特集 2-4 微小光共振器を用いた光周波数コム

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枠

2. 光周波数コムの光源開発

特集

     2-4

微小光共振器を用いた光周波数コム

Optical Frequency Comb with Optical Microresonator

田邉孝純 藤井 瞬 和田幸四郎 柿沼康弘

区切り

田邉孝純 正員 慶應義塾大学理工学部電気情報工学科

藤井 瞬 慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻

和田幸四郎 慶應義塾大学大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻

柿沼康弘 慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科

Takasumi TANABE, Member, Yasuhiro KAKINUMA, Nonmember (Faculty of Science and Technology, Keio University, Yokohama-shi, 223-8522 Japan), Shun FUJII, and Koshiro WADA, Nonmembers (Graduate School of Science and Technology, Keio University, Yokohama-shi, 223-8522 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.11 pp.1105-1112 2020年11月

©電子情報通信学会2020

abstract

 微小光共振器を用いると僅かな光入力でも効率的に四光波混合を引き起こすことができる.微小光共振器の共振モードは周波数に対してほぼ等間隔であり,四光波混合光は共振器モードに沿って発生する.その結果,適切に励起光を制御すれば,光周波数コムを得ることができる.しかし,それを実現するためには,微小光共振器の分散を精密に制御する必要がある.本稿では,微小光共振器による光周波数コム発生に必要となる様々な微小光共振器の種類について紹介したのちに,精密な分散設計手法について紹介する.特に筆者らが進めている機械加工によるMgF2から成る光共振器の分散制御とそれを用いた光コム発生について重点的に紹介する.

キーワード:光周波数コム,微小光共振器,非線形光学効果,超精密加工

1.は じ め に

1.1 微小光共振器の開発からマイクロコム発生まで

 半導体微細加工技術は1990年から2000年にかけて,エレクトロニクス産業の要請に応えるべく目覚ましい進展を遂げた.微細加工技術の進展は,フォトニクスの分野にも恩恵をもたらし,シリコンフォトニクスや集積フォトニクスなどをはじめとするナノフォトニクス研究分野の興隆へとつながった.ナノフォトニクス研究分野における各種光素子の中でも,光を微小な空間に閉じ込めることができるマイクロメートルサイズの微小光共振器の開発は,光と物質の強い相互作用の実現をもたらし,非線形光学や量子光学等をはじめとする分野で重要な役割を果たした.光は高速なので,物質との相互作用は一般的には小さいが,微小光共振器に光子を閉じ込めることで,それを実効的に強めることができるためである.

 角周波数mathで共振する光共振器の性能は式(1.1)で定義されるQ値で与えられる.

math

(1.1)

ここで,mathは共振器に蓄えられるエネルギー,mathは単位時間当りのエネルギー(パワー)損であり,mathmathである.定常状態ではmathは入力パワーmathと等しくなる(math).したがって,光共振器の大きさをmathとしたとき,共振器内の光子の密度はmathに比例するので,高Q値でサイズmathの小さな微小光共振器ほど,微弱な光入力mathでも高い光子密度が実現できる.光と物質の相互作用を究極的に高めることで,非線形光学効果をはじめとする様々な光の機能を発現できる.

 1992年には後に量子光学でノーベル物理学賞を受賞するS. HarocheらがQ値107のシリカ微小球共振器を作製しており(1),その後も半導体チップ上に作製した高Q値微小光共振器は共振器量子電磁気学(cavity-QED)の重要な研究プラットホームとなった(2)(4)


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