小特集 3-2 Society5.0の実現に向けたエネルギーマネジメントシステム

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3. 未来に向けたレジリエント・持続可能な電力・通信システムの進化に向けて

小特集 3-2

Society5.0の実現に向けたエネルギーマネジメントシステム

Energy Management System for Realization of Society5.0

林 泰弘

林 泰弘 早稲田大学理工学術院先進理工学研究科

Yasuhiro HAYASHI, Nonmember (Faculty of Science and Engineering, Waseda University, Tokyo, 169-8555 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.12 pp.1207-1212 2020年12月

©電子情報通信学会2020

1.は じ め に

 本稿では,我が国が掲げるSociety5.0実現のコアに位置付けられている「エネルギーバリューチェーンの最適化」の基盤として,精力的に取り組まれてきたエネルギーマネジメントを俯瞰する.この領域では,あらゆる人類活動に不可欠な電力をはじめとするエネルギーを対象に,その生成から,流れ,消費まで,計量によるディジタル情報を通信によって統合し,CO2排出量最小化やエネルギーコスト最小化などに基づき,協調制御するものである.実世界の物理的なエネルギーの流れや利用をディジタルデータに変換し,モデリングとシミュレーションによって特定のアクションがどのような結果に導くか評価を行う.そして,最適な結果になるように現実世界にディジタルデータを回帰させ,機器やシステムを動作させる.このような体系はサイバーフィジカルシステム(CPS)と呼ばれ,これを実現するには,データを取得してくる仕組み,データを活用した最適解を導き出すためのモデリングとロジックの開発が必要となる.

 一方,我が国のエネルギー政策は,日本の厳しい自然環境に大きく影響され,これに対応することが重要なファクターとなってきた.東日本大震災では,大規模集中的なエネルギー供給システムに依存するぜい弱性が強く認識され,再生可能エネルギー利用拡大政策ともリンクして,需要家の主体的なエネルギー機器の保有による地産地消,自己消費を伴う分散システムを指向する流れが鮮明になった.更に,ここ数年を振り返れば,大地震が主要火力発電所を直撃したことにより北海道全域が停電に陥り,また,各地で集中豪雨や強大な台風により電力設備が損壊を受け,広域で長時間の停電が発生した.改めて,ライフラインとしての電気が常に使える状況の重要さを痛感するとともに,自然の猛威の前でどこまでそれを実現できるか,レジリエンス確保の在り方が問われている状況といえよう.

 このような困難の中で,東日本大震災以降のエネルギー政策の効用も発揮されている.蓄電池や電気自動車を保有する需要家が着実に増え,電力系統からの電力供給が途絶えたとしても自力でエネルギーを確保できる事例が散見されるようになった.昨年,千葉県を中心に甚大な被害をもたらした台風15号では,約90万軒以上が停電し,電力供給再開に2週間以上を要した地域もあった.東京電力パワーグリッドは,停電する地域に電気自動車を持ち込み,住宅等に給電するV2Hのシステムを活用し,電力供給を実施した(1).今後,更に電気自動車や蓄電池を保有する需要家が増えていき,電力の供給はストップしていても,需要家が保有するこれらのエネルギー源と健全な配電線を使って局所的な電力供給ができるようになれば,レジリエンス向上に貢献することが期待できる.

 2020年2月,「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」が閣議決定され,第201回通常国会で成立した.この中で「災害に強い分散型電力システム」として,地域において分散小形の電源等を含む配電網を運営し,緊急時には独立したネットワークとして運用可能な配電事業を法律上位置付けるとともに,分散電源等の活用を促進する計量法の規制の合理化などがうたわれた(2)


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