小特集 1-4 ゲート方式超伝導量子コンピュータの要素技術

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1. 量子コンピュータ技術の最前線

小特集 1-4

ゲート方式超伝導量子コンピュータの要素技術

Core Technology of Universal Superconducting Quantum Computer

白井菖太郎 吉岡輝昭 蔡 兆申

白井菖太郎 東京理科大学理学部第一部物理学科

吉岡輝昭 東京理科大学大学院理学研究科物理学専攻

蔡 兆申 東京理科大学理学部第一部物理学科

Shotaro SHIRAI, Jaw-Shen TSAI, Nonmembers (Faculty of Science Division I, Tokyo University of Science, Tokyo, 162-0825 Japan), and Teruaki YOSHIOKA, Nonmember (Graduate School of Science, Tokyo University of Science, Tokyo, 162-0825 Japan).

電子情報通信学会誌 Vol.103 No.3 pp.282-289 2020年3月

©電子情報通信学会2020

abstract

 ジョセフソン接合を用いた超伝導量子回路において世界で初めて巨視的な素子におけるコヒーレント状態操作とその観測が実現し20年が過ぎた(1).この20年間,様々な技術的理論的進展があり,超伝導量子ビットのゲート操作精度や読出し精度,集積度はここまで順調に向上している.計算の途中で生じ得る誤りに対して耐性のあるコンピュータを実現するためにはそれらの各種精度を理論から要求される値以上(2)に保つだけではなく,量子ビットの必要数を減らすためには更なる精度向上は必要不可欠である.本稿では,量子コンピュータを実現するための物理系の候補として有力視されている超伝導体を用いた量子ビットについて,エンジニアリングの視点からゲート操作,読出し,初期化の高精度化に必要な技術を解説する.

キーワード:超伝導,量子ビット,誤り訂正,初期化

1.は じ め に

 近年,量子コンピュータという言葉は以前にも増して頻繁に耳にするようになった.Google,IBM,Rigettiなど様々な企業が現在まで量子ビットの集積度を増やしその数は数十bitに達している(3),(4).そして,近い将来集積度は数百bitに達することが予想されており(5),本稿では量子力学的効果を積極的に利用した計算方法の提案の中でも万能型量子コンピュータと呼ばれる量子デバイスについて扱う.万能型量子コンピュータは素因数分解や探索問題など,古典ディジタルコンピュータに対して少ない計算回数で解が求まることが数学的に保証されているアルゴリズムが実行可能な量子デバイスである.しかし量子デバイスが保持する情報は,周辺環境の雑音に弱い.また,量子デバイスが外部回路や環境と結合していることにより意図せず情報(mathエネルギー)が流出してしまう.これらの現象は量子コンピュータの計算過程において計算の誤りとして現れる.

 上記で述べたようなアルゴリズムが望みどおり実行されるためにはこれらの誤りを訂正しつつ計算ステップを進めていく必要がある.このような誤り耐性量子計算を行うために必要な要素が誤り訂正符号である.誤り訂正符号とは,観測すると量子性が失われてしまうデータ量子ビットの状態を直接観測することなく,データ量子ビットと相関を持つ周りに置かれた補助量子ビットのみを観測することでデータ量子ビットに誤りが生じたかを判定し,誤りの有無に応じて訂正するためのフィードバック操作を行うことを言う.そのような誤り訂正符号が正常に動作するためには,各ステップにおける誤り率が誤り訂正符号の理論から要求されるしきい値以下になっている必要がある.ステップは,各量子ビットに対するゲート操作,操作が終わった量子ビットを基底状態に戻す初期化,そして量子ビットの状態の読出しから構成される.特に,表面符号(2)と呼ばれる符号は最近接の量子ビット間におけるゲート操作のみで実行でき,要求されるしきい値が1%程度とほかの符号に比べて高く,超伝導量子回路において実現性が高いとされている.そのため,現在の超伝導量子コンピュータ開発における大きな流れは,各ステップの誤り率を表面符号から要求されるしきい値以下に抑えたまま量子ビットの数を増やすことであると言える.

 本稿ではまず,ゲート方式を志向する超伝導量子回路において量子ビットとして主流であるトランズモン量子ビット(transmission line shunted plasma oscillation qubit)(6)の実装方法に触れ,次に誤り耐性量子計算を行うために必要な技術についてステップごとに解説を行っていく.

2.超伝導体を用いた量子ビット


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