小特集 1-2 量子力学現象を利用した革新的コンピュータ

電子情報通信学会 - IEICE会誌 試し読みサイト
Vol.103 No.3 (2020/3) 目次へ

前の記事へ次の記事へ


1. 量子コンピュータ技術の最前線

小特集 1-2

量子力学現象を利用した革新的コンピュータ

Innovative Computing with Quantum Mechanical Phenomena

松崎雄一郎 川畑史郎

松崎雄一郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所ナノエレクトロニクス研究部門

川畑史郎 国立研究開発法人産業技術総合研究所ナノエレクトロニクス研究部門

Yuichiro MATSUZAKI and Shiro KAWABATA, Nonmembers (Nanoelectronics Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, Tsukuba-shi, 305-8568 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.3 pp.267-274 2020年3月

©電子情報通信学会2020

abstract

 長年続いてきたムーアの法則の終えんが現実味を帯びてきた.そのため近年,汎用量子コンピュータや量子アニーリングマシンなどの量子力学現象を積極的に情報処理に利用したコンピュータに大きな注目が集められている.実際,Google,IBM,Intel,Microsoftといった世界的大企業及びD-Wave Systems,IonQなどのベンチャー企業が,汎用量子コンピュータや量子アニーリングマシンの開発を進めている.本稿においては,汎用量子コンピュータ,NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum Computer),量子アニーリングマシンの基礎,最新研究開発動向,展望と課題について紹介する.

キーワード:汎用量子コンピュータ,NISQ,量子アニーリング

1.は じ め に

 コンピュータは現代社会を支える必須のテクノロジーであり,その性能の向上のために多くのリソースが投入されてきた.しかしながら,半導体の微細加工技術による性能向上は限界に近付いてきている.そのため,従来とは異なるアプローチを用いてコンピュータの性能を飛躍的に向上させる手法が必要となってきている.

 量子コンピュータは,現在の古典コンピュータとは全く異なる原理で作動して,理論的には高速計算が可能である.量子コンピュータは,量子力学に従って振る舞う状態のダイナミクスを巧みに用いることで問題の解を得る.

 量子ハードウェアの方式には,大きく分けて,汎用量子コンピュータ,NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum computer),量子アニーリングの三つが存在する(表1).本稿では,これらを解説する.

表1 量子ハードウェアを実現するための三つの方式とその特徴

2.汎用量子コンピュータ

2.1 汎用量子コンピュータの動作原理

2.1.1 古典ビットと量子ビットの違い

 古典ビットは0か1の値しか取れないのに対して,量子ビットは0と1が共存するような,「重ね合わせの状態」を作り出すことができる.この古典と量子の違いは,ビットの数を大きくしたときに,極めて大きな差となって現れてくる.例えば,2量子ビットであれば00,01,10,11の四つの状態の重ね合わせを生成することができる.同様にして,math個の量子ビットを用いた場合は,math個の状態の重ね合わせを生成することができる(図1).このような量子状態を,古典コンピュータ上で表現するには,指数関数的に多くのメモリが必要となる.そのために,古典コンピュータで大規模な量子コンピュータの振舞いを模倣することは極めて難しい.


続きを読みたい方は、以下のリンクより電子情報通信学会の学会誌の購読もしくは学会に入会登録することで読めるようになります。 また、会員になると豊富な豪華特典が付いてきます。


続きを読む(PDF)   バックナンバーを購入する    入会登録

  

電子情報通信学会 - IEICE会誌はモバイルでお読みいただけます。

電子情報通信学会誌 会誌アプリのお知らせ

電子情報通信学会 - IEICE会誌アプリをダウンロード

  Google Play で手に入れよう

本サイトでは会誌記事の一部を試し読み用として提供しています。