小特集 5. 第5世代移動通信システム――スマート社会の実現――

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移動通信システムの発展と展望

小特集 5.

第5世代移動通信システム

――スマート社会の実現――

The 5th Generation Mobile Communication System: Realization of Smart Society

奥村幸彦 須山 聡

奥村幸彦 正員:シニア会員 (株)NTTドコモ5Gイノベーション推進室

須山 聡 正員:シニア会員 (株)NTTドコモ5Gイノベーション推進室

Yukihiko OKUMURA and Satoshi SUYAMA, Senior Members (5G Laboratories, NTT DOCOMO, INC., Yokosuka-shi, 239-8536 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.2 pp.142-148 2020年2月

©電子情報通信学会2020

abstract

 近年のトラヒック増加と多種多様な新規サービスの出現へ対応するため,第4世代移動通信システムからの飛躍的な能力向上を目指した第5世代移動通信システム(5G)の商用化が世界中で進められており,日本では2020年春から商用サービスの開始が予定されている.本稿では,5Gにおける想定サービスとシステム要求条件について述べ,5Gの主要な特長の一つである超高速・大容量の実現に向けたアプローチと高周波数帯活用について説明する.加えて,主な5G無線アクセス技術とその検証を目的とした伝送実験について述べ,更に,5G時代の新しいサービス及びアプリケーションの創出を目的としたシステムトライアルについて紹介する.

キーワード:第5世代移動通信システム,超高速・大容量,高周波数帯,Massive MIMO,サービス協創

1.は じ め に

 近年のトラヒック増加と将来の多種多様な新規サービスの出現へ対応するため,第4世代移動通信システム(4G)からの飛躍的な能力向上を目指して,世界中で第5世代移動通信システム(5G)の研究開発が行われ,その商用サービスが導入され始めている.日本では,2019年4月に5G用の新周波数帯の割当が行われた後,同年秋に5Gプレサービスが開始され,2020年春から商用サービスの開始が予定されている.5Gの無線通信では,従来移動通信システムで使用されている周波数帯よりも高い周波数帯を使用することで,無線信号の広帯域化を行い,超高速・大容量の通信を提供するとともに,超低遅延,多数同時接続の特長を持ったシステムである.これらの特長は一般の消費者だけでなく,ビジネス向けにも活用でき,5G時代の新しいサービスやアプリケーションの創出を目的に日本中でシステムトライアル/実証試験が進められており,5Gによる新たな産業創出,社会的課題の解決,地方創生への貢献が期待されている.本稿では,5Gにおける想定サービスとシステム要求条件,並びに,5Gの無線アクセス技術と検証実験,新サービスの協創とシステムトライアルについて,代表的な事例とともに概説する.なお,5Gの動向に関しては本会誌の他の小特集記事も併せて参照されたい(1)

2.想定サービスとシステム要求条件

2.1 想定サービス

 5G時代のモバイル通信サービスでは,ユーザ要求の高度化・多様化を背景として,よりリッチなコンテンツを扱うサービス・端末の出現によるモバイルブロードバンドの拡張(eMBB: enhanced Mobile BroadBand)と,あらゆる‘もの’が無線でネットワークに接続する世界であるIoT(Internet of Things)のサービスに大別することができる(1),(2)

 eMBB,すなわち,超高速・大容量な無線通信方式によって,モバイル通信で提供されるサービスやアプリケーションは,より豊富かつ高度になっていくものと考えられる.例えば,高精細動画像ストリーミング(4K/8K動画像),メディアリッチなソーシャルネットワーキングサービス,クラウドの膨大なデータと緊密に連携したAR(Augmented Reality),VR(Virtual Reality),MR(Mixed Reality)サービス,触覚や体の動きなどを伝達する触覚通信が可能性として挙げられる.また,モバイル通信が人々にとってのライフラインとなり,車の自動運転,建設機械やロボットの遠隔操縦,遠隔医療(遠隔診療・遠隔健診)のような安全で確実性を求められるサービスを提供するものになっていくことも考えられる.


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