特別小特集 1.~特別インタビュー~オリンピック・パラリンピックを迎える東京都からのメッセージ

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Vol.103 No.1 (2020/1) 目次へ

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特別小特集1.~特別インタビュー~オリンピック・パラリンピックを迎える東京都からのメッセージ

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小池百合子 東京都知事

インタビュアー:

山中直明  慶應義塾大学 教授(正員:フェロー)

佐々木経世 イーソリューションズ株式会社(本会維持員)
代表取締役社長

[小池都知事]明けましておめでとうございます.

[インタビュアー]明けましておめでとうございます.お忙しい中ありがとうございます.2020年1月号特別小特集「いよいよ開催,オリンピック・パラリンピック――2020年に花咲く技術――」を刊行するにあたって,インタビューをさせていただきます.

 本年は,ついにオリンピック・パラリンピックが開催されます.五輪の開催は東京にとって大きなチャレンジであり,成長の好機だと思いますが,知事はいかがでしょうか?

[小池都知事]東京は1964年大会から56年の時を経て,東京2020大会の開催を迎えます.史上初めて2度目の夏季パラリンピックを開催する都市として,特にパラリンピックに力を入れていきたいと思っています.

 1964年当時は戦後復興・高度成長の時代でした.そのときには,大会に合わせハードの整備が進み首都高速道路や新幹線がつくられました.今も日本の基盤として成長を支えている,まさしくレガシーです.

 では2020年のレガシーは何かというと,今度は,「電波の道」と考えています.首都高で車が走るように情報が走る「電波の道」こそがレガシーであると.先日基本構想を発表しました「TOKYO Data Highway」を21世紀の基幹インフラとして位置付け,東京2020大会のレガシーとして残していきたいと考えています.これはエコシステムを整えていく上での神経としての機能・役割があり,産業・医療・農業など様々な分野で国際競争を行う上でも,後れを取るわけにはいきません.2020年のオリンピックがその後押しになるでしょう.

 また,1964年は高度成長,今度は成長プラス成熟がキーワードになり得るかと思います.成長もただ一直線なものではなく,持続可能な成長,この辺りが1964年と2020年の違いです.このことを心に刻み,進めていきたいと思います.

[インタビュアー]サスティナブルな成長というのはイメージが付きやすいのですが,成熟とはどのようなものでしょうか.

[小池都知事]現在,2040年を目途として,その前の2030年に何をするかを念頭に,東京都として長期戦略プランを描きつつあります.そこで3つのCというキーワードを考えております.1つがコミュニティ,2つめが挑戦,3つめが長寿です.実は長寿を国際語にしようと思っています.

 社会にしても公害などの負の遺産を残すような,ただの右肩上がりの成長ではなく,これからはすでに社会が成熟をし,人間も長寿で高齢化が進んでいるので,成熟の中身を考えていく.例えばパラリンピックは,長寿社会で必要となる車いす対応や,視覚・聴覚の問題についてもバリアをなくしていくための方策を考える良いきっかけとなります.様々な技術革新とともに社会制度を整えていくことが,成熟社会ではないかと思っています.

[インタビュアー]宮坂副知事もご就任され,東京都のIT,ICTに関する取組は非常に加速されているように感じています.今回の特別小特集では,最先端のICT技術を使った,安全安心の技術や国際化をサポートするアプリケーションを紹介しています.私ども電子情報通信学会としても,今後の動きに大きく期待しているところですが,東京都の取組の展望をお聞かせ下さい.

[小池都知事]記事に紹介されているように,いわば「TOKYO Data Highway」のようなインフラを利用して,わくわくするようないろいろな最先端技術が大会では利用されますね.最先端のAIやIoTなど,日進月歩の先端技術が引き起こす変化の波を的確に捉え,新たな価値を生み出していかねば,東京の更なる成長は望めません.その鍵となるSociety5.0の実現に都は取り組んでいます.キャッシュレス化の促進や自動運転の実現,ユニコーン企業の誕生支援など新たな産業の創出,ドローンなどを使った都市力の強化など,未来を輝かせるための取組に果敢に踏み出していこうと思います.

[インタビュアー]5Gやデータハイウェイを積極的に進めるというお話ですが,本会にも関係の深い分野なので,もう少しその戦略をお教えいただけますか?

[小池都知事]平成の30年間は,振り返ると残念ながらDXに乗り遅れた30年間であったと思います.それはある意味,強いテクノロジーを持っているがゆえに,逆にこれまでの成功を守ろうとするストラテジをとったことになります.今回,5Gという新しい時代を迎えます.他の国では国策で5Gを進めている中で,国内の民間同士の競争だけでは,国際競争の観点から間に合わなくなってしまうという危惧を東京都では持っております.そこで,東京都が有する様々なアセットを生かすことで,基地局の設置場所を提供していく考えです.

 昨年11月,通信キャリヤ等各社のトップの方々にお集まりいただき「第一回TOKYO Data Highwayサミット」を開催いたしました.サミット同日,5Gアンテナ基地局等の設置促進に向けて,東京都が保有する土地及び建物のアセット,約1万3,000件をデータベース化し公表するとともに,通信キャリヤ各社等からの問合せに一元的に対応する,ワンストップ窓口を創設しました.こうした取組を通じて,通信キャリヤ各社等と緊密に連携し,「つながる街」東京の実現に向け,取り組んでいきたいと思います.

[インタビュアー]ありがとうございました.東京都の考える,ネットワーク・データ社会の設計や戦略がよく理解できました.それでは,本会の読者に知事から一言いただけますでしょうか?

[小池都知事]益々激化する国際競争の中で,世界最速のモバイルインターネット網を構築し,東京・日本の持続的な成長へとつなげていくためには,様々な研究,技術開発が欠かせません.電子情報通信学会の皆様には,専門の知見をぜひともご活用いただき,今まで以上に科学技術の発展に貢献いただきたく思います.

 新しい年が,皆様にとって幸多き輝かしい年となりますよう,心からお祈り申し上げます.

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左から,山中,小池,佐々木各氏

インタビュアー感想

 小池都知事はご多忙の中,本会のインタビューにお答えいただきました.当初予定しておりました時間を2倍以上延長して,次々とご興味を持たれて質問をされ,また,我々の質問にも分かりやすくお答えいただきました.「やはり,次のイノベーションの戦いは,データ,それも5Gに代表されるIoTのセンサや画像,自動車の位置,人の行動といったダイナミックなビッグデータで,そのプラットホームを東京都は戦略の中で考えている」と強く感じました.2020年,5G元年,本会の会員の皆様も期待に応えていきましょう.


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