小特集 4. 電気自動車への走行中ワイヤレス給電

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Vol.103 No.10 (2020/10) 目次へ

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IoE(Internet of Energy)社会のエネルギーシステム

小特集 4.

電気自動車への走行中ワイヤレス給電

Dynamic Wireless Power Transmission for Electric Vehicles

藤本博志 藤田稔之 永井栄寿 清水 修 皆川裕介

藤本博志 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻

藤田稔之 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻

永井栄寿 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻

清水 修 東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻

皆川裕介 一般財団法人日本自動車研究所電動モビリティ研究部

Hiroshi FUJIMOTO, Toshiyuki FUJITA, Sakahisa NAGAI, Osamu SHIMIZU, Nonmembers (Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo, Kashiwa-shi, 277-8561 Japan), and Yusuke MINAGAWA, Nonmember (E-Mobility Research Division, Japan Automobile Research Institute, Tokyo, 105-0012 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.10 pp.1030-1036 2020年10月

©電子情報通信学会2020

abstract

 EV普及の課題は1充電当りの走行距離の短さである.走行中ワイヤレス給電は,課題を解決するだけでなくバッテリーの搭載量を低減し車両価格を低減する技術として期待されている.本稿ではEV向けワイヤレス給電特有の問題である機器互換性の問題解決に向けた評価法の提案を行い,走行中ワイヤレス給電を搭載した評価用車両の仕様について詳細に報告する.このシステムを用いて90%以上の変換効率と20kWの給電結果を得た.更に,走行中ワイヤレス給電の普及がもたらす経済的効果について計算し,走行中ワイヤレス給電が社会に与える影響を評価した.

キーワード:電気自動車,走行ワイヤレス給電,互換性,経済成立性

1.は じ め に

 日本のCO2排出量(2017年度)は12億9,200万トンであり,そのうち自動車は2億500万トン(全体の17.2%)を占めている(1).脱炭素社会に向けて自動車の排出量削減は急務である.筆者らは2050年までには自動車が走行中に排出するCO2は限りになくゼロにすべきものと想定する.

 この目標に対応するために,世界中の自動車メーカは電気自動車(EV)の開発を進めている.しかし現在のEVは20~40kW・hもの大容量バッテリーを搭載していても,1充電当りの走行距離は実用上100~300km程度でありガソリン自動車に比べて利便性が悪い.この課題に対し,ほとんどの自動車メーカはバッテリー搭載量を増やすことで競争をしている.しかし,バッテリー搭載量を2倍にしてもEVの重量が増えるため航続距離が2倍に伸びず,充電時間も長くなり利便性の向上は限定的である.また,バッテリーコストにより車両価格が高くなることや,バッテリーの供給能力や原材料の枯渇も懸念されている.

 これらの課題を解決するため,走行中のEVに無線で給電する「走行中ワイヤレス給電(D-WPT)」の研究が世界的に進められている.走行中のEVにエネルギーを供給できればバッテリー搭載量を大幅に減らすことができるので,EVが軽く,低コストになりエネルギー効率も高まる.ユーザは航続距離や充電時間の心配をする必要がなくなるため,高い利便性が実現される.D-WPTはEVのキーテクノロジーであると言える.更に,エネルギーシステムの観点から見ると,充電器に接続されているEVだけでなく,走行中のEVまで含めてそのバッテリー容量を電力需給調整に使うことが可能となる.

 世界的な研究状況としては,車両実験レベルでの成功例は既に多数報告(2)されており,今後はメーカ間での互換性・効率の向上・人体への安全性・インフラ設置方法といった実用化に向けた研究開発が加速するものと考えられる.D-WPTは自動車単体ではなく大規模なインフラシステムであり,関連産業は電機・電力・土木・情報通信・道路事業者など多岐に及ぶ.このシステムを日本が世界に先駆けて実用化できれば,技術規格の国際標準化に向けて日本が主導権を得られると期待される.


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