小特集 1. エレクトロニクス分野におけるシミュレーションの役割と展望

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電磁界シミュレーション技術の進展

小特集 1.

エレクトロニクス分野におけるシミュレーションの役割と展望

The Role and Prospects of Simulations in Electronics

柴田随道

柴田随道 正員:フェロー 東京都市大学知識工学部情報通信工学科

Tsugumichi SHIBATA, Fellow (Faculty of Knowledge Engineering, Tokyo City University, Tokyo, 158-8557 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.100 No.5 pp.337-341 2017年5月

©電子情報通信学会2017

abstract

 本稿では,電磁界シミュレーションを例にとりながら,エレクトロニクス分野で用いられるシミュレーション技術の今日までの発展とシミュレーションが果たしてきた役割について記述し,最近のシミュレーション技術の研究に関する話題を幾つか紹介する.数値シミュレーションは,コンピュータの飛躍的発展に伴い,大規模で精度の良い計算が実行できるようになり,もの作りの便利でかつ必須の道具となった.一方で,次のパラダイムに向けてシミュレーション技術の更なる進化が望まれる.

キーワード:シミュレーション,数値計算,エレクトロニクス,スーパコンピュータ

1.ま え が き

 本小特集には,本会のエレクトロニクスソサイエティで主要テーマとされている光・テラヘルツ・マイクロ波や高速・高周波集積回路の研究において基盤的な技術となる電磁界シミュレーションについて,幾つかの話題が集められている.本稿では,マクスウェル方程式を基礎とする電磁界シミュレーションを具体例としてシミュレーション技術の進展を振り返り,今後を展望したいと思う.エレクトロニクス分野で研究対象となってきた装置やデバイス,材料の開発には,電磁界だけでなく,熱,振動,半導体,製造プロセス,そして回路,システムなど数多くのシミュレータが活用される.これらのシミュレーション技術(適用範囲や解析規模,精度)は,①ムーア則に乗った計算機性能の拡大,②新たな計算手法の提案やアルゴリズムのたゆまぬ改良,によってこの四半世紀の間に飛躍的に進展し,成熟してきているとも思われる.電磁界シミュレータについて言うと,一昔前と比べて,ユーザの立場にある研究者からシミュレーション性能に関する苦情を聞くことが少なくなった.使用するシミュレータの計算原理をある程度理解し,使い方を間違えなければ,大方の設計に十分な結果が実用上問題にならない範囲のコストと時間で得られていると多くの研究者が実感しているのだと思う.

 もちろん,シミュレーション技術の一層の高度化に対する余地は多く残っており,取り組むべき研究課題が山積している.シミュレーション技術は,エレクトロニクス全般の技術発展に伴って,常に進化すべき性質のものだからである.しかしながら,同時に,シミュレーション技術の新たなパラダイムへの展開を展望してみる時期に来ているようにも思われる.本稿では,その一助となることを願いつつ,これまでのシミュレーション技術の進展と役割を概観し,今後の方向性について私見を述べたい.

2.シミュレーション技術の進展

2.1 コンピュータ出現以前のシミュレーション

 始めにシミュレーションという概念の形態やそれが果たしてきた役割について,歴史的な経緯を含めて調べておく.

 今日,シミュレーションと言えば,大方の人は計算機シミュレーションを考える.しかし,コンピュータの出現以前,あるいはその計算能力が非力であった時代のシミュレーションは,訳語の一つである「模擬実験」が示すとおり,実際に近い状況をまねて作り出し,その振舞いを観測して実際の様子を予想するものであったということである.その手法を分類すると,


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