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空間伝送ワイヤレス給電の基本理論

Basic Theory on Far Field Wireless Power Transfer

大平 孝

大平 孝 名誉員:フェロー 豊橋技術科学大学未来ビークルシティリサーチセンター

Takashi OHIRA, Honorary Member (Research Center for Future Vehicle City, Toyohashi University of Technology, Toyohashi-shi, 441-8580 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.108 No.10 pp.1002-1007 2025年10月

©2025 電子情報通信学会

1.は じ め に

 ワイヤレス給電と言えばスマホの置くだけ充電のような近接結合方式を思い浮かべる.それに加えて,最近では離れた場所へ電力を届ける空間伝送方式が研究されている(1)(5).空間における電波伝搬を理解するにはマクスウェル方程式・ベクトルポテンシャル・ヘルムホルツの波動方程式などが一般に必修とされている.これら用語を耳にしただけで初めて触れる学生は敷居を感じる.もう少し親しみやすい入門方法はないものだろうか.

 本稿では最も単純なアンテナである微小ダイポールから出発する.三次元自由空間における微小ダイポールを1ポート回路と捉えて,放射電力と放射抵抗を導く.続いて,微小ダイポールのペアでワイヤレス給電系を構成し,線形2ポート回路網の考え方を用いて,アンテナ間の伝達インピーダンスと等価スカラ抵抗を導く.これにより,ワイヤレス給電の基本的性能指標である結合mathファクタ(math(用語))の適用領域が近傍界から遠方界へと拡張されることを示す.

2.微小ダイポール

 電波放射の源となる最も基本的な要素は短い導線に流れる正弦波交流である.この導線の中央に給電点(入力ポート)を設けた構造を微小ダイポールまたはヘルツダイポールと呼ぶ(6).三次元自由空間に置かれた微小ダイポールを図1に示す.波源と観測点の位置関係を示すために給電点を原点とする球座標系(math)を用いる.

図1 微小ダイポールと空間座標系

 入力ポート#1から正弦波を給電し,遠方点に到達する電界と磁界を観測する.簡単のため,ダイポール素子長mathは波長mathに比べて十分短く,かつ,波源から観測点までの伝搬距離mathは十分遠方,すなわち

math

(1)

とする.この前提で,ポート#1に励振するフェーザ電流をmathとすると,観測点での磁界強度の絶対値は

math

(2)

となる(7).磁界強度が電流値mathに比例し,伝搬距離mathに反比例するのは高校の物理で登場するアンペールの法則から容易に類推できる.

 ここで重要な因子は波長で正規化した素子長mathである.つまり同じ素子長でも波長が短い方が磁界が遠くまで届く.これは直感と真逆かもしれない.でも真実である.電波発生の原理として,波長が短い,すなわち,励振電流が俊敏に変化する方がより強い磁界が生じる…と考えると納得できる.

 最後尾の因子mathは放射指向性を表す.天頂角mathは定義域がmathなので,この範囲でmathは非負であり,図2の破線で示すように水平方向mathへ最も強く放射するきれいな円形パターンとなる.これを8の字指向性と呼ぶ.

図2 微小ダイポールの放射指向性


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