小特集 新たな展開を見せる衛星通信・放送・応用技術 小特集編集にあたって

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Vol.102 No.12 (2019/12) 目次へ

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小特集

新たな展開を見せる衛星通信・放送・応用技術

小特集編集にあたって

編集チームリーダー 山下史洋

本会誌では,用語は①文部省(文部科学省)学術用語集電気工学編,②本会編の改訂電子情報通信用語辞典,③本会編のエンサイクロペディアハンドブック,に基づき統一している.

「小型」は上記①~③に従うと「小形」であるが,政策文書などおいて「小型衛星」の記述があり,本小特集ではそれを引用しているため,「小型衛星」と記述する.(「大型」「中型」も同様の扱いとする.)

 1963年の世界初の太平洋横断衛星TV中継から56年が過ぎようとしている.この間,地上のセルラ網や光ファイバ網等の普及に合わせて,衛星通信の役割も少しずつ変化してきた.1990年代後半に提唱された非静止衛星を用いた衛星電話サービスは,当時世界中で脚光を浴びたものの,その後の資金難もあり,様々な計画が中止された.しかしながら,近年の技術の進歩により,衛星製造やロケット打上げに係るコストが軽減し,今改めて非静止衛星を用いたブロードバンド衛星通信サービスが萌芽しようとしている.一方で,静止衛星についても世界各国で地上インフラがないエリアでのモバイルバックホールやブロードバンドアクセスのため,100ビーム級のマルチビームを用いたハイスループット衛星による通信容量の大容量化が進んでおり,日本でも技術試験衛星9号機プロジェクトでその一部を実証することを目指している.

 これらの非静止衛星や静止衛星を用いた新たな大容量システムを支える基盤技術として,これまでの無線通信技術に加え,光衛星通信技術の研究開発も進められている.光衛星通信は電波では達成できない大容量な通信手段として注目されており,近年実験や実用化が報告されている.更に,これまで高い周波数を利用した衛星通信は,降雨減衰を受けることはよく知られていたが,安定した衛星通信を提供するためにはこれらの電波伝搬特性を定量的に把握する研究は重要であり,日本においても長年継続されている.

 一方で,サービスに目を向けると,社会インフラとしては,近年地上のネットワークインフラが充実し,衛星通信が平時に必要とされる利用シーンは減少している.しかしながら,現在でもなお,衛星通信の広域性,高信頼性,迅速性の特徴を生かし,航空機・船舶などの地上セルラネットワークではサービス提供が難しい移動体や,山間へき地・離島などのトラヒックが少ないルーラルエリア,災害発生時や地上ネットワークの故障時のバックアップ用途等で重要な通信インフラ回線として利用されている.また欧州では前述した衛星通信の特徴を生かした衛星―地上5G連携の検討も進んでおり,衛星通信を地上インフラの一部として意識することなく活用するための標準化や実験が進められている.

 全世界で最も多く利用されている衛星関連サービスは衛星放送であることを忘れてはならない.2018年12月,超高精細で臨場感あふれる映像と音響を特長とする新4K8K衛星放送が日本で開始された.中でも8Kスーパーハイビジョン放送は世界に先駆けての放送サービスであり,世界的にも注目されている.

 電波・赤外線・可視光を用いて地球を観測する地球観測衛星についても,近年衛星で観測できるデータ量が増大したことから衛星と地上間でのデータ伝送手段が多様化し,低軌道観測衛星から地上への直接通信方式に加え,静止軌道に配置した中継衛星を利用する新しい通信方式も検討されている.更に,観測データを科学的知見の獲得に利用するほか,防災や農林水産業等の現場で利用する社会実装が進んでおり,新たなビジネスチャンスとして注目されている.

 最後に,最近急激に利用途が拡大している無人航空機についても,地上インフラでカバーできないエリアについては衛星通信との連携が期待されており,本格的な利活用に向けた環境整備及び研究開発が進められている.

 このように衛星通信・衛星放送・応用技術は近年新たな展開を見せており,本小特集ではそのトレンドを分かりやすく解説記事としてとりまとめた.本小特集をきっかけに,衛星の通信・放送・応用利用に対して,読者に興味を持って頂くことを期待して「小特集編集にあたって」とする.

小特集編集チーム

 山下 史洋  宮村  崇  阿部 順一  大島 正資  岡本 英二  葛西 恵介  小島 政明  芝  宏礼  牧 謙一郎  町澤 朗彦  山田  渉 


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