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動画像や音声のストリーミング視聴が可能なインターネット環境が広く普及し,パソコンやタブレットなどの情報端末を個人が所有し,時間や場所を問わずインターネットのコンテンツにアクセスすることが可能になった今日,年齢や職種を問わず広い層に向けてオンライン講義を行うサービスが世界中で始まっている.本稿では,オンライン講義の歴史,講義提供の仕組みと運用,オンライン講義提供のためのプラットホームについて概説し,講義提供者及び受講者の視点を踏まえた問題点や,問題の解消を目的とした先端事例を紹介し,今後のオンライン学習を展望する.
オンライン学習システムは,インターネットを利用して学習する環境を提供するシステムのことを指す.このシステムで提供される教材は,講義を録画しストリーミングビデオとして配信されるものや,シラバス,テキスト,画像,映像,音声,参考文献,レポート課題をWebに配置することで提供するものなど,様々な形態があるが,電子媒体としてシステムに格納またはシステム上で表現できるものであれば,オンライン学習システムで利用される教材となり得る.近年,インターネットを通して提供される教材を制作する大学も増加しており,オンライン学習システムが注目されている.このようなシステムが提供するインターネットを利用した学習は,eラーニングとも呼ばれている(1).
オンライン学習システムは,学習管理システム(LMS: Learning Management System)をサーバに組み込み運用される(図1).LMSでは,主に教材,学習者,学習者の学習状況が管理される.教材は,様々な電子メディアの形態で制作されるが,LMSで管理をするためには,オーサリングツールと呼ばれる編集用のソフトウェアで編集され,例えばHTMLで記述された形態でサーバに置かれる.図1に示したように,学習者の学習状況がLMSを介してサーバに蓄積され,学習者も教員もLMSをプラットホームとして学習状況の確認が可能である.学習者同士や学習の補助を行うチュータ(TA)とのコミュニケーションが可能なフォーラムを運用するLMSもある.
今日実現しているオンライン教育の実施において,その目的は,教育のオープン化,より細かな学習状況の記録,反転学習,大規模な受講者への対応など,実施状況により異なる面があるが,遠隔での受講を可能にするという点で,多くの実施状況に共通している.ここで,遠隔教育の実施という視点からオンライン学習の導入までの教育形態について簡単に見てみる.
教育形態は,教材の提供が可能なメディアの形態と通信インフラの発展の歴史と関連する.19世紀後半の近代郵便制度の拡充を期に,郵便システムを利用した遠隔教育が始まっている.日本では,1950年に通信制大学が制度化され,郵便システムを利用した遠隔教育が行われた.卒業のためには一部の単位は面接型の授業を履修する必要があった.1960年代においてテレビが普及し始め,放送網も充実した時代に,1969年にイギリスにおいてOpen University(OU)が開学した.OUは,大学進学の機会を多様な層に提供するという「オープンユニバーシティ」構想の中で設立され,テレビとラジオを利用して遠隔講義を提供した.この形態は,”Open University”として世界規模で広まり,日本では,1985年に放送大学が設置され,テレビとラジオを使用した遠隔講義が提供されている.放送大学の番組は1998年からCS(現在はBS)の放送網を利用して全国放送が開始され,全国規模でのテレビを利用した遠隔教育が行われるようになった.卒業のためには,やはり一部の単位は面接型の授業を履修する必要があった.
この20世紀終盤は,コンピュータを用いた学習方法が盛んに研究された時代でもあった.例えば,各学習者の理解や状況に応じて学習内容を個別に変化させるシステムなど,CAI(Computer-assisted Instruction)と呼ばれるコンピュータを利用した学習環境が構築された.このようなアイデアでマルチメディアコンテンツを利用しインタラクティブに学習することはCBT(Computer Based Training)と呼ばれた.CBTでは,主にCD-ROMの形態でコンテンツが提供された.インターネットが普及した今日,コンピュータを利用する学習のコンテンツはインターネットを介して提供されるが,このような学習形態はWBT(Web Based Training)と呼ばれる.サーバ上で学習者の履修履歴を管理でき,サーバ上に保存されたコンテンツをいつでもメンテナンスできることが,CBTに対する利点である.WBTは,現在広く使われているeラーニングと同義である.更に,学習者側の端末の種類に特化したコンテンツが提供されているのが昨今のWBTの特徴で,タブレットやスマートフォン等のモバイル端末のインタフェースを生かし,いつでもどこでも学習が可能なように工夫されている.
上述の,電子メディアの進化とインターネットの整備,コンピュータを利用する学習環境の研究開発により,大学でもオンライン講義が開始された.スタンフォード専門家育成センター(SCPD)は,最も早期(1996年)に遠隔教育を目的としたオンライン講義プラットホームStanford Onlineを開始している.2000年代になるとFathom(コロンビア大学など),AllLearn(オックスフォード大学,プリンストン大学,エール大学,スタンフォード大学)をはじめ,複数の大学が学外向けの有料オンライン授業を開始するが,単位が付与されない有料講義の受講生は採算が取れるほどは集まらず,多くのオンライン講義は閉鎖されている.2002年にMITが全ての講義を無料で公開するOpenCourseWare(OCW)を立ち上げ,世界中で多くの利用者を獲得する(2).このOCWは,講義やその資料のみの無料公開であるが,現在,講義における学習支援や履修認定も行う複数の大学で構成される大規模オンライン授業プラットホームが複数立ち上がっており,これらが,MOOC(Massive Open Online Course)と呼ばれるものである.1講座で10万人規模の受講者に対応できることもMOOCの特徴である.これらのオンライン講義提供の系譜を表1に示す.
このような大規模オンライン講義の台頭とインターネットの普及により,遠隔教育を目的とする各国のオープンユニバーシティも,提供する講義におけるオンライン講義が占める割合を増加させている.日本でも,2007年に,放送大学が放送授業のインターネット配信を開始し,オンライン授業を中心に提供するサイバー大学が設立された.放送大学では,2015年からオンラインで履修が完結するオンライン授業科目の提供を始めている.
講義の典型的な提供方法は,よく見られるWebページのようなものを想像してもらえればよい.閲覧するためのテキストのような教材,座学的な講義,演習やドリル,ディスカッションやチャットのページ,試験のページ,達成状況の表などへのリンクが,おおむね見てほしい順に並んでいる.学習者はそれを順にクリックして学習を行う.各リンク先では,pdfやスライド,動画像,テキストの入出力,電子掲示板のようなもの,チャット,等々のページが提供される.
その裏では,こうした学習者のクリックの状況,正答率などのチェック,総合得点の計算などをするシステムが動作しており,必要に応じ,教師やシステム管理者がその内容をチェックできるようになっている.また,受講者や教師以外のアクセスが起きないようにアカウント管理,締切などのスケジュール管理,教材の管理なども必要である.更に,学習者のアクセス情報など,必要なログ機能も用意されている.
こうしたオンライン講義の中核となるシステムがLMSであり,世界的なユーザグループにより継続されているMoodle,主として米国の主要大学のグループ開発によるSakai,また民間企業によるものも多数ある.複数のLMSがあると,同じ教材が使えなくなったりする問題も生じる.このため,LMSと教材間をつなぐ規格が必要となる.SCORMが有名であるが,複雑過ぎて使いづらいという問題もあり,新規格も検討中である.
電子教科書も広い意味でLMSの機能を有している.これは教科書の形をしているが,図をクリックすると講義形式の動画像が現れたり,質問に対して解答を与えると正解や採点結果を示してくれたりする.学習者に対するインタフェースが異なるだけでほぼ同じ機能を有している.日本ではTIESのCHiLO Bookなどがある.電子教科書の規格としてはEPUB for Educationなどがある.
オンライン講義で使われる教材の多くはテキストあるいはスライド集であり,通常,pdfで提供される.ドリル,試験などはLMSに機能が組み込まれており,選択式,穴埋め式,記述式などの試験は容易にできるようになっている.記述式以外は自動採点可能である.スライド作成は近年多くの教員が作成可能とはなってきているが,見栄えなどを考慮すると,それなりのスタッフが必要となる.また,pdfはある意味の標準になり得るが,ソフトの書類をそのまま載せたりする場合には,余りに希少なソフトの場合には多くの問題が発生する.書類の種類や使うソフトについては,ある程度の制約を付けざるを得ないであろう.
更に,こうした教材をLMSに組み込むことについても,教員自身でも可能ではあるが必ずしも全員ができるわけではなく,その場合にはスタッフが必要である.また,教員自身が行えば比較的簡単な仕事でも,スタッフを使うとなると,それなりの仕事量である.
最も手間と経費の掛かるのは動画像部分である.特にスライドの少ない座学形式中心のもの,あるいはロケなどについて,一定の基準を越えるものを作成しようとすると,その経費は無視できない.なお,逆にスライド中心の講義については,話者自身で操作可能な簡単な撮影装置が多く売り出されており,それを利用する方が手間的にも経費的にも有利な場合もある.経費は作り方にもよるが,スタッフ中心で考えると,1単位当りおおむね100~1,000万円ぐらいであろう.また,PDCAサイクルを回すと,当然,学期ごとあるいは学期中の変更も必要となるだろう.こうしたことを考慮すると,教員自身が可能な限り自分で作成できるようになる方法が望ましい.そのために,トレーニングを行うなど組織全体で取り組む必要がある.
ここで,オンライン授業の提供事例として放送大学におけるオンライン授業について取り上げる.オンライン授業のプラットホームとしてはMoodleを用いている.学生は,入学と同時にIDを与えられ,統合認証により,大学が提供するほぼ全てのシステムにおいて,そのIDを用いてサービスを利用する.Webを用いた全てのサービスはシングルサインオンで利用できる.2017年度前期には20科目が開設されている.今後は開設科目を増やし,2022年度には100科目程度の開設を目指している.
開設に当たっては,お知らせを除く全てのコンテンツを開講前にそろえている.2020年度開講の講義からは放送授業と同じように2年半の製作期間を設けている.その際,放送大学の専任教員がインストラクショナルデザイナーとして科目の設計に関わっている.
放送大学には多様な学生がいる.学年の概念はなく,それぞれの判断で履修科目を決定する.そのため,受講学生が履修に十分なパソコンスキルを持ち合わせているとは限らない.一方,Moodleでコンテンツを提供する場合,小テストや動画像配信など様々なコンテンツが考えられる.また,そのそれぞれについても複数の実現方法がある.そこで,受講する学生が操作方法に困らないように,
・ ストリーミングによる講義映像
・ 小テスト機能を用いた選択問題
・ 課題機能を用いたレポート提出
・ フォーラム機能を用いたディスカッション
から成る科目の基本パターンを作成し,基本的にこれらの活動を組み合わせることで科目を構成している.学生が見るコースのWeb画面の例を図2に示す.
放送大学の教務情報システムでは,多様な学生が学んできた履修情報が蓄積されているが,特に放送授業においては,学生の学期間の学習過程については余り知ることができなかった.一方,オンライン授業においてはLMS上に様々な学習活動のデータが蓄積されている.オンライン授業で蓄積されたデータについては,個人情報に留意した上で国立情報学研究所に提供し,共同研究を進めている.現状は学生の学習活動を把握するための教職員用ダッシュボードの開発や,ドロップアウトの傾向分析を基にした科目設計や修正に活用している.
筆者の所属している放送大学は通信制の大学であり,元々,単位の多くは放送授業を聞き,教科書を読んで学習する形態が主であった.通学制の大学と比較すると,明らかに教師とのコミュニケーション,学生間のコミュニケーションが少ない.更に学生は暗記により試験を乗り越えようとする者が多い.これを救うには,インターネットを利用するしかないため,オンライン講義は一つの必然方向であると考えられる.
しかし,一方で,通学制大学でも大学入試センター試験の影響もあり,学生は座学と暗記を得意とするようになり,コミュニケーションや思考型教育方向が必ずしも高いとは言えなくなっている.このことから,通学制大学でもオンライン講義を利用するのは得策かどうか疑問がある.通学制大学に最も利用しやすい方向は反転授業であろう.知識をあらかじめオンライン講義で与えておき,その学習の際に発生した疑問や質問を正規の講義時間に議論する,いや,議論させるのである.
かつて,筆者(岡部)のいた東京大学電気系工学科で,英国から戻られて間のない岡村總吾教授(本会名誉員,故人)が反転授業を試みたことがあった.私はその頃学生であり,もちろん反転授業の概念すらなかったが,来週までに教科書を1章読んできなさいと指示があり,次週にはいきなり質問はないかと問われたのである.残念ながら,何の議論もなく,こうして1学期が終了してしまい,試験のときには死ぬ思いであった.これは,私も含め学生が予習をしてこなかったためこのような結果になったが,ある程度強制的に予習をさせればもう少し成立したのではなかったか,いや少なくとも教師が予習内容に沿った質問を投げれば成立したと信じている.こうしたときにオンライン講義を利用できるのではと感じている.
放送大学で作成されたプログラミング教育や理系の演習講義を,学生として履修してみた.他の学生もあちこちで発言しているが,学習に対するモチベーションも満足度も極めて高いというのが個人的評価である.まず,進捗がかなり小刻みに設定されているため,毎回の完全理解の積み重ねになっていく.また,中間レポートや最終レポートに教員が反応してくれるために,達成感が高いのである.
放送授業でも教員はレポートに対し反応できるが,システムのせいもあり,反応時間が掛かる.一方,オンライン講義では教員が絶えず授業を見張っているため,一般に反応時間が極めて短くなるのである.また,学生も常々ネットに接しているため,議論に参入することに対する障壁が低くなるようで,議論は深まるように感じた.また,議論中心のオンライン講義では,教員の対応が丁寧であったこともあり,数百名の学生がおおむね高い満足度を示している.もちろん,学生が積極的に参加するようになるため,一般に理解度も高いようである.
現在,既に顕在化しつつある問題が,1単位をどのように認定するかである.実はオンライン講義は学生が自主的に学習することもあり,同じ時間で多くのことを習得し,多くのことを考えるようになる.しかし,日本の法律では,一定時間の講義をもって1単位とすると定められているため,オンライン講義は相対的に密度が高過ぎることになっている.更に,オンライン講義では講義時間以外にも多くの作業をすることが義務付けられている.ややもすれば,いきなり,試験を受けても単位の取れる座学とは大きな差があるのである.筆者の感触では少なくとも2倍の密度ではないかと感じる.実はこの現象は世界的傾向でもあり,単位の達成度評価,つまり,どこまで理解したかで単位を与えるべきであるという一つの流れができつつある.
試験の不正行為防止については,まだ決定的な方法は見当たらない.動画像認証,生体認証なども検討されているが,インターネット越しでは受験者がWeb検索を利用しているかなどを確認することは事実上不可能である.短時間に選択させるような問題,あるいは何を見てもよいから,本人が考えないと解答できないような問題に移行させ,更に,他人にはとても頼めないようなタスクを課す必要があろう.放送大学ではオンライン講義については試験を課していない(出席点扱い)が,更にレポートの回数を少なくとも3回以上,それもかなり骨のあるレポートを課すようにしている.
実は,オンライン教育の幅は驚くほど広い.例えば,ネットワーク越しに実験器具を動かすことも可能である.リモート望遠鏡,リモート電顕などすら利用が可能である.しかし,スタッフやソフトの負担は一層重くなる.それをいかに軽減できるか,まずは実験的に行うフェーズではないかと感じている.
放送大学の特殊事情であるが,受講生の年齢幅が極めて広い.平均年齢は45~50歳ぐらいの就労世代であるが,60歳以上も全体のほぼ1/3,最高齢は100歳近い.また,元々の設計から,放送が聞け,教科書が読めればよいということで,特に高齢学生にインターネットの使い方を知らない者が多い.そこで,PCの使い方講義を全国の都道府県に最低各1箇所ある学習センターで行っている.一定の成果は上がっているが,必ずしも満足すべき状態であるとは考えていない.また,逆に若年層でPC離れが起きている.この双方に対する答えは,長期的にはモバイル対応ではないかと思う.モバイルのような小さい画面でいかに学習に支障ないようにできるかが,今後の開発の方向であると確信している.実際,国際的にもオンライン講義のモバイル化が進んでいる.
TAも放送大学の課題である.科目ごとの受講者が多いと,その採点や電子掲示板への対応は1教員の能力を越えてしまう.このため,ネット上でよいから,こうした作業を支援できる人が必要となる.英国のOUのように,そこに大量の本職の教員を採用できればよいが,本学の財政状況では困難である.通学制大学では学年制がはっきりしており,同じ科目を履修した上級生を使うことが容易であるが,本学では学生の性格を把握することが難しく,更に学生とTAの大きな年齢反転も容易に起こり得るため,不満の発生する可能性も高い.ゆっくり人材発掘していくしかないと考えている.ただし,一旦発掘できたら,その人を長く使うことは容易ではないかと考える.
Webが使えるようになってすぐの1995~2005年の頃,筆者(岡部)の講義でWeb上の電子掲示板を使ったことがある.100名ぐらいのクラスであったが,記入することをある程度強制すると,中に若干名の元気の良い学生がおり,教員が良いタイミングで良いレスポンスを与えると議論が急に活発化し,それが対面講義の活性化にもつながることを知った.日本の学生は基本的に消極的ではあるが,ある程度の雰囲気が醸成されると積極性が誘起されるということである.教員がこうした学生の性格をよく飲み込み,かつ開始時に積極的に関与することが,オンライン講義の活性化にもつながり,また,オンライン講義が対面講義の補助的な場合にも,それが対面講義を活性化するということである.
これとはやや独立であるが,放送大学の学生は基本的に孤独な環境で学習を行っている.これを支援する方法はないかということでFacebookで全学生が参加可能なバーチャルなキャンパスを立ち上げた.その試みはおおむね成功と言え,学生間のリアルな交流の促進にも大きく役立ったものと信じている.Facebookの環境は大学の用意した電子掲示板環境よりもより取っ付きやすい.こうした外部のSNSを利用するのも一つの手法かもしれない.
放送大学での運用を中心に,オンライン授業について見てきたが,技術の進歩により解決が見込まれる問題点として,受講者の本人認証の方法,理解の把握,仮想実習,TAの導入,受講環境に依存しないコンテンツの提供などがある.それぞれについて,現在の状況や展望を述べつつ,本稿のまとめとさせて頂く.
講義を本人が受講したことをより認証度の高い方法で示す手法として,Cousera(MOOCプロバイダの一つ)は,2013年からSignature Trackという制度を導入している.この制度を利用すると,タイピングパターン,Webカメラで撮影した本人と身分証明書,及び個人情報により本人認証が行われ,大学での単位取得や就職活動に利用できる(3).有料の制度であるが,利用者も多くオンライン授業の収益モデルの一つとして注目されている.
LMSには,ログイン回数,ログオフまでの時間,一つの課題に要した時間,練習問題の正答率などの受講者のログが蓄積され,どの時点で学生の理解が及ばない傾向にあるかといった解析が可能になっている.学生の集中度やモチベーションなどは,キーボードベースのログからだけでは推測が不可能な部分があり,新たなインタフェースによるログの取得により,集中やモチベーションの要因の解析といったことが可能になると考えられる.
英国OUのThe OpenScience Laboratoryなど実験が体験できるシミュレーションプログラムを提供している大学もある.このシミュレーションプログラムは,Webブラウザが受講者のインタフェースとなっており,受講者はソフトウェアのインストール等の作業を強いられずに,サインインのみで実験を体験できる.また,数値計算ソフトや地理情報解析ソフト(GIS)などのソフトウェアを利用する大学では,通学制の大学もMoodle等を用いて情報共有や反転学習に重点を置いた教育をしている.この類のソフトウェアのオープンソース化,そしてクラウド化が進んでおり,端末を選ばずWebブラウザで高度な解析が可能なソフトウェアを使うことで,端末のトラブルに対応しにくい遠隔教育でもソフトウェアを用いた講義の提供がしやすい状況になっている.カーネギーメロン大学のオンライン教育プラットホームであるOLIにおいては,Cognitive Tutorという人工知能を使った学習支援プログラムが導入されている.進歩する情報通信技術の利用により,効果の拡張されたオンライン講義が多くのシーンで導入されていくことが展望される.
(1) N. Pachler and C. Daly, Key issues in e-learning: research and practice, Continuum, London, 2011.
(2) T. Walsh, Unlocking the Gates: How and Why Leading Universities Are Opening Up Access to Their Courses, Princeton University Press, 2010.
(3) Signature Track Guidebook, Coursera, Retrieved, Sept. 2013.
(平成29年6月1日受付)
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