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2. 光周波数コムの光源開発
2-1
固体レーザによる光周波数コム
Solid-state Optical Frequency Comb
2000年に生まれた光周波数コムはいずれもチタンサファイアレーザによるものであった.光周波数コムを実現するためには,オクターブバンドスペクトルを用いた自己参照法が必須であるが,フォトニッククリスタルファイバなどの非線形ファイバで効率良くスペクトルブロードニングを起こすには超短パルスが必要であったためである.カーレンズモード同期レーザは当時光周波数コムに最適であり,今でも多数用いられている.最近ではモード間隔の広い光周波数コムのための超高繰返しカーレンズモード同期レーザも実現している.
キーワード:カーレンズモード同期,自己参照法,チタンサファイアレーザ,Ybドープ固体レーザ
ちょうど20年前,国際会議CLEO/QELS 2000のpost deadlineセッションで,JILA(コロラド大学と米国標準研究所NISTとのジョイント研究所)及びMPQ(マックスプランク光量子研究所)のグループから,自己参照法により光周波数コムが実現したという報告が同時にあった(1),(2).JILAのJ. HallとMPQのT. Hanschが2005年にこの業績でノーベル賞を受賞したのは周知のとおりである.JILAのグループは光周波数の超精密制御の観点,MPQは超短パルスレーザのキャリヤ位相制御の観点での論文としてあるのは興味深い.それぞれ,超短パルスの専門家と超精密分光の専門家のコラボレーションである.更に,JILA側は高非線形ファイバの専門家も共著者として加わっている.ちなみに同じセッションには,高非線形ファイバでの広帯域光発生単体の発表もあった(3).同年,多くの光周波数コムに関する論文が出版された(4)~(7).
光周波数コムの実現には,
(1)超短パルスモード同期レーザ
(2)オクターブバンド光発生と自己参照法
が必要な要素となる.光周波数コムが生まれた当初,レーザ発振器には全てチタンサファイア(TiS)レーザが用いられた.発振器から出力されるパルス幅がどのレーザよりも短く,かつ平均出力も比較的大きいからである.TiSレーザの受動モード同期自体は1991年に達成され,簡便にフェムト秒パルスが得られることから科学技術分野で爆発的に広まっていった.1990年代当初,TiSレーザの励起レーザは専らアルゴンイオンレーザであり,巨大電源を必要とするのみならず,電源雑音に由来する光の強度雑音が大きく,モード同期TiSレーザの縦モード雑音も大きく,光周波数コムのための超精密制御に耐えられるものではなかった.
1996年にダイオード励起 Nd:YVO4レーザの共振器内第二高調波レーザが市販され,状況が変わった.大電力を必要とするアルゴンイオンレーザから解放されることで―コストが劇的に下がったのみならず,TiSレーザの雑音が低減されたのである.これにより,縦モードの精密制御を行う土俵ができた.
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