小特集 1-3 高温動作シリコン量子ビットとその量子干渉効果

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1. 量子コンピュータ技術の最前線

小特集 1-3

高温動作シリコン量子ビットとその量子干渉効果

High-temperature Silicon Qubit and Its Quantum Interference

大野圭司

大野圭司 国立研究開発法人理化学研究所研究開拓本部

Keiji ONO, Nonmember (Cluster for Pioneering Research, RIKEN, Wako-shi, 351-0198 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.3 pp.275-281 2020年3月

©電子情報通信学会2020

abstract

 シリコン単結晶中の局在電子スピンを用いた量子ビット(シリコン量子ビット)は既存のシリコン技術との整合性の良さから,既存計算機へ量子技術を導入するための突破口として期待されている.しかしながら0.1K以下といった非常に低い動作温度が応用展開を阻む要因の一つであった.我々はシリコンの深い不純物及び,トンネル電界効果トランジスタ素子構造を採用することで,シリコン量子ビットの動作温度を10Kまで向上させた(1).また素子ゲート電圧による量子ビットエネルギーの高速変調により単一量子ビットの量子干渉効果を観測した(2)

キーワード:深い不純物,トンネル電界効果トランジスタ,単一電子伝導,スピン閉鎖

1.研究背景とコア技術について

 シリコン量子ビットは微細加工技術など既存のシリコン技術との整合性が良く,既存のシリコン集積回路との共存が期待できる.材料,設計,加工,検査などに関する膨大な知の蓄積が利用できる上,同位体制御材料により良好な量子コヒーレンスが実現している.これまでのシリコン量子ビット研究はその操作忠実度の向上や大規模集積化に適したビット間結合を最優先に開発されており,その動作温度は0.1K以下といった低温にとどまっていた.そこで我々は上記の課題はひとまず置いておき,量子ビットの動作温度向上を最優先に取り組むことでシリコン量子ビット(3)の持つ新たな可能性を開拓することを目標とした.

 シリコン量子ビットにはシリコン中の局在した電子のスピン状態が用いられる.これまでの研究では,局在電子スピンとして量子ドット素子構造に閉じ込められた電子や,りんなどの浅い不純物に束縛された電子が用いられてきた.量子ドット素子は微小な空間(ドット)にトンネル障壁を介してソース及びドレーン電極を付けた構造をしており,ドット内の電子の様々な性質を電気伝導特性により調べることができる.しかし一般的な微細化加工技術(数十nm程度)で作製されるドットの閉込めエネルギーは小さく,その動作温度は0.1K以下と低い.高温で動作する量子ビットには熱雑音に負けない,より強く局在した電子が必要となる.このような強く束縛された電子として,我々はシリコン中の深い不純物の電子を用いた.りん,ほう素といったn形及びp形の極性を決める不純物(浅い不純物)以外に,バンドギャップ深くに準位を作る不純物(深い不純物)が知られており,これらもイオン注入技術などの既存シリコン技術によってシリコンへ導入可能である.単一元素から成る深い不純物以外に,アルミ不純物と窒素不純物が近接して作る不純物対も深い準位を形成する.本研究ではこのアルミ―窒素不純物対を深い不純物として用いた.

 深い不純物準位へ電気的にアクセスする方法として,トンネル電界効果トランジスタ(TFET)素子構造を採用した.TFETとは,n形のソース電極とp形のドレーン電極から成り,ゲート変調可能なpin構造とみなすことができる.従来の金属―酸化物―半導体電界効果トランジスタ(MOS FET)よりも急峻なスイッチングが可能であることから,次世代低消費電力素子として注目されている.このpin構造のi層,すなわちFETのチャネルに深い不純物が導入された場合,十分に短いチャネル長を持つTFETにおいては不純物準位を介したトンネル電流がソース・ドレーン電極間に流れることになる.


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