解説 ミリ波アンテナの実際

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解説

ミリ波アンテナの実際

Practical Millimeter-wave Antennas

広川二郎

広川二郎 正員:フェロー 東京工業大学工学院電気電子系

Jiro HIROKAWA, Fellow (School of Engineering, Tokyo Institute of Technology, Tokyo, 152-8552 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.9 pp.866-872 2019年9月

©電子情報通信学会2019

abstract

 ミリ波は広帯域・大容量の通信が可能な周波数として注目が集まっており,ミリ波を利用した数多くの応用が検討されている.アンテナは無線通信には必須なデバイスであり,ミリ波のように周波数が高くなってくると,新たな問題が出てきている.本稿では,まず,ミリ波アンテナの特徴を述べ,ミリ波システムにおけるアンテナの問題をまとめる.そして,ミリ波導波管構造,ミリ波小形アンテナを例として,具体的な対策手段を幾つか説明する.

キーワード:ミリ波,アンテナ,導波路,小形アンテナ

1.は じ め に

 60GHz帯を使用したミリ波無線LANや将来の自動車の自動運転を見据えた先進運転支援システムのための車載レーダなど,ミリ波を利用した開発が進められている.また,最近では第5世代移動通信システムにミリ波帯の周波数が採用されるなど,今後ミリ波を利用したアプリケーションはますます増えていくと考えられる.

 ミリ波は一般に自由空間波長が1~10mmの範囲,周波数で言うと30~300GHzの範囲の電磁波である.周波数が高くなると,自由空間伝搬損は周波数に比例して大きくなり,降雨減衰も大きくなる.大気減衰に関しても一般的に周波数が高くなると増加するが,空気,水の影響で特定の周波数帯(60GHz帯,120GHz帯,180GHz帯など)で局所的に高くなる.周波数が高くなると,電磁波の直進性が強くなるため,遮蔽物の裏への回込みが弱くなるので,見通し内通信の方が見通し外通信より望ましい.

 周波数が高くなった場合,同じ受信電力を得るための受信アンテナの利得math(注1)は高くなる.これは以下のとおり説明できる.送信電力mathの送信アンテナから距離math離れた位置での電力密度は半径mathの表面積mathで割るとmathで与えられる.この値は周波数によらない.必要な受信電力が周波数によらず変わらないとすると,必要な受信アンテナの面積mathも周波数によらない.アンテナの利得mathは,アンテナの実効的な大きさmathと自由空間波長mathを用いてmathで表される(注2).周波数が高くなると,自由空間波長mathは短くなるので,必要な受信アンテナの面積mathに対する受信アンテナの利得mathは高くなる.周波数が高くなるとアンテナの規模が大きくなる.アレーアンテナで言えば,アレー素子数の増加に対応する.

 電磁波の現象は長さが原則自由空間波長mathで規格化した値が同じであれば同じ現象になる.周波数がmath倍になれば,長さをmath倍にすれば同じ現象(スケール則)になる.これは誘電率,導電率,透磁率などの材料定数が周波数依存性を持たないことが前提であるが,実際には周波数依存性がある.同じ材料でも材料定数が形成法によって異なってくる.例えば,銅はくの導電率は圧延銅と電解銅では表面の粗さが異なるため値が異なる.また,製造限界等のために,スケール則を適用できない形状パラメータがある.例えば,スロットアンテナにおける金属板の厚さなどである.ミリ波アンテナの設計ではスケール則に従わない材料定数,形状を考慮する必要がある.

2.ミリ波アンテナの特徴


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