特別小特集 2. 3Dセンシング・技認識による体操採点支援

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特別小特集 2. 3Dセンシング・技認識による体操採点支援

桝井昇一 (株)富士通研究所Gプロジェクト

手塚耕一 (株)富士通研究所Gプロジェクト

矢吹彰彦 (株)富士通研究所Gプロジェクト

佐々木和雄 (株)富士通研究所Gプロジェクト

Shoichi MASUI, Koichi TEZUKA, Akihiko YABUKI, and Kazuo SASAKI, Nonmembers (G Project, Fujitsu Laboratories LTD, Kawasaki-shi, 211-8588 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.1 pp.5-14 2020年1月

©電子情報通信学会2020

1.は じ め に

 富士通(以下,当社)は,2018年11月にドーハで開催された体操世界選手権における採点支援システムの技術検証の成功を受け,国際体操連盟(FIG: Fédération Internationale de Gymnastique)における本システムの採用と両者のパートナシップ契約締結に関する記者会見,並びに,あん馬競技における実演デモを実施した.この記者会見の様子は,新聞15社やTV10番組など多数の媒体で紹介され,スポーツのICT化に関する新たな動きを広く社会に伝える機会とすることができた.この成果は,スポーツにおける国際機関との共創による取組みとして過去に例を見ないものであり,技術的には体操採点ノウハウとIoT(Internet of Things)/AI技術を結集したディジタル分野の先進事例として位置付けることができる.

 国際体操連盟は1881年ヨーロッパ体操連盟として設立され,国際オリンピック委員会(IOC: International Olympic Committee)より13年も古い歴史を持っている.加盟国は146か国あり,傘下に①男子体操競技,②女子体操競技,③新体操,④トランポリン,⑤エアロビック,⑥アクロバット体操,⑦一般体操,⑧パルクールの8競技を統括しており,全競技人口として約6,000万人(日本は約3万人)を有している.男女体操競技は,スプリング構造により弾む床などの器具の進化や高得点化への拍車により技が高速化・複雑化し,審判員が判定に迷うケースが増加しており,採点結果の正確性・公平性担保が国際体操連盟での長年の課題となっているものの,いまだ克服できていない.

 一方日本政府は,スポーツ庁を中心として国際スポーツイベントを契機にスポーツ市場を拡大(現状の5.5兆円を2025年に15.2兆円まで引き上げる.米国は既に52兆円の市場を持っている.)し,高齢化社会に向けた健康増進策や街づくりなどのレガシー創出と国際スポーツ機関への日本人輩出によるスポーツ外交力の向上を目指している.ここで期待されているのがスポーツ向けIoT/AI技術であり,当社は当該技術として着目されている3Dセンシング技術の体操競技への適用を図り,スポーツICT市場展開におけるグローバルトッププレーヤとしての地位確立を目指している.

 本稿では,最初に体操競技における採点手法とその難しさを明らかにして,その課題と対策をまとめ,当社が開発を進める採点支援システムの概要とその価値の展開を説明する.続いて,採点支援に必要な高い精度での3D骨格座標認識を可能とする3Dセンシング技術と,取得された3D骨格座標の時系列情報から実施技の特定と減点判定を行う技認識技術の解説を行う.最後に,この3Dセンシング・技認識技術を利用し,国際体操連盟との共創による実用化への取組みを紹介する.

2.体操採点における課題と対策

2.1 体操採点の概要

 体操競技は,陸上競技や水泳競技のように時間や距離を競う競技ではなく,演技(アスリートの動き)の複雑さを採点してその高さを競う採点競技である.男子6種目(ゆか,あん馬,つり輪,跳馬,平行棒,鉄棒),女子4種目(ゆか,跳馬,平均台,段違い平行棒)のそれぞれの演技に対して,技の難度を示すD(Difficulty)スコア,演技の出来映えを反映するE(Execution)スコア,及び,演技領域からの逸脱(線審が判定)や時間超過(計時審判が判定)などによる減点の合計によって採点される(1)(4)


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