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電波は,有限希少な国民共有の資源である.貴重な電波資源を有効に利用すべきことはもちろんのこと,電波利用の便益が広く国民に及び,我が国の社会・経済を活性化させることも重要である.現在,総務省では,2020年までに,いわゆる第5世代の移動体通信システム(5G)を導入すべく,研究開発や実証実験,技術基準の検討等を行っている.5Gは,これまでの携帯電話システムの延長線上にある「超高速通信」という特徴を持つとともに,「同時多数接続」,「超低遅延」といった,これまでの携帯電話システムにはない全く新しい特徴を持つことが想定されている.「2020年以降の社会インフラの一つ」として,世界各国で導入に向けた動きが活発化している.
本稿では,5G時代にふさわしい電波監理のための法制度面での検討を行う.特に,移動通信システム向け周波数の一層の継続的な有効利用を確保するために,今後,何が法律上あるいは制度上求められるのか,特に周波数割当の公平性と公共性のための制度的課題に焦点を当てて,私見を織り交ぜて検討してみたい.
移動通信事業者により,全国において面的にサービスを提供する移動通信システムである携帯電話及びBWA(Broadband Wireless Access)については(以下これらを総称して「携帯電話等」という.),陸上移動局が合計で1億7,760万局と全免許局の9割以上を占めており(注1),基地局が携帯電話等合計で約50万局以上整備され(注2),携帯電話等の陸上移動局を通信の相手方としてこれを制御して移動通信を行っている.携帯電話等の場合には,移動通信事業者が免許人となり電気通信業務用無線局を開設し,当該無線局を用いて一般利用者に向けた携帯電話等の電気通信役務を提供している.
スマートフォンやタブレット端末等の普及に伴い,移動通信事業者により提供される携帯電話等の無線通信ネットワークは国民の日常生活に不可欠となり,我が国の社会経済活動の最も重要な基盤を構成するに至っている.LTE(Long Term Evolution)及びBWAの契約数は9,784万契約と1年間で1.5倍増加しており,超高速モバイルブロードバンドの契約数は,固定通信網の超高速ブロードバンドの契約数の3倍以上となっている(注3).
また,超高速ブロードバンド通信の契約数の増加や映像伝送等を含むサービス提供の拡大に伴い移動通信のデータトラヒック量は増加を続け,過去3年間で約4倍に増加しており,今後更に技術進展及びサービス普及に伴い10年で100~1,000倍という目標を掲げる必要性が指摘されている.
今までに,こうした移動通信システムへのニーズの高まりを踏まえて移動通信事業者に合計641.2MHz幅の周波数帯が割り当てられてきている.各移動通信事業者は,超高速モバイルブロードバンドの普及・発展に向けて,割り当てられた貴重な電波資源である移動通信システム向け周波数の一層の効率的利用を継続的に進めることが求められている.これは,今後,移動通信システム向けに新たな移動通信用周波数の確保を行い,新たな割当を進める大前提としても必要なものであり,電波利用の便益が広く国民に提供され,我が国の社会・経済を活性化に資するために制度的枠組みが整えられることが期待されている.
無線局免許の申請は,免許を受けようとする者が,随時行うことができるのが原則である.しかし,多数の基地局を開設する移動通信事業の場合,同じ周波数で複数の事業者が免許を受けることになると,電波の混信が生じる.多数設置する必要のある基地局の円滑な開設を確保するため,移動通信のための周波数について,一定期間(原則5年間),特定の一事業者のみに開設を認めることとする必要がある.これは移動通信事業者に対する周波数割当の意義である.
この考え方に基づいて,基地局の開設計画の認定制度が設けられている.すなわち,携帯電話等は広範囲に多数の基地局を開設する必要があり,新たなシステムの導入を円滑に行うことを可能とする観点から,平成12年に開設計画の認定制度が導入されたのである.すなわち,当該周波数を用いる特定基地局を開設し携帯電話事業を提供しようとする事業者は,総務大臣が示した開設指針を踏まえた開設計画を提出し,当該開設計画の認定を受けた場合には,認定事業者として認定計画に基づき「特定基地局」の開設を進めることとなる.一定の期間ほかの者が特定基地局の周波数帯において無線局免許申請をできないこと,携帯電話端末は特定基地局を通信の相手方とするため特定基地局を開設する者以外は無線局申請を事実上できないことから,開設計画の認定により事実上「周波数の割当」が行われることとなる.総務大臣は,移動通信のための周波数に関し,基地局の開設に関する指針(開設指針)を定め,移動通信事業者が提出した基地局の開設計画について,同指針に照らし審査を行い,適切な場合に認定する.認定を受けた事業者は,認定の有効期間(原則5年間)内に,認定に係る周波数を用いて(排他的に)基地局を開設することが可能である.
周波数割当のプロセスは,次の段階を経る.第1に,国際的な周波数分配を踏まえつつ,移動通信システムが使用できる周波数を画定し,周波数割当計画を変更する(電波法(以下,単に「法」という)26条1項).並行して,当該周波数に導入する電波利用システムについて技術的条件を検討し,技術基準を策定する(法38条,無線設備規則).その上で,総務大臣は当該周波数において免許の申請を認めない措置を講じる(法6条7項)とともに,基地局の開設指針を策定,公示する(法27条の12).開設計画の認定を受けた者の開設する無線局の免許申請については,法6条7項の適用が除外され,認定の有効期間(原則5年間)内に,認定に係る周波数を用いて(排他的に)基地局を開設することが可能となる(法27条の17).
現在,開設計画の認定が行われて用いられている周波数帯は,平成17年以降認定された700MHz帯,900MHz帯,1.5GHz帯,1.7GHz帯,2GHz帯,2.5GHz帯,3.5GHz帯である.認定の有効期間は原則5年間であり,上記開設計画のうち平成24年の900MHz帯,700MHz帯,平成25年の2.5GHz帯,平成26年の3.5GHz帯の4回の認定については現在も認定期間中である.
このうち,3.5GHz帯への第4世代移動通信システムの導入については,平成25年7月の情報通信審議会からの答申を踏まえ,既存の携帯電話用周波数帯及び3.4~3.6GHz帯を対象に,いわゆる第4世代移動通信システム(LTE-Advanced)の導入に必要な技術的条件に関する制度整備が実施された.これを踏まえて平成26年9月に開設指針が策定され,3.48~3.6GHz帯(合計120MHz幅)の割当を希望する者が募集された.これに対して,NTTドコモ,KDDIグループ,及びソフトバンクモバイル(現ソフトバンク)の三者から申請があった.これらの申請について,開設指針に沿って審査が行われ,同年12月にこれらの三者に対しそれぞれ40MHz幅ずつ割り当てられた.NTTドコモ,KDDIグループについては平成28年6月にサービスを開始し,ソフトバンクは同年12月にサービスを開始している.
そもそも周波数割当は,電波の公平かつ能率的な利用を確保する観点から実施される(法27条の12).「公平」の概念については,①各グループの保有周波数をそろえるという考え方と,②各グループの周波数のひっ迫度をそろえるという考え方がある.米国等で導入されているいわゆるスペクトルキャップの考え方は,①の考え方に近い(注4).
そもそも,「公平」の考え方については,多義的なものであるが,競争政策とのリンクを考えれば,多くのユーザを獲得した事業者に多くの周波数を割り当てられないと,ユーザを獲得すればするほど,実効速度等のサービス品質の低下を招くこととなり,競争が成り立たないこととなる.現在の周波数割当においても,1MHz当り加入者数を算出することにより,ひっ迫度の高い事業者に加点する仕組みとなっているが,今後,競争政策とのリンクを考えれば,この指標の重み付けを高めていくべきではないか,と思われる.どう重み付けを高めていくかについては後述する.
周波数ひっ迫度については,帯域幅の「まとまり」も重要なファクターである.連続しない複数の周波数で,連続する周波数と同等のパフォーマンスを確保しようとすれば,キャリアアグリゲーションを行わなければならず,その分コストがかさむ.ただ,現在の周波数の割当状況を見ると(表1),どの事業者(グループ)も,ほぼ同じ程度の「まとまり」となっている.これは,同一周波数帯については,同時期に等分化して割当を行ってきたからであろう.
個々で述べた,①周波数のひっ迫度も,②帯域幅の「まとまり」も,「競争のイコールフッティング」,すなわち,「公正競争」の内実を,競争「条件」の公平と競争「行為」の公正に分けた場合の,競争条件の公平性の担保に関するものである.
周波数割当において,競争条件の公平性を確保するという観点から考慮しなければならないのは,この2点のほかにも,例えば,③どの周波数帯(特に「プラチナバンド」と呼ばれる1GHz以下の周波数帯など)を使用しているか,④保有する周波数が1社による保有か,グループ内の複数社による保有か,⑤端末(特に市場シェアの高い海外メーカ製端末)が対応している周波数かどうか,といった点が考えられる.
③については,3GHz以下の周波数の中でも,やはりプラチナバンドは価値がある.ただ,プラチナバンドの保有量は,ドコモ・50MHz,KDDI・50MHz,ソフトバンクグループ・50MHzと,各グループで同等となっている.
④については,グループ単位では同程度の周波数量を保有していても,1社で保有する場合と,2社以上で保有する場合とでは,免許手続上は,1社で保有する場合には,当該社が免許を受ければ足りるが,複数社で保有する場合には,それぞれの社が免許を受ける必要がある.また,他社の周波数を利用するには,ローミング等の契約を締結する必要がある.しかし,例えば,基地局を設置する場合の設置場所の確保は,グループ内の1社が確保し,グループ内他社がその場所を利用する,ということはよく行われている.また,基地局より上位のコアネットワークなどは共用されている.各キャリヤともグループ内で周波数が一体的に運用されている現状を見ると,複数社で保有することが,1社で保有する場合と比べ,多少の不利益はあるものの,そんなに大きなものではないのではないか,と推察される.
⑤については,現在,携帯・BWAに割り当てられている周波数のうち,前出・海外主要端末が対応していないのは,1.5GHz帯のみであるが,1.5GHz帯の各グループの保有量は,NTTドコモ・30MHz,KDDI・20MHz,ソフトバンク・20MHzと,各グループがほぼ同等となっている.
こうして考えてみると,「競争条件の公平性を確保する」という観点から考慮しなければならないファクターについて,②~⑤までは,各グループで,大体の同等性が確保されている.他方,グループ間の格差が大きいのは,①となっている.こうした現状を踏まえ,公正な競争環境の確保の観点から特に考慮すべきは「ひっ迫度」であろう.したがって,②~⑤の状況に変化が見られれば,これも今後考慮していかなければならない.
また,⑥割り当てられた周波数の地理的範囲も問題となり得る.というのも,現在NTTドコモが使用する1.7MHz帯の40MHzは,東名阪に限定されている.したがって,各グループの周波数保有量(NTTドコモ・160MHz,KDDIグループ・160MHz,ソフトバンクグループ・170MHz)はほぼ均衡しているといっても,これは東名阪に限ったことであり,例えば仙台や福岡などでは,NTTドコモは120MHz分である.この点も,考慮していかなければならない事項かもしれない.
周波数のひっ迫度については,開設指針において競願時審査基準の1項目として審査されているが,近年,事業者グループ間の周波数のひっ迫度合いに大きな差が生じている(上掲の表1).
その原因として,以下が挙げられる.第1に,事業者が他の事業者,特に新規参入枠で割当を受けた事業者の株式を取得し,当該他の事業者の周波数を一体運用していることが挙げられる.第2に,これまでBWAは独自のサービスとしての発展が見られず,BWAとして割り当てられた周波数の大半が,BWA事業者と資本関係を有する携帯電話事業者により利用されていたことが挙げられる.
しかし,事業者グループ間の周波数のひっ迫度に大きな差が生じると,以下の点から問題が生じる.第1に,利用者の利益の観点からは,周波数のひっ迫度の高い事業者のユーザは,通信速度など通信品質の高いサービスを受けることが困難となる.第2に,事業者間の公正な競争の観点からは,ひっ迫度の高い事業者がひっ迫度の低い事業者と同等の通信品質を保障しようとすれば,より多くの基地局を設置しなければならず,ひっ迫度の高い事業者に多くの負担を強いることになる.
このように,周波数のひっ迫度指標を重視するということは,今後考えていかなければならない課題であるが「重視する」こと自体についても,事業者からは反発も予想される.というのも,ひっ迫度は開設指針を公表する段階で既に確定しており,開設計画の内容を幾ら充実させようとも,ある意味,結論は先に見えてしまうため,「特定事業者に偏重した周波数割当だ」と批判する事業者があるかもしれない.
ひっ迫度指標を「重視する」方法としては,以下の三つの方法が考えられる.
① 絶対審査基準とする.周波数ひっ迫度が,全事業者の平均値を上回っていなければならない.
しかしこの方法では,比較審査(いわゆる「ビューティコンテスト」)がそもそも成り立たなくなってしまうため,現実には,実現のハードルは高い.
② 競願時審査基準の「第一基準」(または「第二基準」)とする.
これは,競願時審査基準の審査順序をあらかじめ定めておく方法で,700/900MHzや2.5GHz帯BWAでも採用された方法である.絶対基準を満たすと,競願審査基準に進むが,競願審査基準についても,第一基準,第二基準(あるいは更に,第三基準)と分けておき,まず第一基準を審査し,そこで決着すれば審査は終了する.もし決着しなければ第二基準に進み,第二基準で決着すれば審査は終了する.それでもまだ決着しなければ,更に第三基準に進むという方法である.
2.5GHz帯BWAの例では,競願基準の第一基準には「人口カバー率(5%刻み)」が設定された.このときは,申請者全員が95%以上カバーするとの計画であったため,第一基準では決着がつかず,第二基準に審査が進んだ.第二基準は,その他の競願基準(MVNOへのサービス提供の充実度,安全信頼性対策の充実度,ひっ迫度などの基準)の総合評価で審査するという方法が採られていた(注5).
③ 競願時審査基準の一項目として,配点を多くする.
これも2.5GHz帯BWAの例によれば,ひっ迫度は「第二基準」の一審査項目であり,その配点は,他の審査項目と同等である,例えばひっ迫度が平均を上回る場合には,他の審査項目の2倍の配点を行うといった方法が考えられる.
私見では,③が恐らく一番現実的な解決策となりそうに思われるが,しかし③だと,ひっ迫度の高い事業者に割り当てられないリスクがそれなりに残る.このため,②の可能性を併せて模索する必要がある.いわば,「ひっ迫度」を絶対審査基準に準じる基準と位置付けることを検討すべきというものである.
では,②と③の観点をどのように織り交ぜて解決の方向性を求めたらよいか.私見では,次の3点である.
・ 移動通信事業に適していると言われる3GHz以下の周波数帯は,今後,多くの追加割当を見込めないため,3GHz以下の周波数帯と3GHzを超える周波数帯との割当を分けて考えるべきである.
・ 3GHzを超える周波数帯の割当については,仮にまとまった周波数帯を確保できるのであれば,多くの事業者に割当を行うことが可能であり,周波数のひっ迫度に係る指標は,これまでどおり競願時審査基準として考慮する.
・ 一方,3GHz以下の周波数帯の割当については,これ以上グループ間でのひっ迫度合いが拡大することになれば,事業者間の公正な競争環境を害し,ひいては利用者のサービス品質にも大きな影響を及ぼすこととなる.現状,事業者から周波数を返上させることは制度化されておらず,グループ間のひっ迫度の格差を解消させるには新規割当による調整しか手段がない.このことから,3GHz以下の周波数帯の割当にあたっては,ひっ迫度に係る指標を絶対審査基準に準じる基準と位置付けるべきである.
ただし留意しなければならないのは,今後到来する第5世代の移動体通信システムの時代においては,「ひっ迫度」そのものの概念も変わるかもしれないという点である.これまでは,契約数をMHzで除した割合としてひっ迫度を勘案してきたが,5G時代においては,IoT(Internet of Things)の登場が本格化する.これまでのように,ユーザの契約数で除することが本当にひっ迫度の見方として正しいのか,再検討を迫られよう.また,そもそも移動体通信システム向け周波数の割当における公平性のファクターには,ひっ迫度のほかにも考慮要素があることも確かであり,ユーザの利便性と消費者厚生を高めるための公正な競争基盤とそのための希少資源の配分という原則に立った上で,情勢の変更に応じた検討をその都度行うことが重要である.この際,公共の福祉を増進するための「電波の有効利用」という観点から,移動通信向け周波数の公益性とは何かということについて,掘り下げて検討していく必要がある.
周波数のひっ迫度は,事業者の営業努力(ユーザ獲得)により,事後的に変容し得るものである.現状,追加割当という方法でしか周波数のひっ迫度を調整する方法はないが,羽田空港発着枠の配分については,かつて,既に配分した発着枠を回収した上で,再配分した例がある(注6).将来的な課題として,既に割り当てられた周波数であっても,認定から一定期間経過時や再免許時などの一定の時点で一定割合を返上させ,再割当する仕組みを検討することも考えてもよいのではないか.
総務省によるこれまでの実際の割当においては,「割当済み周波数における1MHz当り契約数」が審査項目とされてきている.「割当済み周波数における1MHz当り契約数」は,割当後,事業者の事業活動の進展に応じて変化し得るものである.事業者にとって,割当を受けた周波数の「量」は,他事業者との競争上極めて大きな意味を有する.そこで,これまで総務省は,割当後の競争環境の変化(事後的な状況の変化)について,追加割当を行うという形で,公平な競争環境の整備を行ってきた.
しかし,今後は,3GHz以下で大きな周波数帯を確保し,追加割当を行うということ自体が困難となりつつあり,これまでのように,追加割当で競争環境の是正を図るという手法には限界が見えてきつつある.
そもそも再免許は法的には免許の更新ではない.また,移動通信システム向けの周波数の有効利用を継続的に確保する観点から,免許制度の見直しにあたっては,割当後の競争環境の変化(事後的な事情変化)に対応すべく,割当済み周波数の再配分,すなわち,過去に割り当てた周波数について,再免許をしないことにより返上させ,当該周波数について再割当を行うことも想定して,制度整備を実施すべきであろう.特に,総務省として,事業者間の周波数の二次取引を認めないのであれば,総務省自身が,割当後の事情変化に応じ,割当済み周波数の再配分を行うべきである.
しかし,「周波数の返上・再割当」については,現実には相当ハードルは高い.周波数の返上は,利用者への提供サービスへの影響を与える可能性があること,事業者の経済的自由・財産権上の不利益を及ぼす可能性や設備投資の回収等の観点から事業者側の反発も予想されること,再割当には時間とコストが掛かること等も考慮する必要がある.
ただし法制度的には,電波法は再免許を保障していないし,また認定についても,認定期間経過後は割当を受けた周波数帯を排他的に使用することが法的に保障されているわけではないことは,改めて強調しておきたい.このため,周波数の返上・再割当は,現行制度の改正は当然必要だとしても,法的には,制度導入は不可能ではないはずである.事業者にとっての一番の反発要素であろう,これまでの設備投資が無駄になる,という点については,過去,第2世代から第3世代への移行にあたって,基地局設備を全面的に置き換えた例が存在し,今後こうした類似のタイミングを捉えれば,事業者に周波数を返上させることもできるのではないか,とも思われる.この点,第5世代の設備が今後どのような規格になるかは未定であるが,もし5Gの規格整備が,仮にLTEの発展系(Non-Standalone(NSA))という形でなされると,既存の基地局設備を置き換えるのではなく,既存のものを改良するという形で継続して使用できることになる.そうすると,設備更新のタイミングで周波数返上させるというのも,現実にはなかなかうまく行かないであろう.してみると,既設基地局の設備投資が無駄にならない範囲内で,一部返上してもらう可能性を探るしかない.
具体的には例えば,割当済みの移動通信システム向け周波数について,総務省による有効なモニタリングや適時適切な公表の仕組みを通じてその有効利用を促し,その結果,有効利用の度合いが開設計画の認定期間終了後よりも大幅に後退することが明らかになった場合であって,今後有効利用が進められる見込みがない場合といった「一定の条件」に該当することが明らかになった場合には,再免許時などの時点を捉えて,周波数の一定割合を返上させ,より周波数の有効利用が図られる方法で再割当を行うことが検討されてよい.その際には,上に述べた当該一定の条件や判断基準をあらかじめ明示しておくとともに,周波数を返上した際の無線設備の扱い等,周波数再配分が円滑に進むための諸方策についても,併せて検討しておく必要がある.
最後に,電波は国民共有の公共財産であり,周波数割当を受けた事業者には,公共の福祉を増進させる責務がある(法1条).周波数オークションは,割当プロセスの透明化というメリットも指摘されるが,加えて,落札金を公共の福祉のために使用することができるというメリットも有していた.
現行の周波数割当の仕組みにおいても,割当を受けた事業者による公共の福祉への寄与を評価することはできないか.すなわち,割当事業者の社会的貢献を反映させた周波数割当を実施できないか.その方法の一つとして,例えば,条件不利地域における高速通信環境の整備を条件とすべきとの考え方もあり得よう.その一例として,移動通信事業者が離島までの海底ケーブルを敷設することも制度上許容されている.これはあくまで一例であるが,こうした公共の福祉の増進への寄与を周波数割当において評価することも検討されてよいのではないか.
以上述べた2点は,一方は競争政策(競争条件の公平性確保)の重視,他方は公共の福祉の重視ということで,場合によっては相反する観点となるかもしれない.しかし,そもそも周波数割当はこのバランスの上に成り立っており(法1条),こうした点も踏まえ,周波数割当政策を考えていくべきではないかと思われる.
周波数のひっ迫度の格差が拡大することは,ユーザの利便性や公正な競争環境整備の観点から望ましくない.もしこれが拡大するようであれば,将来的には,周波数を返上させ,再割当するという方法も考えていかなければならない.しかしこれには,既に設置した基地局等の設備投資の回収などの点で様々な課題があり,特に周波数を削られる側の事業者にとっては,システム改修等の相当の負担を強いるものである.しかし,割当後に生じた事情変化により「いびつ」となった周波数割当の状況を,事後的に是正できないのでは,そもそも適正な電波監理とは言えない.むしろ,5G時代の電波監理においては,再配分のための制度整備を促すことを通じて,事業者に対しても,再配分を前提としたシステム構築を促すことが政策的にも求められているのではないだろうか.少なくとも今できることは,これまで述べてきたように,新規割当において,ひっ迫度の格差をこれ以上拡大させないような制度的仕組みを考えていくことである.
(平成29年6月19日受付 平成29年7月28日最終受付)
(注1) 2015年12月現在で,1億8,225万局以上の無線局が免許を受けて開設されている.このうち,携帯電話が1億5,519万局,BWAが2,241万局であり,合計1億7,760万局と無線局全体に占める割合は9割以上となる.
(注2) 人口カバー率は99%以上となっている.
(注3) 2013年以降は移動通信網の超高速ブロードバンド契約数が固定通信網の超高速ブロードバンドの契約数を上回っており,移動通信システム向けの周波数に係る電波政策は我が国のブロードバンド政策に対しても重要な位置付けがあると考えられる.
(注4) 米国でスペクトルキャップとして,例えば周波数の二次取引や企業結合における詳細調査の契機となる周波数保有量として194MHzと定められている.いわば周波数保有の絶対値のみ規制し,ひっ迫度は考慮していないのは,米国では周波数オークションにより,資力のある事業者に周波数が偏在する可能性があり,それを防止するためのものと考えられる.米国においては,多くの金額を提示した事業者に使用させるのが望ましいという考えがベースにあり,その上で,オークションによりもたらされる弊害を是正する最低限の措置としてスペクトルキャップが導入されているのではないかと思われる.
(注5) なお,2.5GHz帯BWAの際には,第二基準までで第三基準は設定していなかった.
(注6) 平成17年4月に行われた羽田空港発着枠の配分においては,大手航空会社が使用している340便のうち,40便を回収した.そのうち20便については,一層の競争促進を図るため新規航空会社に配分し,残りの20便については,大手航空会社の過去5年間の行動を評価し,大手航空会社に配分された.
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