4)アプリケーションへの位置や無線状態などの文脈情報の提供.これらはいずれも通信と計算の局所性を生かしている特徴であり,コンシューマサービスよりは産業向けや法人向けなどのエンタープライズサービス向きと言える.また,通信事業者の所有する閉域網と各地域のMEC基盤が直結していることから,データの秘匿性や地域性が強い公共系サービス向けのIT基盤にも応用可能である.各MNOは既にSLA(Service Level Agreement)(注1)が設定された通信サービスを提供していることから,その強みを生かした計算サービスに注目するのは自然なことである.これらの背景から,MECを利用した計算サービスには通信サービスと同様により高い可用性が期待されていると言える.

