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FPGA(Field Programmable Gate Array)が量産品に対しても当たり前のように使用される時代になり,今後もしばらくFPGA市場の急成長が続くであろうことについて疑問の余地はないであろう.ハードウェアシステムを開発する企業においては製品に対してFPGAを効率的に導入できるエンジニアの育成を急いだ方がよい.今後もプロセス技術の進歩が続く限り,FPGAはASIC(Application Specific Integrated Circuit)市場を駆逐し続け,優位性を保ち続けるものと思われる.また,ソフトウェアエンジニアもFPGAの学習に力を入れた方がよい.Intelが次世代ProcessorチップにFPGAの導入を開始しており,FPGAメーカが主導してきた「FPGA+プロセッサ」チップが爆発的に普及する可能性が出てきた.パソコン,ワークステーションにFPGAが載る時代が来そうである.もちろんFPGAを知らないソフトウェアエンジニアでも開発ができるように,C++やJavaを活用した高位合成ツールの整備が進むと思われるが,性能面においてまだ改良の余地があり,しばらくの間はFPGAの特性を熟知したソフトウェアエンジニアが重宝される時代が続くことになるであろう.
現在のFPGAの爆発的な普及は,全てがそうではないにせよ,ある程度は先端集積回路のイニシャルコストの高騰の要因により支えられていると言える.FPGAはどのように設計されようとも,同プロセスでカスタム設計されたASICの性能と比べれば,動作速度,消費電力,ダイサイズ(価格)の全ての面で大きく劣る.つまり,集積回路の技術進歩が停滞したり,若しくは先端プロセスのイニシャルコストが下がるなどし,ASICに比べて数世代先のプロセスが利用できる利点がFPGAからなくなれば,途端に従来のASIC市場が勢いを盛り返し,FPGA市場はある程度の縮小を余儀なくされる.今の勢いからFPGAのみが絶対的であると信じるのは危険で,変化に備えておく必要があるであろう.
コンピュータ等の設計をしたことがある人であれば,教えられなくても,Look-Up Tableの基礎,つまり論理回路がSRAMで実現できることを誰でも一度はイメージしたことがあるであろう.ただ,代表的なFPGAベンダであるXILINXやALTERAの設立当時(1983~1984年)のSRAMは小容量,高価,かつ恐ろしいほど低速であった.少しでも高速に動くコンピュータシステムの開発に注力していた時代に,論理回路の代わりに数十倍も低速なLook-Up Tableを使いたいと考える人は誰もいなかったであろう.しかしながら,FPGAの開発史は,ブレークスルーがそういった「皆が何の役にも立たないと思っているもの」から生まれることを示唆している.そして今,それに見向きもしなかった日本企業はFPGAデバイス市場に参入できずにいる.もし,大きなブレークスルーを狙うのであれば,今,「役に立つとは全く信じられない何か」の研究に真剣に取り組むべきであろう.FPGAの開発史は研究者・エンジニアが大切にすべき指針のようなものを教えてくれる良い教材でもある.
今,誰もがFPGAの有効性を理解し,これまでFPGAを使用していなかった技術者・研究者たちが大挙してFPGAを使用する時代が来た.ただ,その一方で,FPGAの研究を本職とする研究者たちはFPGAベンダがばく大な資金,人材の下で行う研究成果とまともに対峙していく時代を迎えている.小手先の研究が通用しない試練,及び淘汰の時代を迎えたと言えるであろう.日本のFPGA研究者の底力を見せたいところである.
(平成29年5月21日受付 平成29年6月23日最終受付)
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