解説 感性の指標化とプロダクトデザインへの応用

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解説

感性の指標化とプロダクトデザインへの応用

Kansei Indexing and Its Application to Product Design

長田典子

長田典子 正員 関西学院大学理工学部人間システム工学科

Noriko NAGATA, Member (School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University, Sanda-shi, 669-1337 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.102 No.9 pp.873-880 2019年9月

©電子情報通信学会2019

abstract

 ユーザのニーズ・ウォンツの多様化が進み,プロダクトやサービスのカスタマイズ化あるいはパーソナル化が求められる中,人の嗜好や満足といった感性的な価値をモデル化し,具体的なデザインに展開する方法論が注目されている.多様な人の感覚・感性を指標化し,新たな社会的価値を創出するため,感性工学をはじめ,AI,心理学,脳科学等の学際的融合により研究を進めるとともに,成果の社会実装を進めている.本稿では感性の指標化技術とそのプロダクトデザインへの応用事例について紹介する.

キーワード:感性工学,機械学習,感性的質感,スタイル特徴,アプレイザル辞書

1.は じ め に

 ユーザのニーズやウォンツが多様化し,プロダクトやサービスのカスタマイズ化(適合化)やパーソナル化(個別化)がますます求められている.そのためには一人一人の嗜好や満足を的確に把握し,それに合わせて具体的なデザインに展開する方法論が必要になる.そこでプロダクトやサービスを通して得られる感動や共感を感性価値(1)と位置付け,感性価値を創造する取組みなどが推進されている.

 感性工学や感性情報学をはじめとする感性研究は,日本発の学問分野として1980年代にスタートし,多方面で発展を続けている.感性の定義に関しては立場によって様々であるが「無自覚的・直感的・情報統合的に下す印象評価判断能力」(2),「感情を伴う認知プロセス」といった定義がなされている.また感性は主観的,非言語的,無意識的,直感的で曖昧であり,状況依存性や多義性があり,因果律が希薄であるとされている(1).一方で個人差を超えた共通性あるいは共通理解性が見られることから,それらを利用して客観的なモデルを構築する方法が模索されてきた.

 こうした感覚・感性を指標化し,指標に基づくプロダクトデザインによって新たな感性価値を創出する研究を,工学,AI,心理学,脳科学,芸術学等多様な分野の学際的融合により進めている.本稿では感性の指標化技術とそのプロダクトデザインへの応用事例について紹介する.

2.感性指標化技術

2.1 感性の階層構造と印象の定量化

 感性研究において中心的なトピックの一つが印象(イメージ)の定量化である.プロダクトデザイン分野においても,人がプロダクトに対して「好き」や「欲しい」などの感性価値(感情を含む)を抱くのは,「かわいい」や「美しい」などの印象によるものであり,またそうした印象は色や表面性状などの物理要因によって形成されると捉えられている.そこで感性研究ではしばしば,感性のモデルを図1のように「感情―印象―物理量」の3層から成る階層構造として表現する(3).印象層を介することで‘ひと’(価値)と‘もの’(物理要因)の対応関係における感性的な価値形成の根拠(因果関係)が明らかになり,プロダクトデザインへのフィードバックが容易になる.また印象層で個人差の補正を行えるので,モデル全体の精度が上がるというメリットもある.

図1 感性の階層構造


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