解説 ものづくりにおけるAR/VR技術の活用

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解説

ものづくりにおけるAR/VR技術の活用

Utilization of AR/VR Technology in Manufacturing

茂木厚憲 石月義克 吉武敏幸

茂木厚憲 正員 (株)富士通研究所フロントテクノロジー研究所

石月義克 (株)富士通研究所フロントテクノロジー研究所

吉武敏幸 (株)富士通研究所フロントテクノロジー研究所

Atsunori MOTEKI, Member, Yoshikatsu ISHIZUKI, and Toshiyuki YOSHITAKE, Nonmembers (Front Technologies Laboratory, Fujitsu Laboratories, Ltd., Kawasaki-shi, 211-8588 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.101 No.7 pp.678-683 2018年7月

©電子情報通信学会2018

abstract

 AR/VR技術は広く一般に知られる技術となり,エンタテインメント向けのみならずビジネス向けにも適用領域が拡大している.特にものづくりの現場で作業する作業員一人一人に適切な情報を提示する作業支援や,実際の現場環境を模擬し作業員を訓練する教育活用が進んでいる.本稿では,近年のものづくりにおけるAR/VR技術の活用のトレンドを述べるとともに,ユースケースとしてAR/VR技術を実際の作業現場に適用した事例と効果について解説する.

キーワード:AR/VR,作業支援,重畳表示,検査作業,危険教育

1.ま え が き

 AR(Augmented Reality:拡張現実)とは,計算機で生成された情報を現実世界に付加してユーザに提示する技術である.一方VR(Virtual Reality:仮想現実)とは,画面上にコンピュータグラフィックスを用いて仮想空間を表現する技術である.近年の計算機の処理速度の向上や,スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末の普及に伴い,AR/VR技術は多方面に応用されつつある.

 応用先として最も多いのがエンタテインメント分野である.ARについては,2016年夏にPokémon GOがリリースされ,一気に認知度が高まった.VRについては,Oculus Riftに代表される比較的安価なHMD(Head Mounted Display)の登場をきっかけに,家庭用ゲーム機やアーケードゲームへの導入が進んでいる.

 一方,AR/VR技術のビジネス向け応用も,徐々に検討が進められている.IDC Japanによると(1), 2017年の世界のAR/VR関連市場の支出額91.2億ドルの内訳は,エンタテインメント向け27.3%である一方,ビジネス向け応用は組立製造業3.1%,小売業2.9%でありまだまだ少ない.しかし今後数年で流通・サービス分野や製造・資源エネルギー分野において,ビジネス向けAR/VR技術が盛んに適用されると見られている.

 特に,製造業に代表されるものづくりの現場では,AR/VR技術の活用により生産性を向上する試みが始まっている.例えば,ARにより作業員一人一人に適切な情報を提示することで作業支援を実現する,若しくはVRにより実際の作業環境を仮想的に作り出し,作業員の教育へ活用する,などの事例がある.リアル情報とバーチャル情報の融合により新たな価値を創出し,ものづくり業界の競争力を向上させる期待が高まっている.

 本稿では,ものづくりにおけるAR/VR技術の活用について動向を概説した上で,筆者らが取り組んできた具体的な適用事例3点(保守・点検,検査,教育)を紹介し,将来展望を述べる.

2.業 界 動 向

 ものづくりにおけるAR/VR技術活用は既に複数の企業で実証実験や製品化が行われており,ここではその一部を紹介する.保守・点検分野では,遠隔の作業指示者が作成した手書きの伝達事項を現場作業員の把持する端末に重畳表示し,作業の効率化やミスの軽減を実現している例(2),点検対象の三次元モデルを用いて,複数機器の点検順序や点検項目を重畳表示し,作業員の負荷軽減や点検ミス抑制を実現している例(3)がある.教育分野では,運航乗務員や整備士の訓練ツールのアプリケーションを開発した例(4),新人が車の構造や挙動を学ぶためのツールとしてAR/VRの活用を検討した例(5)などがある.


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