解説 誤りを許容する回路とシステム

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Vol.102 No.10 (2019/10) 目次へ

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解説

誤りを許容する回路とシステム

Imprecision-tolerant Circuits and Systems

越田俊介

越田俊介 正員 東北大学大学院工学研究科電子工学専攻

Shunsuke KOSHITA, Member (Graduate School of Engineering, Tohoku University, Sendai-shi, 980-8579 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.10 pp.963-967 2019年10月

©電子情報通信学会2019

abstract

 回路とシステムの開発においては,要求される性能がますます高度になっている一方で,回路面積や消費電力といった実装面での制約が従来よりも一層厳しくなっている.この問題を解決するため,近年では,システムの設計から実装までの各手順に要求される様々な技術において,従来の手法に対して若干の「誤り」を許容して手順を簡素化し,これによって実装コスト・回路規模・処理速度等の性能指標を大幅に改善した研究が数多く報告され,様々な分野で注目を集めている.この研究テーマについて広く議論することを目的として,本会の回路とシステム研究会では,2017年9月の本会ソサイエティ大会にて「誤りを許容する演算方式に基づく回路とシステム」のシンポジウムセッションを開催した.本稿ではこのシンポジウムセッションの内容に基づいて,誤りを許容する回路とシステムに関する近年の研究動向を総括する.また,本研究テーマの特徴及び今後の課題を,主として筆者の専門分野である信号処理の観点から述べる.

キーワード:回路とシステム,設計,実現,実装,誤り

1.は じ め に

 回路とシステムに関する研究は,基礎理論から応用・実装技術まで多岐にわたっているが,どの研究分野においても,実装コスト・回路規模・消費電力の削減や,処理速度の高速化といった要求は一層厳しくなりつつある.この背景の一つには,ムーアの法則の限界によって個々のデバイスの性能向上が難しくなってきていることが挙げられる.また,ヒューマンインタフェースの需要の拡大及びIoT製品の爆発的な普及に伴い,複雑かつ大規模なデータを小形の端末で誰でも簡単に処理できるような技術が必要とされていることも,上述の厳しい要求の背景として挙げられる.言うまでもなくどの分野においても,従来主流となっていた手法を用いるだけでは,このような厳しい要求に対応し続けることは不可能となってきている.

 従来の回路とシステムの研究では,出力を得るための過程で用いられる様々な演算において「数値データを正確に表現すること」及び「正確な数値演算を実行すること」が暗黙の了解とされていたが,これらに従って構築される回路とシステムでは,先述の消費電力・回路規模・処理速度に関する厳しい制約を満たせなくなってきている.そこで近年では,この問題を解決するために,数値データの表現及び演算の実行においてある程度の「誤り(すなわち不正確性,精度の劣化)」を許容し,従来よりも簡単化された回路とシステムを構築する試みが注目を集めている.このような試みはApproximate Computingという用語で総称されており,今日では回路とシステムの設計・実現・実装に関わる基礎理論とともに,回路を構成するための各デバイスの開発やコンパイラの構築等,非常に幅広い分野にて適用されている(1)


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