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無線システム間の周波数共用検討

Spectrum Coexistence Studies between Wireless Systems

佐々木邦彦

佐々木邦彦 正員 (株)デンソー東京支社

Kunihiko SASAKI, Member (Tokyo Office, Denso Corporation, Tokyo, 103-6015 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.99 No.12 pp.1193-1197 2016年12月

©電子情報通信学会2016

1.は じ め に

 米国の歯科医ルーミスに始まり,テスラ,マルコーニらによって進化し続けてきた無線通信は,最も重要な情報伝達手段の一つになっている.統計によると,国内で免許登録されている無線局数は,2014年度で1億7千万台を超えている.更に,無線LAN端末などの免許不要局(5億台以上とも言われている.)やテレビジョン(TV),ラジオ,電波時計などの受信のみをする機器を含むと,その数は途方もないものになっており,一人当り10台に迫る無線機器を持つ時代になった.

 このように,無線通信/放送技術が驚異的な発展を遂げることができたのは,柔軟な電波の特性,利用帯域の高周波化,無線技術の高度化等によるところが大きい.このような中で,新たな無線技術を導入・拡大していくときに,常に避けて通れない大きな課題が立ちはだかっている.それは,他の無線システムとの間での電波干渉による妨害を防止するための作業で,一般的に「周波数共用検討(SCS: Spectrum Coexistence Study)」という.

 筆者は,700MHz帯ITS(高度道路交通システム)や電気自動車(EV)充電用ワイヤレス電力伝送(WPT: Wireless Power Transmission)などの標準化に携わってきた.本稿では,これらの標準化の前段における,SCSの公的な論議における事例を紹介しつつ,SCSの概略,流れ,作業の実態等について解説する(1),(2).

2.周波数共用検討と技術基準

 電波を利用する機器は,電波法または放送法によって規定され,保護されており,新たなシステムの導入や既存システムの利用帯域変更のためには,これらの法体系の中で論議がなされ,規則として律せられなければならない.この,新たな周波数利用のための基準(周波数帯,送信電力等の規則)を決めるために行われる最初の論議が,SCSである.

 一般に,SCSは総務省情報通信審議会情報通信技術分科会下の各委員会及び同作業班において実施され,新たに周波数帯を利用する側,当該周波数帯や近隣を利用してきた側,周波数利用に関する有識者等によって,作業や論議が行われる.

 ここで,最も重要となるのが「利用する側」と「利用してきた側」,それぞれの業界グループ間における周波数共用のための論議,交渉である.この論議の結果は,情報通信審議会報告書案としてまとめられ,パブリックコメント募集に図られ,「設備の技術的条件」として情報通信審議会から答申される.更に,総務省内における制度設計の後,実際の制度(規則)案として再度パブリックコメント募集に図られ,電波監理審議会答申として発行され,「国の技術基準」として公示,施行される.

3.システム間干渉の種類

 まず,SCSにおける干渉検討の基本を述べる.

 異なる周波数帯を用いるシステム間の干渉は,希望帯域外への不要放射をせず,希望帯域外からの信号を受信しない理想的な場合には発生しない.しかしながら,現実の無線機においてはコスト,消費電力等の制約条件によって多くの場合は干渉を引き起こす.

 干渉を引き起こす要因としては,希望帯域以外成分を除去するフィルタの設計限界,能動回路の非線形性による帯域外信号の発生,ジッタによる希望帯域以外への位相雑音成分等がある.これらの要因は,無線機の構成によって複雑に変化するが,システム間の干渉は,以下の二つに大別される.


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