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本研専が名に冠するPlen-opticは,完全を意味するラテン語であるplenusとopticから作られた造語である(1).シーン中を飛び交う様々な強度の光を目が受容することで,我々は物を「見る」ことができる.こうして知覚される視覚情報を構成する基本要素として,空間中を飛び交う光線の集合やその時間変化を考えることができる.Adelsonらはこれをplenoptic functionと名付け,三次元位置・方向,時刻,波長に対する光の強度を定義する七次元の関数を定義している.
これまでの撮像デバイスの進展の多くは,光学素子や電子デバイスの発展により支えられてきた.一方,PoTS映像学は,plenoptic functionの考え方に基づき,時空間中を飛び交う光線の強度を観測し,これを演算して画像を作り出す技術である.三次元位置・方向,時刻,波長を総合的に捉えて相補的に扱ったり,時空間を飛び交う光線の強度について成り立つ制約を導入したりすることによって,計測されたあらゆる情報を人の視覚を通して提示するための「イメージング技術」の高度化を狙う.イメージングに支えられている分野は学術界,産業界を問わず多岐にわたる.今後10年は,各分野の要求に合わせて裾野を広げながら,PoTS映像学技術は大きく発展するだろう.
PoTS映像学が対象とする撮像技術は,観測された光線データの演算処理を基本とするため,観測に用いられるカメラの光学系にも大きな変革が起こっている.新たな機構を有するカメラとしてPlenopticカメラ(2)が既に商品化されており,撮影した後に自由に焦点を変化させる等,新しい画像撮影体験を提供している.一方,光線データの演算処理は,過去の映像資産の活用方法にも大きな革命を与えるであろう.古い機構のカメラによって撮影された映像から元の光線情報を復元し,演算処理を行うことにより,過去の映像から新たな発見を可能にする画像生成が実現できる.こうした新しい活用を実現するために,コンピュータビジョンで従来から研究されている幾何・フォトメトリ等の方法論をいかに拡張していくかが,PoTS映像学における重要な課題となる.
またPoTS映像学が対象とする表示技術にはライトフィールドディスプレイと呼ばれるものがあり,従来の三次元ディスプレイを超えて,眼の焦点調整も原理的に考慮されている.眼との物理的な距離が近いヘッドマウンテッドディスプレイを用いるバーチャルリアリティや拡張現実感の分野では,こうしたディスプレイの活躍が期待されている(3).また,提示するCGの合成やインタラクションに関わる技術にも変革が起こると予想され,新たな映像表現や価値の創成にも期待される.
(1) E.H. Adelson and J.R. Bergen, “The plenoptic function and the elements of early vision,” Computational Models of Visual Processing, pp.3-20, MIT Press, 1991.
(2) Lytro Cinema, https://vimeo.com/161949709
(3) D. Lanman and D. Luebke, “Near-eye light field displays,” ACM Trans. Graph., vol.32, no.6, Nov. 2013.
(平成29年5月1日受付)
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