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2. 光周波数コムの光源開発
2-3
電気光学変調コム
Electro-optic-modulation Comb
光通信の大容量伝送や天文分野等の精密分光のために,繰返し周波数が10GHz以上である高繰返し光周波数コムの研究が近年精力的に行われている.本稿では,筆者らがこれまで光変調器を用いて実現してきた,電気光学変調コムの発生原理,短パルス化,広帯域光発生,キャリヤエンベロープオフセット周波数検出,周波数安定化等の各要素技術,及び,電気光学変調コムをマイクロ・ミリ波発生装置の雑音の高感度検出器として利用し,その雑音を減らす制御機構を実現することにより,低雑音かつマイクロ波からミリ波まで広帯域な電磁波を発生する技術について紹介する.
キーワード:光周波数コム,電気光学変調,スーパコンティニューム光,マイクロ波,ミリ波
近年著しい発展を遂げる光コム技術により,原子時計等からのマイクロ波基準信号に対して正確に固定された周波数間隔と位置を持つ光周波数基準光源が得られるようになり,周波数軸上の“光の物差し”として光周波数計量(1),精密分光(2),天文分野(3),及び,光通信(4)等の様々な分野で広く活用されるようになってきている.光コム光源はまた,高確度に波長と位相がそろった基準光としても使えるため,将来のフォトニックネットワークにとっても大変有望な技術となる.しかしながら,光コム光源の周波数モード間隔はレーザの繰返し周波数に等しいため,モードロックレーザベースの光コムにおいては一般的に100MHz前後という大変ちゅう密な周波数モード間隔となる.そこで筆者らは,一般的なモードロックレーザの代わりに,CW半導体レーザを基に光変調器を用いてGHz繰返しのフェムト秒光パルス列を発生させる手法(5),(6)により,各モードの波長が固定された広モード間隔光コム光源である電気光学変調(EO)コムを実現する方式を提案し(7),実現した(8).現在までこの方式でキャリヤエンベロープオフセット(CEO)周波数を用いて周波数安定化まで実現できているのはNTTとNIST(米国)(9)の2研究機関である.
近年,高精度な時刻同期は金融・証券分野における高頻度取引,エネルギー分野におけるスマートグリッドの蓄給電タイミング合わせ,IoT,及び,高度交通システムの自動運転補助等への活用が期待されている(10).国際機関ITU-Tはその時刻同期用の時計を現在のCs原子時計から光格子時計への変更を検討している.光格子時計は2001年に東大香取助教授(当時)が考案した原子時計の手法である(11),(12).“魔法波長”と呼ばれる特別な波長(周波数)にレーザを使い,格子状に配列した僅か数十nmの微小空間に原子を閉じ込めることで,原子が吸収する光周波数を正確に測定して1秒を決める.この時計は300万年に1秒の時間がずれる精度である.光格子時計に変更した場合,現在1,2週間ごとに正確な時刻を校正する作業が300年間も不要となるため,時刻校正用に必要としていた通信機器の消費電力と労力の大幅削減に貢献できる.更に,これまで無線通信の時分割複信(TDD)では上下回線の電磁波干渉を防止する空白の周波数帯域を設けていたが,その周波数帯域を新たにデータ通信利用できるため,光通信の大容量化も同時に実現できる.その際,光格子時計からの高精度な光周波数(PHz)を光ファイバ網で日本全国の通信局舎に配信して各局舎の通信機器(駆動周波数:GHz-kHz)用に高精度な光電変換が必要となる.筆者らは光コムがこの広帯域な周波数ギャップをつなぐ架け橋の役割を担うと考える.
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