3-1 3. エッジコンピューティング実用化技術
RoI(関心領域)の予測に基づくリソース利用効率の高い物体検知手法
Predicted-RoI Based Resource-efficient Object Detection Method

近年,エッジ環境でも高精度な物体検知が求められる一方,限られた計算資源の下で高い処理性能を実現する必要がある.本稿では,次フレームの関心領域(RoI:Region of Interest)を軽量モデルで事前予測し,その領域を切り出して集約した画像を用いて物体検知を行う手法を解説する.背景領域を削減しつつ多数のRoIを少数の集約画像にまとめることで計算効率を高められる.MOT17データセットでの評価では,計算資源を半減しつつ精度劣化をほぼゼロに抑えられることを確認した.
キーワード:エッジコンピューティング,深層学習,物体検知,AIアクセラレータ
1. は じ め に
カメラ映像などを入力とする情報処理システムにおいて広く使用される共通的なタスクとして,物体検知タスクがある.物体検知タスクは,入力画像(フレーム)に含まれる検知対象物体の位置や種別を出力する.物体検知は,例えば交通状況や店舗のモニタリングシステムにおいて,車両や人の検知に用いられる.物体検知アルゴリズムとしては,CNNやTransformerを用いた深層学習ベースのものが主流である.
近年では,これらの物体検知タスクを入力に近いエッジで実行するシステム形態が多用されている.全画像をクラウドで処理する場合,通信コストや遅延の増加などの問題が発生するため,エッジ側で物体検知等を行い,重要な情報のみをクラウドに送信するハイブリッド構成が主流になりつつある.
一方,エッジ環境は電力や筐体サイズなどの物理的制約が大きく,クラウド環境に比べ計算処理能力は大幅に限定される.NVIDIA社のJetsonシリーズに代表されるエッジ向け小型GPUシステムや専用AIチップなどのAIデバイスが各社から提供されており,エッジでのAI処理能力は年々高まっている.また,CPU向けにもAI処理に最適化されたフレームワーク(1)が提供されている.しかし,カメラ台数や画像サイズの増加による入力負荷も同時に高まっており,エッジにおいて物体検知タスクを効率的に実行することは依然として重要な課題である.
AIデバイスを用いて物体検知タスクを実行する際,実行効率に関する二つの課題が存在すると筆者らは考える.一点目は背景領域処理による計算資源の浪費である(課題1).一般的に,入力画像には検知対象物体(前景)以外に多くの背景領域が含まれる.しかし,物体検知用深層学習モデルで推論し物体検知を行う際,前景領域と背景領域に等しく計算資源が使用される.二点目は,小サイズ画像入力時のAIデバイス実行効率低下である(課題2).AIデバイスは内部に多数の演算ユニットを備えており,それらがフル稼働することで高効率な処理が可能となる.しかし,入力される画像のサイズが小さい場合,演算ユニットの一部のみが稼働することになり実行効率が低下する.課題1の対策として前景部分を切り出し個別に処理すると所要計算量は減るが,課題2による実行効率低下が発生し処理時間は期待ほど短くならないことが多い.
本稿では,筆者らが提案するAIデバイス向けのリソース利用効率の高い物体検知手法(2)について解説する.提案手法は,課題1を解決するため,過去の物体検知結果に基づき次の入力画像中に含まれる前景領域(RoI:Region of Interest)を軽量に予測する.また,課題2を解決するため,RoI群の画像を寄せ集めた集約画像を生成し,RoIよりサイズが大きい集約画像に対して物体検知モデルによる推論を行う.

