特集 3-1 光コムの度量衡への応用

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3. 光周波数コムの応用

特集

     3-1

光コムの度量衡への応用

Application of Optical Frequency Comb to Metrology

稲場 肇

区切り

稲場 肇 国立研究開発法人産業技術総合研究所物理計測標準研究部門

Hajime INABA, Nonmember (National Metrology Institute of Japan, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba-shi, 305-0045 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.11 pp.1113-1120 2020年11月

©電子情報通信学会2020

abstract

 近代の度量衡では,メートル条約に基づき国際単位系(SI)が運用されている.SIには七つの基本単位があり,現在,全ての単位は秒を基に,物理定数を使って定義されている.メートルは秒と光の速さで定義されており,日本では光コムを用いてレーザ周波数を測ることで実現されている.また,近い将来,秒は光領域で定義されると予想され,その実現には光とマイクロ波周波数とをつなぐ光コムが必要になる.本稿では,光コムを用いたメートル,秒の実現について述べ,キログラム及びケルビンの実現への取組みについても触れる.

キーワード:光コム,光周波数コム,国際単位系,SI,長さ,秒,メートル

1.SI基本単位におけるメートルの定義と実現の歴史

 度量衡(用語)は,商工業に不可欠なだけでなく,科学技術の礎でもある.現在その中核を担っているのが,メートル条約に基づく国際単位系(SI)である.その目的は,科学技術の発展,産業の振興であり,単位の同等性,恒常性を保証し,世界中どこでも,そしてどの時代でも,正確な単位を使えるようにすることである.

 SIには七つの基本単位(時間:秒(s),長さ:メートル(m),質量:キログラム(kg),電流:アンペア(A),温度:ケルビン(K),物質量:モル(mol),光度:カンデラ(cd))があり,基本単位には定義とその実現方法が定められている.値のよりどころとなる定義とそれを現実のものとする(実現する)標準としては不滅の自然物がふさわしく,測定結果の不確かさ(用語)が小さい(≒精度(用語)が高い)ことも重要である.そして,標準を実際の計測に役立てるための実用性も重視している.例えば,国際キログラム原器に代表される原器は破損,経年変化の問題がつきまとうため,定義や標準としてふさわしくない.2019年,質量の定義が国際キログラム原器ではなくなり,SIから原器による定義・標準はなくなった.現在,基本単位の定義は,セシウム原子のある共鳴周波数による秒を基に,物理定数を定義化して組み立てる体系になっている.

 長さの単位メートルの定義及び標準は,時代とともに高精度なものへと変遷してきた.近代的な定義が現れたのは,1875年にメートル条約が17か国間で締結されたのが始まりである(1).表1は,メートル条約締結後の長さ標準,及び日本の国家標準の変遷を示したものである.

表1 メートルの定義,日本の国家標準の変遷


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