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Beyond 5Gを支えるフォトニクス技術とその展望
小特集 1.
Beyond 5Gワイヤレス通信に向けたRadio over Fiber技術とその展望
Radio over Fiber Technology for Beyond 5G Wireless Communication and Future Prospects
Abstract
Beyond 5Gの実現に向け,無線基地局及びそれらを収容する光アクセスネットワークには大容量化・省電力化を両立するような構成手法や伝送手段の確立が求められている.本稿では,4Gから5Gに至る基地局収容回線技術について紹介するとともに,Beyond 5G時代のモバイルフロントホール向け光伝送技術として研究開発が進められているアナログRadio over Fiber(RoF)技術について,筆者らのこれまでの取組みと今後の展望を紹介する.
キーワード:Beyond 5G,モバイルフロントホール,Radio over Fiber,光アクセスネットワーク
第5世代移動通信システム(5G)の次世代技術,いわゆるBeyond 5G/6Gの実現を目指し,各国でユースケース検討や研究開発が進められている.国内では,総務省「Beyond 5G推進戦略」(1)においてBeyond 5G時代の社会像がまとめられており,現実世界とサイバー空間の間で様々なデータを連環するサイバーフィジカルシステム(CPS: Cyber Physical System)を,Beyond 5Gを中心とした情報通信ネットワーク基盤が支える世界が描かれている.2020年に国内での商用化が開始された5Gでは「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」という通信性能面での特徴がうたわれていたが,Beyond 5Gでは,このような性能面の更なる拡張に加えて,「超低消費電力」や「超安全・信頼性」,「自律性」など,Beyond 5G時代の世界観を実現するための付加価値的観点も求められてくる.「超高速・大容量」の観点では,無線システムの通信速度は5Gの10倍,すなわち100Gbit/sを超える通信速度の実現がターゲットとなっている.このような高速無線通信の実現に当たっては,無線通信側の技術革新に加え,これらの無線通信システムを収容する光回線側にも相応の進化が必要となる.また,「超低消費電力」化の観点では,世界的な取組みであるカーボンニュートラル達成に向け,通信設備の消費電力低減に向けた取組みが求められている.通信事業者の電力消費量のうち大部分はRAN(Radio Access Network)と呼ばれる無線アクセスネットワーク部分で消費されていると言われており(2),Beyond 5G時代の超高速・大容量性と低消費電力化を両立する基地局収容網の確立が求められている.
筆者らは,基地局収容回線であるモバイルフロントホール(MFH: Mobile Fronthaul)向けの光伝送技術として,大容量性に優れ,少ない光ファイバ数で効率的に多数の基地局を収容可能な光ファイバ無線技術,いわゆるRoF(Radio over Fiber)技術の研究開発を進めてきた.本稿では,RoF技術に基づくMFH伝送方式を紹介するとともに,Beyond 5G時代の無線ネットワーク構成としてユーザセントリックネットワークの概念を紹介し,RoF技術を適用する取組みについて紹介する.更に同技術の省電力化への期待など今後の展望を紹介する.
図1に,4G及び5Gのシステム構成概要図とRAN部分の無線信号処理機能の配置例,及び通信事業者ネットワークとの位置関係を示す(3).移動通信システムは「コア」「RAN」「端末」の三つの要素で構成されている.このうちコアは端末の位置管理や認証,ポリシー制御,課金処理,通信経路確立等の処理を担っており,主に通信事業者の上位ネットワーク側に位置する機能である.コアと端末をつなぐネットワークがRANと呼ばれる区間であり,無線信号の変復調やリソース割当,誤り訂正処理など,基地局において送受信される無線信号の生成・受信に関する各種の低レイヤ処理を担っている.RANにおいてユーザの端末に最も近い装置である基地局は,このRAN機能の一部または全部を具備したものである.図1①に示す4G D-RAN(Distributed RAN)構成では,RANの全ての機能がBBU(Baseband Unit)及びRRH(Remote Radio Head)に含まれた形で基地局に配置されている.このときのコア~BBUまでの区間の回線をモバイルバックホール(MBH)と呼ぶ.また,4G以降,基地局機能のうちBBUを収容局側に配置して複数のRRHを集中的に制御・連携させ,隣接するセル(各基地局のカバーエリア)間の干渉影響を緩和することで信号品質を改善するC-RAN(Centralized RAN)構成が可能となっている(図1②).このとき,BBU~RRH区間の回線のことをMFHと呼んでいる.5G C-RAN構成(図1③)の場合は,RAN機能を上位網側からCU(Central Unit),DU(Distribute Unit),RU(Radio Unit)に分割して配置する構成が取られ,コア~CU間回線をMBH,DU~RU間回線をMFHと定義している.(CU~DU間をモバイルミッドホールと呼ぶこともある.)
以降,本稿では,アクセスネットワーク部分に位置する基地局収容回線に着目し,各構成で用いられる光伝送技術を紹介する.図1①の4G D-RAN構成の場合,アクセスネットワークはMBH区間として利用される.一般に,MBH区間には概ね無線通信速度と同等のデータ通信速度が要求される.4G LTEの場合,最大通信速度が約1Gbit/s程度であることから,例えば1Gbit/sのイーサネット回線などが用いられる.一方,図1②の4G C-RAN構成や③の5G C-RAN構成の場合,アクセスネットワーク区間はMFHに相当する.MFHを伝送される情報としては,無線波形の物理層(PHY)に関わるディジタル情報が転送されており,一般にMBHに比べて大容量な回線が要求される.4G C-RANでは,Low-PHY(L-PHY)~RF処理の間を機能分割点としてMFH区間のインタフェースが切られており(3GPPでOption8として定義),無線信号のベースバンド時間波形サンプリングデータがCPRI(Common Public Radio Interface)等のフレームを用いて伝送される.Option8のMFHには無線通信速度の10数倍の伝送帯域が必要とされており,4Gの通信速度ではCPRIによる収容が可能であった.一方,5Gの理論上のピーク通信速度は20Gbit/sとされ,CPRIをMFHに適用すると100Gbit/sを大きく超える伝送速度が求められることから,低コスト化が求められるアクセスネットワークへの適用が非常に困難であった.このため,5GのC-RAN構成では,帯域要件が無線通信速度の5倍程度に緩和される機能分割点としてHigh-PHY(H-PHY)~L-PHY間(3GPPでOption7として定義)を利用し,eCPRIと呼ばれるイーサネットフレームベースのデータ伝送方式が用いられている.
ここまで,現行の5Gまでのアクセスネットワーク構成を紹介してきたが,100Gbit/s超の無線通信速度を目指すBeyond 5Gの場合,eCPRIであってもMFHへの要求伝送帯域が数百Gbit/s~サブTbit/s級に到達することが予想される.このため,Beyond 5G時代に向けて,技術的・経済的両面で実現が可能なMFH構成手法の確立が必要となっている.
筆者らは,無線信号波形をアナログ的に光伝送するアナログRoFをMFH伝送に適用することで,現実的な伝送帯域でアクセスネットワークを構成するための研究開発を進めてきた.図2(a)にアナログRoF方式に基づくMFH構成を示す.本構成では,従来基地局側で行っていたRF無線信号処理をDU側で行う.下り伝送では,DU側で生成した無線信号波形で光強度変調を行い生成したRoF信号を光ファイバ伝送し,RU側に転送する.上り伝送の場合も同様に,RUで受信した無線信号波形を用いて光強度変調を行い,RoF信号をDU側に転送する.このため,RU側の構成としては光送受信機とRFフロントエンド(RFFE)回路及びアンテナのみとなり,比較的簡易な構成とすることが可能となる.アナログRoF伝送では,従来ディジタル的にサンプリングされた波形情報を伝送することで生じていた伝送容量の拡大が起こらず,無線信号と同じ周波数利用効率で光伝送を実現できる.アクセスネットワーク区間における上り・下り双方向伝送については,上下で異なる波長の光源を利用した波長多重による一芯双方向伝送が一般的である.一方,単純なRoF伝送では光の伝送帯域に十分に生かし切れていないことから,収容局側で複数の無線信号をIF(Intermediate Frequency)帯で周波数多重した上でアナログRoF伝送を行うアナログIFoF方式が検討されている(図2(b)).RU側には周波数多重された複数の無線信号を分離する機能と最終的に電波として出力されるRF帯の周波数に変換するための周波数変換機能が追加される.一つの波長の中に多数の無線信号を重畳して伝送できることで,1波長の帯域利用効率を高めた形でMFH構成を実現できる.
これまでに筆者らは,IFoF方式を活用し大容量無線信号のMFH伝送に向け,主に下り方向を対象とした実証実験を進めてきた.文献(4)では,5G規格に準拠した400MHz幅の64QAM OFDM信号を12GHz以下のIF帯で24ch分多重して20kmのIFoF伝送を行い,光受信後に28GHz帯への周波数変換を行った後,最終的に10mの自由空間伝搬を行う構成で,5G無線信号の品質基準値であるEVM(Error Vector Magnitude)8%以下を全てのチャネルで満足する伝送実験に成功している.これはトータルの無線通信速度で換算して34.2Gbit/sに相当するもので,従来のeCPRIのようなディジタル方式に基づくMFHでは約200Gbit/s弱の伝送帯域を必要とするところを,12GHz程度の伝送帯域幅を持つ光変調器1台で伝送したことになる.更に,筆者らは周波数多重(FDM)だけでなく,波長多重(WDM)やマルチコアファイバ(MCF)を使った空間多重(SDM)を組み合わせ,1本の光ファイバで送信可能な伝送容量の拡大,無線信号チャネル数の拡張可能性を検証している.最新の成果では,400MHz幅の5G無線信号をFDMで24ch,WDMで16波長,SDMで12コア分多重し,総伝送チャネル数4,608ch,総伝送容量10.5Tbit/s(実信号帯域380.16MHz×6bit/(s・Hz)(64QAM)×4,608ch)のIFoF伝送に成功しており(5),複数の多重方式と組み合わせて光アナログ伝送を行うことで,Beyond 5G時代における100Gbit/s超の無線信号速度にも十分対応可能であることを示している.
Beyond 5G時代に想定される無線ネットワークアーキテクチャとして,基地局周辺に一定サイズのエリアを構成してエリア内のユーザを収容する従来型のセルラアーキテクチャではなく,複数のアンテナを連携させてユーザのいる位置に適応的に通信環境を提供する,ユーザセントリックネットワークが検討されている(6).これは,高速無線通信の実現に向けて広帯域化が可能なミリ波やテラヘルツ波への移行が進むことで面的なエリアカバーが困難になっていることや,従来型のセルラアーキテクチャにおいてセル境界付近で発生していた干渉を低減し,どこにいても均質な通信環境を提供することが目指されていることなどを背景としている.このようなユーザセントリックアーキテクチャの実現に向けた基地局間連携技術の一つとして,Cell Free massive MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)と呼ばれる分散MIMO型のアーキテクチャが検討されている.本稿での詳細な説明は割愛するが,多数の分散配置されたアンテナの中から個々のユーザ端末とデータを送受信するアンテナ群を構成し,これらの複数アンテナにMIMO技術を適用して信号処理を行うことでユーザ端末間の干渉を抑圧し,任意の場所で個々のユーザに対して適切な通信環境を提供しようとするものである.このようなCell Free massive MIMOの実現には多数のアンテナ配備が不可欠であり,前述の多チャネル無線信号を一斉送信可能なIFoF方式と連携した基地局展開の実現が期待されている.筆者らは,本構成の原理実証の位置付けで,5G基地局機能を持つ基地局エミュレータと複数の28GHz帯のミリ波アンテナ間をIFoF方式に基づくMFHで接続し,これらのアンテナ間を連携させる実証実験を行った(7).図3に本実験の構成概要を示す.本実験では,二つの分散されたアンテナ間の連携について確認しており,5G基地局エミュレータと2か所のアンテナとの間で,IFoF方式を用いた無線信号の双方向伝送を行っている.複数のアンテナサイトを1本の伝送路で伝送する部分はMCFを用いたコア多重を行い,各アンテナサイトに対応する一つのコアの中では波長多重により上り・下り信号を伝送した.アンテナ部では,光送受信機により光信号と無線信号を相互に変換し,周波数変換部によりIF帯信号と28GHz無線信号間の変換を行っている.これらの分散アンテナ間連携の有無による効果の評価の結果,二つのアンテナのうち一方を障害物により遮蔽した際に,アンテナ間連携がない場合にスループットが低下した一方,アンテナ間連携を行った際には安定したスループットが得られるなどの結果を確認している.
これまで,大容量化,ユーザセントリックネットワークの観点でBeyond 5G時代の無線システムに対するIFoF方式の親和性を述べた.最後に省電力化への期待について述べる.
通信事業者の消費する電力のうち,RAN設備が占める割合は大きく,全体の75%程度とも言われている(2).このため,今後のカーボンニュートラル達成に向けては,RANに関わる通信設備の省電力化を図ることは大きな課題である.前述のとおり,RoF/IFoF方式は,RU側の装置構成を光送受信機とアンテナに簡略化することができる.(IFoF方式の場合はIF分離多重機能と周波数変換機能も必要.)現行の基地局装置であるRRHやRUの消費電力のうち,最終段でRF信号を電波として出力する際の増幅器などを含むRFFE部の占める割合は大きい.RFFEはアナログRoF/IFoF方式を用いた場合でも必要となるため,現行の構成のままでは大幅な電力削減を実現することは難しく,この点はRF回路側の更なる技術開発に期待するところである.一方,これまでアンテナ側で行っていた無線信号処理やA-D変換回路等に必要となる機能・回路点数を削減することは可能であり,筆者らの机上試算では,RU装置の消費電力を3割程度削減できる可能性があると考えている.最終的には装置化した上で装置・システム全体としての効果を確認する必要があるが,複数のチャネルを効率的に伝送することによる光トランシーバ数削減の効果と併せて,Beyond 5Gに求められる付加価値的要件の一つである「省電力化」の観点からもアナログRoF/IFoF方式のポテンシャルは高いと考えられ,このような観点からもBeyond 5G向けMFH技術としてRoF/IFoF適用の議論が今後進展することを期待したい.
謝辞 本研究開発成果の一部は,国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「Beyond 5G通信インフラを高効率に構成するメトロアクセス光技術の研究開発(01401)」により得られたものです.ここに謝意を表します.
(1) 総務省,“Beyond 5G推進戦略―6Gへのロードマップー,”June 2020.
(2) Ericsson, “On the road to breaking the energy curve~A key building block for a Net Zero future~,” Oct. 2022.
(3) 3GPP TR38.801, V14.0.0, “Study on new radio access technology: Radio access architecture and interfaces,” 2017.
(4) H.-Y. Kao, S. Ishimura, K. Tanaka, K. Nishimura, and R. Inohara, “End-to-end demonstration of fiber-wireless fronthaul networks using a hybrid multi-IF-over-fiber and radio-over-fiber system,” IEEE Photonics Journal, vol.13, no.4, 7301106, Aug. 2021.
(5) K. Tanaka, S. Nimura, S. Ishimura, K. Nishimura, R. Inohara, T. Tsuritani, and M. Suzuki, “10.51-Tbit/s IF-over-fibre mobile fronthaul link using SDM/WDM/SCM for accommodating ultra high-density antennas in beyond-5G mobile communication systems,” ECOC2022, We1F. 2, 2022.
(6) J. Zhang, E. Björnson, M. Matthaiou, D.W.K. Ng, H. Yang, and D.J. Love, “Prospective multiple antenna technologies for beyond 5G,” IEEE J. Sel. Areas Commun., vol.38, no.8, pp.1637-1660, Aug. 2020.
(7) KDDI総合研究所,“世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応えるBeyond 5Gに向けた無線ネットワーク展開技術の実証に成功~無線・光技術を連携させた新たな基地局展開手法の実現に向けて~,”ニュースリリース,Oct. 2021.
https://www.kddi-research.jp/newsrelease/2021/100701.html
(2023年1月4日受付)
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