小特集 6. 頒布はシェアの一部 Maker Pro

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Vol.102 No.11 (2019/11) 目次へ

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回路とシステムの研究を「社会実装」するまで

小特集 6.

頒布はシェアの一部 Maker Pro

Maker Pro: Selling Is a Part of Sharing

高須正和

高須正和 ニコニコ技術部深圳コミュニティ

Masakazu TAKASU, Nonmember (Nico-Tech Shenzhen Community, Shenzhen, 518000, China).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.11 pp.1029-1033 2019年11月

©電子情報通信学会2019

abstract

 いわゆる「ものづくり」は,加工のための設備や材料の入手性の点から,かつては製造業の大手企業や大学などの専門機関に所属しなければ現実的には着手ができなかった.しかし様々な社会状況の変化や技術の進歩により,個人や少人数のチームを含む社会の様々な階層の人たちでも,かなり高度な「ものづくり」を行うことが可能となってきた.このような,言わば「ものづくりの民主化」とも呼ぶべき現象は2012年頃から顕在化しており,メイカームーブメントとも呼ばれる(1).その一方で,産業としてのものづくりでは,もの(ハードウェア)の量産や販売も必要であるが,それらはいまだに,リソースを備えた大規模な組織に所属する専門家の分野であり,民主化されたとは言いがたい.

 本稿では,ものづくりにおける,このような専門家と,アマチュアの中間の立ち位置とも呼ぶべき「Maker Pro」という,ものづくりの様式について,その現状と可能性について考察する.

キーワード:スタートアップ,オープンソース,メイカームーブメント,深圳

1.Maker Proという運動

 いわゆる「メイカームーブメント」の普及により,個人や少人数チームによるものづくりが,かなり高レベルな部分まで民主化されつつある.その動きは日々あらゆる分野に及んでいる.例えば,AI(人工知能)と連動したデータ分析や遺伝子解析などは,かつては限られた設備やコミュニティへのアクセスが可能な一部の専門家しか扱うことができなかった.しかし近年では,これらの技術は「民主化」され,これらを活用したものづくりが,趣味としてすら可能となっている.このような現象はにわかには信じ難いかもしれないが,毎年世界各地で頻繁に行われるMaker Faireのようなイベント(日本でも幾つか開催されている)での各作品の進化に,この社会としての動きを見ることができる.

 このような趣味と産業との関連は,新しい現象ではない.例えば楽器の演奏,すなわち音楽活動は,プロのミュージシャンによる一大産業であるとともに,アマチュアの趣味としても一大産業になっている.また漫画を描くことのようなクリエイティブな分野や,スポーツの分野などでも同様の現象は古くから存在する.このような現象が,ものづくりの分野においても,「趣味と仕事の両方の関わり方がある」ようになってきた,と理解することができる.

 このようなプロとアマチュアが共存する中で,両者の中間とも呼ぶべき文化が存在する.音楽におけるインディーズバンドや漫画における同人誌のような文化は,プロとアマチュアの中間とも呼ぶべき存在で,そこでアマチュアのままとどまる人もいれば,プロへと進む人もいる.このようなプロとアマチュアの中間的な存在は,ものづくりの世界でも存在しており,近年「Maker Pro」と呼ばれている.趣味としてハードウェアの開発を行っている愛好家の多くは,ソフトウェア開発の愛好家と同様に,設計データなどの成果物を公開する場合が多い.ただしソフトウェアはダウンロードしてコンパイルするだけで再利用できるが,ハードウェアはディジタルデータだけでは使えない点がソフトウェアとは大きく異なる.そこでハードウェアの愛好家の多くは,自身である程度の数量を量産して頒布している.これは,言わば漫画における同人誌と似た,同人ハードウェアとでも呼ぶべきものである.筆者の所属する(株)スイッチサイエンスでは,このような同人ハードウェアの委託販売の事業を行っており,2014年から委託手数料を引き下げるなど事業を強化している.これは,漫画の同人誌即売会として有名なコミックマーケットにおける同人誌の委託販売と同様のものである.


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