巻頭言 編集長退任にあたって

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.101 No.6 (2018/6) 目次へ

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1.は じ め に

 平成26年初頭だったと思いますが,当時の井上会長から編集長就任の打診を頂き,もう理事の役職に就くことはないと思っていた私ですが,坂庭先生の後任をお引き受けすることになりました.それまで編集についての本格的な活動経験はありませんでしたが,本会でいろいろな役職を務めさせて頂いていたので,何とかなるだろうと気軽に考えてのことでした.しかし,いざ就任してみると所掌範囲が広く,また各々の活動が非常に活発で最初は手探りの状態で取り組み始めました.ただ,一緒に活動頂いた歴代の編集理事さんはじめ委員の皆様の大変熱心な取組みと,事務局の皆様のしっかりした支援のおかげで何とか4年間役目を務めることができました.心から感謝致します.特に任期の最後の年となる平成29(2017)年度は本会創立100周年に当たる年で,編集関連でも例年以上に作業が多くなり,関係者の皆様の御苦労も大変だったと思いますが,何とか順調に乗り切ることができ,私にとりましても良い思い出となりました.

2.主 な 活 動

 表1にはこの4年間に行った主な活動をまとめました.ここでは,会誌,論文誌,創立100周年記念に関する活動について,簡単に紹介します.

表1 主な活動

会誌

記事について

・分野横断型のテーマを扱うワーキンググループ(WG・E)の活性化

・平成28年6月から一部記事を日経テクノロジーオンライン(現 日経xTECH)へ掲載

電子化について

Push型配信システム構築・サービス開始

・構築

平成27年7月 iOSアプリでの500名規模でのトライアル開始

平成28年10月 Androidアプリ完成

・機能追加

平成28年3月 コメント配信サーバ

平成29年2月 SNS連携開発,試し読みサイトの構築

平成29年6月 各種お知らせページ,What’s New対応版開発,トピックスのAtom形式を収集して登録する機能

広告施策

・広告目次,後付広告枠,特殊ページ(挟込),広告賞の廃止

・同封サービスの展開

・学会Webサイトバナー広告開始

・メールヘッダマガジン

論文誌

新しいジャンル

平成27年10月 マルチメディアデータを伴う論文受付開始(ED)

平成27年10月 「Position Paper」という新種別を創設(EB)

平成27年12月 早期公開対象となる投稿受付開始(JB, EB, ComEX)

平成28年11月 データセット論文の新分類を創設・投稿受付開始(ED)

施策

平成28年11月~平成29年3月 剽窃チェックシステムトライアル(EB, ComEX)

平成29年1月  J-STAGEにおいて無料公開を実施(ED)

平成29年2月  論文誌の論文PDFのセキュリティ保護(コピペ防止など)解除

創立100周年記念事業

・会誌編集委員会:創立100周年に関する会誌記事(平成29年)

1月号 巻頭言:創立100周年の年初にあたり(佐藤健一会長)

電子情報通信学会創立100周年宣言

5月号 電子情報通信学会の100年(電子情報通信学会略年表/利根川初代会長就任演説)

創立100周年記念特集 6,8,9,10,11月号

創立100周年記念号 12月号

※創立100周年記念特集と記念号はオープンアクセス

・編集連絡会:創立100周年記念懸賞論文

・出版委員会:バーチャル図書館設置


2.1 会誌

 会誌については,読みやすい記事作りについての取組みと,経費の問題について紹介します.

 読みやすい記事作りについては,広く会員の方に読んで頂けるよう,なるべく平易な記述を心掛けてきました.また本会が関連する各分野について,会員の興味が深いと思われるテーマを選んで特集・小特集として取り上げ,先端の研究者の方々に分かりやすい解説をお願いして掲載を行いました.その結果,この4年間で扱ったテーマが創立100周年記念関連の6件を含めて53件に上りました.特に意識して取り組んできたのが,分野を超えたテーマの紹介です.近年注目が高まっている分野を融合した取組みの重要性を鑑みて,分野を横断する内容を企画して会誌に掲載するため,会誌編集委員会でも従来の分野別の四つのワーキンググループに加えて,分野横断型のテーマを扱うワーキンググループ(WG・E)を平成25年に立ち上げて活動を行っています.この4年間で構成メンバーも充実して,平成29年度からは特集も企画し,4件の実績を上げるようになりました.また,技術面だけではなく,社会との関わりに注目した特集が増えてきたのも一つの流れだと思います.

 特集に加えて,注目度の高いテーマに関する技術解説記事掲載,関連ニュースの紹介を行い,本会らしい技術的正確性が高い情報の提供にも努めてきました.あわせて,最先端で高品質な学会の活動をもっと広く知って頂くことを目指して,社会に対するアウトリーチ活動の取組みも開始しました.手始めとして,日経xTECH(旧日経テクノロジーオンライン)への会誌記事掲載が始まっています.具体的には,会誌の記事の中から日経xTECH編集者に2~3件選択してもらい,会誌コンテンツを日経側が圧縮,またタイトルを読者層に合わせて変更するなどしたものを,執筆者の了解を得てオンライン版に掲載するものです.平成28年4月号の記事から選定を開始,6月から掲載し毎月継続しています.

 一方経費については,現在は一般社団法人に移行するにあたって設定した特別会計で賄っていますが,この原資が枯渇した後に備えて電子化の施策を積極的に進めました.本会ホームページ掲載のオンライン版の拡充と並行して,平成26年6月からPush型配信システムの検討を開始し,まず平成27年にiOSアプリによる500名規模でのトライアルを開始,またAndroidアプリの開発も行い平成28年には両アプリでのサービスを開始しました.電子化ならではの追加機能の開発を続けており,ユーザの皆様により楽しんで頂ける環境の構築を行いました.

 増収策も試みております.収入源となる広告についても,近年の広告媒体が次第にWebに重点が移り会誌への出稿が大きく減少していることから,この4年間でWebの活用や,一部項目の廃止をはじめ,表1に示したようないろいろ施策を行いました.その中でも,新たに始めた同封サービスの展開については,毎月1種類の広告に限定し会誌に同封することで会員の目に触れやすいよう工夫しており,好評です.

 編集長として密かに楽しんだのは,表紙のデザインです.編集出版部鈴木部長とデザイナーさんの助けを借り,小さく生まれたアイデア・技術が次第に膨らみ大きく広がっていく経過を,水をモチーフとして水源・谷川・中流そして大海へ注ぐという流れを季節と併せて4年間で完結させました.私にとって良い思い出となっています.

2.2 論文誌

 論文誌については,基本的にソサイエティの論文編集委員会の責任の下でそれぞれの特徴を出した取組みが行われていますが,幾つか特徴的な変化が起きているので,簡単に紹介します.

 その一つは,時代の流れに沿った論文の内容についての変化です.英文論文誌D(ED)ではマルチメディアデータを含んだ論文の受付を平成27年10月から開始し,更に平成28年11月からはデータセット論文という新分類を創設しています.同様に,英文論文誌B(EB)では,ポジションペーパという新種別を創設し平成27年10月から運用を開始しています.

 その2は,早期掲載を助けるための施策です.残念ながら,いまだに剽窃や二重投稿の例が見られ,これらのチェックは労力も時間も掛かる作業となっています.そこで,EB,及びComEXでは剽窃チェックシステムをトライアルで導入し(平成28年11月~平成29年3月),その効果を確認しています.また,エレクトロニクスソサイエティではプレスクリーニングシステムを導入し,査読委員の負荷削減を図っています.

 また,論文の流通を広める施策も採られており,EDではJ-STAGEにおいてオープンアクセス化のトライアルを実施(平成29年1月)していますし,通信ソサイエティでも新しい施策を検討中です.全論文誌の論文PDFのセキュリティ保護(コピペ防止など)を解除(平成29年2月)したのも,この一環です.

2.3 創立100周年記念事業

 本会は平成29年5月1日に創立100周年を迎えましたが,会誌編集委員会,編集連絡会,出版委員会でもそれに併せて種々の企画を行いました.

 まず会誌編集委員会では,平成29年1月号の佐藤健一会長の創立100周年宣言を皮切りに,6,8~11月号では4領域及び領域横断型の創立100周年記念特集を編さんし,12月号では記念式典の様子を記した創立100周年記念号を組み,シリーズで100周年を祝いました.これらの記念特集及び記念号につきましては,アウトリーチの意味も込めてオープンアクセスとしております.なお,本会ホームページ掲載のオンライン版は,創立100周年記念事業の一環として平成29年12月に完成し,会員であれば創刊号から全ての記事が閲覧できるようになりました.

 編集連絡会関連では,創立100周年記念懸賞論文募集を行いました.今回はソサイエティ主体で実行する方式にし,ソサイエティごとに未来志向を意図したテーマを設定して募集・審査を実行しました.その結果最優秀賞2件,優秀賞4件が選定され,記念式典で表彰されました.

 出版委員会では,学会の貴重な財産である過去からの出版物について,より広く読んで頂けるようにWebを使ったバーチャル図書館を設置することにしました.第一弾としてmath信工學math俗叢書シリーズ(全7編38書目)について,会誌会告欄及び本会ホームページ上において著作権の本会への委譲を呼び掛けた上で,スキャンして12月から一般公開しました.今後も活動を継続していく予定になっています.(http://www.ieice.org/jpn/books/virtual-library.html

3.今後に向けて

 以上記述したように,関連委員会はいろいろな施策を施しながら時代に沿った活動に変革を続けていますが,私が着目している点が幾つかあります.

 論文誌の内容に関してですが,言うまでもなく学会の価値の中心を成すもので,現在もその機能は果たしていると思います.ただ,企業からの論文が非常に少なくなっているように思います.これは企業所属会員の減少ともつながっており,本会にとって重要な問題です.既に,ポジションペーパ募集やデータセット論文のカテゴリーを作る等の試みがなされていますが,より社会と結び付いた活動の論文が増えるような施策を考えることも必要ではないかと思います.ICTの企業で元気が良いのはこのような側面を持つ企業,ベンチャーのように思いますが,残念ながらそのような企業の会員は少ないと思います.新しい流れを積極的に取り入れることにより,活気も増すように思いますし,前触れとして研究会でこのような動きが活発化するのを期待します.会誌についても同様のことは当てはまりますし,会誌の性格として取り入れやすいと思いますので,積極的な取組みをお願いしたいと思います.

 本会の論文誌は,委員の皆様のおかげで投稿から採録までの期間が短いことも評価されています.この良い伝統を保持するためには,関連した情報処理システムを改善してプロセスの効率化を図る必要があります.幸い本会の情報処理システムの刷新が進んでおり,更に剽窃チェック等の機能が充実していくことを期待しています.

 組織面で一つ気になることがあります.それは,論文誌に関して学会としての統一見解を議論する委員会がないことです.各ソサイエティで様々な変革を進められておりそれは高く評価しますが,外から見た場合の統一性がなくなっていく側面もあります.現在でも編集連絡会で情報共有や意見交換は行われていますが,議決機関ではありません.この側面については,今のままの方がダイナミックに動けるのでよいという見解もあると思いますので,一度どこかで議論頂ければと思います.

 会誌については,電子化を着実に,またWebらしいより魅力的な機能を加えながら進めて頂ければと思います.中期的には,グローバル化への対応について考え始める必要があるかと思います.現在既に海外会員が1割を超えておりますが,会誌については基本的に国内会員が対象となっています.論文誌は英文論文誌があり,そのおかげで海外会員も増えましたし,本会活動の世界における認識も広がったと思います.会誌についても,今後の方向性を議論する時期にあるのではないでしょうか.

4.結     び

 いろいろと及ばなかった点も多かったと思いますが,関係者の皆様の惜しみない貢献のおかげをもちまして,編集長としての4年間を務めさせて頂きました.機械振興会館での熱心な議論は強く印象に残っています.特に会誌編集におきましては,個人的にも世の中の動向をつかむことができ,良い勉強の場になったと思います.今後,論文誌,会誌共に更に多くの人に読んで頂き,本会が生み出す知識を世の中に広める役割を続けて頂きたいと思います.

 皆様,有難うございました.


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