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講座
Sパラメータ特論[Ⅱ]
――Sパラメータの諸性質――
Advanced Concepts in S-parameters[Ⅱ]:Properties of S-parameters
目 次
[Ⅰ] 反射係数の二つの定義(5月号)
[Ⅱ] Sパラメータの諸性質(6月号)
[Ⅲ・完] 基準インピーダンスの設定(7月号)
前回は1ポートのSパラメータである反射係数について考察した.特に断りなく「電圧」や「電流」に言及したが,Sパラメータは中空導波管のようにTEM(Transverse Electromagnetic)伝送線路的な意味での「電圧」や「電流」が存在しない系に対しても適用できる.この場合の議論は,電界と磁界を基に定義された「実効的な電圧」と「実効的な電流」を使って展開される(1),(2).損失がある擬似TEM伝送線路についても同様である.「実効的な電圧」と「実効的な電流」の定義には任意性があり,また,特性インピーダンスの定義(絶対値の選び方)にも任意性がある.この辺りを真面目に考えるのはかなり面倒である(3).
マイクロ波帯で測定される一次情報はSパラメータである.Sパラメータとイミタンス(Zパラメータ,Yパラメータ)の行き来には基準インピーダンス(通常は特性インピーダンスに一致)が必要で,かつ,この行き来は高周波集積回路では必須である.一方,中空導波管を中心としたマイクロ波の世界では,導波管の特性インピーダンスを正確に把握しておく必要は必ずしもない(1).フィルタの設計理論は回路理論を使って記述されるが,そこで出てくるイミタンスは,言ってみれば「相対値」である.そのため,仮にとしてしまうこともよく行われている(2).中空導波管系ではの値をうやむやにしたままでも何とかなってしまうことは,基準インピーダンスで規格化した取扱い(すなわちSパラメータ)の利点として認識されている(1).しかしながら,集積回路設計ではSパラメータから電圧・電流の情報を取り出さなければならないので,基準インピーダンスの値は正確に把握しておく必要がある.測定時のがどのように決まるかについては次回論じる.
が複素数の場合,Sパラメータには電圧進行波を使って定義したものと,電力波と呼ばれる量を使って定義したものの二系統が存在することを前回述べた.両者はかなり性質が異なり,が実数値の場合のみ一致する.今回も,これら二系統のSパラメータについて性質を調べていく.理論上,二系統の定義があるのはいいとして,測定との関係はどうなっているのだろうか.前回に引き続いて反射係数(1ポートのSパラメータ)について考察した後,2ポート以上のSパラメータについて説明する.
複素反射係数平面上で,基準インピーダンスで規格化されたインピーダンスを読み取れるようにした円線図が水橋・スミスチャートだ(以下,スミスチャートと記す).インピーダンスの1ポートがあったとき,電圧進行波に対する反射係数は
(1)
電力波に対する反射係数は
(2)
である.式(1)が想定するのは図1のような系で,入射し反射されるのは電圧進行波だからとする.式(2)が想定するのは図2のような系で,入射し反射されるのは電力波でありとする.
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