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解説
時系列長期予測の現在と展望
Recent Advances and Future Directions in Long-term Time Series Forecasting
A bstract
時系列データの長期予測は,エネルギー,金融,交通など幅広い分野で戦略的意思決定やリソース計画を支える重要技術である.近年,深層学習技術の進展とともに,Transformer系をはじめとした多様なモデルが提案され,長期予測精度の向上や新たな応用可能性が拡大している.一方で,現行のベンチマークデータセットやモデル構造には,スケーラビリティや汎化性,解釈性といった観点から課題が残されている.本稿では,時系列長期予測の技術的要点,最新のモデル動向,現状の課題を整理し,更に今後の研究の方向性として,時系列長期予測における基盤モデルの可能性について論じる.
キーワード:時系列,長期予測,深層学習,基盤モデル
時系列予測は,エネルギー需要予測,金融市場分析,スマート交通システム,天気予報など,多岐にわたる分野で重要な役割を担っている.過去のデータを分析し,将来の値を予測することで,意思決定の質を向上させることが可能である.時系列予測の研究は,大きく「短期予測」と「長期予測」に分類され,それぞれ異なる目的や課題を有している.表1に,両者の主な違いを示す.
短期予測は,数ステップから数十ステップ先,すなわち数分から数時間先の予測を対象とし,オペレータによるリアルタイム制御や異常検知などに利用される.一方,長期予測は,数十ステップから数百ステップ先,すなわち数時間から数年先までの将来値を対象(1),(2)とし,リソース計画立案や最適化など,より戦略的な意思決定の基盤となる.例えば,電力市場の小売事業者は長期的な電力需要を予測することで,調達計画を最適化している.金融機関では,投資戦略やリスク管理のために市場の長期予測が活用される.交通分野においても,長期的な交通量の予測はインフラ整備や渋滞対策の基盤となる.このように,長期予測の誤差は投資効果の著しい低下や機会損失に直結するため,頑健で信頼性の高い予測モデルの構築が強く求められている.
しかし,長期予測においては,予測対象期間が長くなるほど不確実性が増大し,小さな誤差が時間とともに蓄積されることで,予測精度が大きく低下するという課題が存在する.この課題を克服するためには,過去との時間的依存関係や変数間の相関関係を適切に捉え,分布の変動や環境変化にも柔軟に対応できるモデルが必要となる.従来の統計的手法や機械学習モデルは短期予測には有効であるが,長期予測特有の複雑さには十分に対応できない場合があると指摘されている(1).
近年,長期予測に特化した新たなアプローチが多数提案され,研究が活発化している.例えば,Transformer(3)ベースのモデル(用語),線形モデル(用語)やMLP(Multi-layer Perceptron)モデル(4),(用語),CNN(Convolutional Neural Network)(5)ベースのモデル(用語)など,長期予測の難しさに対応するための革新的な手法が次々と登場し,その有効性が示されている(6).本稿では,これら最新の研究動向を概観し,各手法の特徴や課題を整理するとともに,時系列長期予測の今後の展望に関して概説する.
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