解説 多様なビジネスの収容基盤としてのネットワークとその課題――著作権保護や消費税徴収等に関わる技術的・法的課題――

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解説

多様なビジネスの収容基盤としてのネットワークとその課題

――著作権保護や消費税徴収等に関わる技術的・法的課題――

Network Operations as an Infrastructure for Diverse Businesses

浅見 徹 栗原 淳 近藤大嗣 戸出英樹

浅見 徹 正員:フェロー (株)国際電気通信基礎技術研究所

栗原 淳 正員 (株)国際電気通信基礎技術研究所適応コミュニケーション研究所

近藤大嗣 正員 大阪府立大学大学院工学研究科知能情報工学分野

戸出英樹 正員:シニア会員 大阪府立大学大学院工学研究科知能情報工学分野

Tohru ASAMI, Fellow (Advanced Telecommunications Research Institute International, Kyoto-fu, 619-0288 Japan), Jun KURIHARA, Member (Adaptive Communications Research Laboratories, Advanced Telecommunications Research Institute International, Kyoto-fu, 619-0288 Japan), Daishi KONDO, Member, and Hideki TODE, Senior Member (Graduate School of Engineering, Osaka Prefecture University, Sakai-shi, 599-8531 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.2 pp.155-161 2020年2月

©電子情報通信学会2020

abstract

 日本国憲法制定時に,「信書」を明確に定義して信書の秘密を規定した郵便事業に対し,電気通信事業は曖昧にしたまま運用され,著作権法と通信の秘密の相克のような様々な社会問題が生じている.このことは,更に将来の新たな課題を生む可能性もはらんでいる.例えば現在隆盛している仮想通貨の取引において,消費税の観点でトランザクションの位置を国税当局が把握する必要があると考えられ,更に大きな社会課題となる可能性がある.本稿では,多様なビジネスを収容するためにネットワークの技術基盤とそれに対応した法制度を整備する必要性を解説し,有望なソリューションとして,5Gモバイル網で標準化されたエンドツーエンドのスライス技術の導入によるネットワーク運用法を提案する.

キーワード:通信の秘密,表現の自由,物流,消費税徴収,スライス,サイバーフィジカル空間

1.は じ め に

 電気通信は今日まで大きく発展を遂げてきた.電信,電話,テレックスが専用の通信インフラ上でアプリケーション(アプリ)を提供していた段階から,これらを単一の通信インフラ上で提供する統合網構想が20世紀後半に提唱され,最終的にARPANETプロトコルから進化したインターネットプロトコルスイート(TCP/IP)がWebというキラーアプリを持って覇権を握り,インターネットに発展した.以来,Everything over IPが標榜され,ネットワークはパケット転送のみを受け持ち,セキュリティやアクセス制御はアプリに任せる形で発展してきた.しかし,1980年代の研究者ネットワークと比べ,ビジネスもユーザも様変わりし種々の問題が顕在化している現在,ビジネスやユーザの利用形態に合わせた抜本的な再構築,すなわちネットワークの破壊的イノベーションが喫緊の課題ではないだろうか.

 本稿では,2.で,通信,放送と公衆送信権,並びに通信の秘密について,法制度の枠組みを示す.3.では,インターネットにおける著作権保護と,Eコマースにおける消費税徴収の困難さを示す.4.では,スライス(用語)技術の導入により通信と商業活動を分離し,技術的・法制度的に新たに設計した物流スライスを作れば,3.の著作権保護での懸念がかなり緩和されたコンテンツブロッキングをディジタルコンテンツ配送サービス向けに実現できることをInformation Centric Networking(ICN)(1)を簡略化したモデルで示す.5.はまとめである.

2.情報共有メディアと法制度

 放送は技術的には電気通信から派生しているが,1対1を基本とする電気通信に対し1対多(公衆)の情報送信という形態から,本質的に異なったサービスとして運用されてきた.国際電気通信連合憲章は,電話の発明以後1920年頃まで有線の音声放送(2)や,株価情報配信(ディジタル放送)(3)があったにもかかわらず,放送業務を無線を前提に定義している(4).このため,日本の放送法では,第四条二項に“「放送」とは,公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信の送信をいう”と広義に定義し矛盾の回避に努めた形跡がある(5).一方,著作権法では第二条で(無線)放送と有線放送に分け,自動公衆送信を追加した上で,公衆送信権,「公衆によつて直接受信されることを目的として行う無線通信又は有線電気通信の送信」の権利,を著作権者に認めている(6).Webサーバを介した著作物の配布は自動公衆送信に該当し,Requestに対し該当コンテンツを送信するWebサーバの動作を考慮し,更に著作権法第九十二条二項で送信可能化権を著作権者に認めている.ここで,放送法,著作権法共に電気通信を前提に規定されているが,条文中には通信の秘密に関する条項はない.このため,通信の秘密の束縛から解放されたように条文が解釈される可能性がある.


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