小特集 4. 臨場感と迫真性の感性心理学的特性

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小特集 4.

臨場感と迫真性の感性心理学的特性

Psychological Characteristics of Sense of Presence and Verisimilitude

行場次朗

行場次朗 正員 東北大学大学院文学研究科人間科学専攻

Jiro GYOBA, Member (Graduate School of Arts and Letters, Tohoku University, Sendai-shi, 980-8576 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.8 pp.793-797 2018年8月

©電子情報通信学会2018

abstract

 マルチモーダル情報で表現される空間に対する感性として「臨場感」はよく取り上げられるが,本稿では感性心理学的な観点から,臨場感は背景的・空間的な場全体に対する感覚体験(クオリア)に依存して生起する感性であることを示す.一方,シーンの印象にとって重要な前景的・焦点的情報に対する気付き(アウェアネス)を表す感性については十分な検討がなされていない.そこで,コンテンツの核心となる対象や事象の本物らしさに対応する感性を「迫真性」と定義し,迫真性が臨場感とは異なる心理特性により喚起される感性であることを心理実験により示す.そして,臨場感と迫真性の両方に配慮したコンテンツを創出し,鑑賞者に提示する工夫が重要であることを述べる.

キーワード:臨場感,迫真性,クオリア,アウェアネス,美,感性心理学

1.は じ め に

 情報通信技術の進展に伴い,伝達表示可能な映像や音声データの量は日々増加し,自然でリアルな仮想現実(virtual reality)システムの実現に対するニーズが高まっている.そして,それらのコンテンツが生み出す臨場感や高臨場感,更に超臨場感や拡張現実感に関する研究や開発が盛んである.

 本稿では,筆者の専門である感性心理学的立場から,まず,臨場感(sense of presence)とはどのような心的特性に基づくのかについて検討する.それとともに,臨場感だけではカバーすることのできない別の感性も重要であることを説き,その感性を迫真性(sense of verisimilitude)と呼んで,その基本的考え方を紹介する.そして,感性心理学的実験から,臨場感と迫真性は異なる特性を持つ感性であることを示す.

 更に,特に日本美の表現・伝達・鑑賞には,迫真性がより大切な感性概念であることを述べ,今後のICTやVR研究開発の動向に対して,感性心理学的観点から考慮すべき知見を提供することを試みる.

2.臨場感の素朴な理解

 これまで臨場感については,「現在いる場所とは異なる場所にいるような感覚」や,「その対象・環境を提供するメディアに対する気付きを失っている状態」などの概念的あるいは操作的定義が行われてきた.ところが,実は,臨場感とは一体どのような感覚であるのか,研究者間でも一致する捉え方がなされているわけではない.そこで,一般の人が抱く臨場感のイメージを調べるため,大学生を対象に,日常的に臨場感を感じる事象を挙げてもらい,形容詞や感覚モダリティ名を用いて感性評定を行ってもらった(1).その結果,臨場感を創出するには,「その場で実際に体験しているような感じ」という辞書的定義どおりだけでなく,「好感」「迫力感」「動感」「メカニック感」を持ち合わせた事象であることが大切であり,更にそれらのコンテンツが,視覚や聴覚などの遠感覚,並びに前庭感覚や身体運動感覚などの自己受容感覚を主に介して感受されることが重要であることが分かった(図1).

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