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回路とシステムの研究を「社会実装」するまで
小特集 1.
技術の「民主化」がもたらすもの
What Does “Democratized Technology” Realize?
abstract
近年の高度かつ安価な設計ツールや加工技術の普及によって,誰もが「作り手」になり得るメイカームーブメントと呼ばれる世界的な潮流が起こっている.これはホビーの枠を超えてハードウェアスタートアップと呼ばれる起業にもつながり,従来型の産業構造を補完するものとして定着しつつある.本稿では,この潮流の背景にある「技術の民主化」とでも呼ぶべき現象について考察する.
キーワード:メイカームーブメント,技術の民主化,技術の道具化,多様性
産業の歴史を見ると,実現するための「技術」と,それを裏付ける「科学」とが一体化した「科学技術」となったことで,産業の進化が加速された.その科学技術は,必然的に高度化の歴史を歩み,その結果,徐々に「それを使う側」と「それを生み出す側」が明確に分離してきた.このような明確な分業化は,それぞれの側での高度化を促し,産業の全体としての進化を加速してきた.しかしその一方で,特に技術の高度化は,それを使う側にとっての技術のブラックボックス化につながり,また生み出す側にとっては時に社会的ニーズとのミスマッチを生むこととなり,それらが産業の進化の弊害となる場面も見られるようになった.
一方,近年の高度かつ安価な設計ツールや加工技術の普及によって,誰もが「作り手」になり得るメイカームーブメントと呼ばれる世界的な潮流が起こっている.これはホビーの枠を超えてハードウェアスタートアップと呼ばれる起業にもつながり,また大企業でも部分的に取り入れる例も増え,従来型の産業構造を補完するものとして定着しつつある.本稿では,この潮流の背景にある「技術の民主化」とでも呼ぶべき現象について考察する.
近年,いわゆる「ものづくり」の世界において,メイカームーブメントと呼ばれる世界的な活動の広がりがある.なおこの「メイカー」は“Maker”の日本語訳であるが,日本語で製造業企業を表す用語(メーカ)とは異なり,文字どおり「作る人」を表し,「メーカ」とは区別して表記する.メイカームーブメントには多角的な側面があるが,例えば米MITのN. ガーシェンフェルドが“How to Make(almost)Anything”という演習を通して提唱し,世界的な広がりを示すFabLab(1)は,産業革命以降分離してきた技術とそれを使う人,ものを作る人と使う人が,ルネッサンス時代と同じく融合し,作る技術を大衆の手に取り戻す「製造技術の民主化」とでも呼ぶべき実践をしている.従来は,3Dプリンタやレーザカッター等のディジタル制御加工装置は一般のユーザ(アマチュア)にとっては扱うことが非現実的であった.しかし技術の進化と普及によって,それらの道具を活用することが多くの人にとって現実的なものとなり,従来は製作することが非現実的であったものを製作することが可能となった.このような現象を背景として,「作る」という行為を,製造業だけでなくユーザである市民が実践できるコミュニティの在り方が模索されている.このように,「技術が存在する」ことと「技術が普及する」ことの間には大きな壁があり,「技術が普及すること」が社会や産業の在り方の質的な変化をもたらし得る点は注目すべきである.
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