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折り紙の科学
小特集 7.
RNA折り紙
RNA Origami
abstract
RNA一本鎖が合成と同時に自分自身に折り畳まれる過程「共転写性フォールディング」(CF: Cotranscriptional Folding)を利用して極小のタイル構造を試験管内で自己組織化する技術「RNA折り紙」.Gearyらはその可能性と有用性を実験で実証して見せた.本稿ではRNA折り紙とその駆動原理であるCFによる自己組織化の数理モデルである「折り畳みシステム」について概説する.特に全ての計算可能関数をたった1種類の抽象高分子鎖を用いて計算する万能折り畳みシステムについて述べるが,これは生体内で自己組織化可能な汎用計算機の実現へ向けた最初の重要なステップである.
キーワード:分子自己組織化,RNA折り紙,共転写性フォールディング,チューリング完全性
転写から話を起こそう.転写(transcription)とは,生体内におけるたん白質やノンコーディングRNAの発現に際して,DNA鎖(遺伝子,ヌクレオチドA,C,G,Tから成る有向鎖)のコピーをリボヌクレオチドA,C,G,Uから合成する過程である.図1に示すように,RNAポリメラーゼが転写元DNA鎖を1ヌクレオチドずつ走査し,A→U,C→G,G→C,T→Aという対応関係に基づいて対応するヌクレオチドを加えRNA鎖をどんどん伸長していく.このとき,転写産物(transcript)のRNA鎖は鎖全体が転写されるまで不安定な一本鎖の状態にとどまるわけではない.鎖は折り畳まれ近接したヌクレオチド同士が水素結合して安定化する.ゆえに転写産物は転写済みの部分から逐次折り畳まれていく.これが共転写性フォールディング(CF: Cotranscriptional Folding)である.
CFが生体内の情報処理において担う役割が明らかになってきている(文献(1),(2)など参照).理論計算機科学の観点から特に興味深いのは,CFが可能な折り畳み数を削減して生体による転写産物の折り畳み制御を容易にしていることである.例えばリボスイッチは図2に示される二つの安定構造への共転写的折り畳み経路を持つが,周囲のNaF濃度に応じそのうち一方のみが選択され,Terminator Stemと呼ばれる赤色のヘアピン構造が完全に形成される右の場合にのみ遺伝子発現が阻害される(3).NaF濃度に応じて遺伝子発現を制御するスイッチとして働くのである.
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