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2. 生体機能の統合的な計測・評価のための理論と技術
小特集
2-1筋シナジー仮説に基づく生体機能の情報集約
2-1-2神経生理の立場から
――筋シナジーに基づく筋骨格系の冗長自由度を簡略化する仕組み――
In Terms of Neurophysiology: Simplifying Redundant Degree of Freedom in Human Musculoskeletal System Based on Muscle Synergies
abstract
ヒトは冗長かつ複雑な筋骨格系を巧みに活動させ,多様な環境の中で適応的な身体運動を実現している.本稿では,生理学実験及び数理解析手法により‘ひと’生体に内在する冗長自由度を解決する戦略である筋シナジーの存在意義について紹介する.生理学実験により環境の変化に応じて筋シナジーが柔軟に適応すること,正確な身体出力に筋シナジーが関与していることが明らかになった.数理解析手法により筋シナジーの存在は筋骨格系の力発揮方向の偏りを補正することが明らかになった.
キーワード:運動制御,運動学習,筋電図,シミュレーション,発揮張力
我々が何気なく行っている身体運動は,実は極めて複雑な運動制御の結果達成されている.生体には無数の筋が存在するため,中枢神経系が個々の筋に逐一指令を送っていると,処理すべき情報量が膨大となる.これは筋の冗長性問題として知られており,我々がどのようにして無限に近い筋活動から適切なたった一つの解を決定するのか(Bernstein問題)は,運動制御研究における長年の疑問である(1).すなわち,中枢神経系が全ての自由度をそれぞれ独立に制御しているとは考えにくい.この問いに対し,幾つかの筋をまとめて支配する神経制御機構である筋シナジーという概念が提唱された.中枢神経系は,複数の筋をまとめて支配する筋シナジーに運動指令を送ることにより,制御を簡略化していると考えられる(図1).そもそもヒトは多様な環境の変換に応じた適切な身体運動を実現しているが,そのような運動を実行するために必要な空間自由度よりも多い関節自由度を有し,関節の回転運動を誘発する筋は更に冗長な自由度を持っている(2).本稿では,環境の変化に応じた筋シナジーの柔軟な適応について紹介するとともに,筋シナジーの存在意義について解説する.
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