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2. 光を利用した革新的コンピューティング技術
小特集 2-1
光を用いた意思決定メカニズム
Decision Making Using Photons
abstract
ポストムーアにおける持続可能なコンピューティングパワーと人工知能の時代に問われる新機能の実現に向け,光を含めた物理過程の積極利用の重要性が高まっている.本稿では,意思決定――具体的には多本腕バンディット問題と呼ばれる基礎的課題――を,光の物理的特長を用いて実現する研究について,背景にある課題意識並びに単一光子,レーザカオス,もつれ光子を用いた実験的取組みを概観する.マイクロリングレーザを用いた集積化や無線通信応用への検討事例にも触れる.
キーワード:意思決定,光,AIフォトニクス
人工知能(AI: Artificial Intelligence)における重要課題である意思決定(1)とは,動的に変化する環境での適切な判断であり,無線通信における周波数割当(2),モンテカルロ探索(3),運輸・交通・生産などの多くの重要な応用の基礎にあることから活発な研究が行われている.意思決定問題の基盤に,報酬確率の未知なスロットマシンからの獲得報酬を最大化する問題(多本腕バンディット問題(MAB: Multi-Armed Bandit problem))がある.報酬の最大化には,いずれのマシン選択が有利かを知るための探索が必要になるが,過度な探索は損失を伴い,他方で性急な判断は良い選択を逃しかねない.更に,当たり台が時々刻々と変化する可能性(不確実な環境変化)があることから,状況に応じて自律的に意思決定を変える必要もある.このように,探索と決断に難しいトレードオフが存在する.本稿では,意思決定とはMABの解決を指し示すものとする.既存の計算機上のアルゴリズム(softmax法,UCB法など)(4)として古来取り組まれていた意思決定問題を,物理系のダイナミクスを用いて直接に解決できれば,フォンノイマンボトルネックと呼ばれる従来システムの限界(5)を打破し新たな価値を提供できる可能性がある.特に,光の高帯域性や光と物質との相互作用などの物理系に固有の特長並びにその極限性能を生かすことで,新たなシステム構造や機能が見えてくる(6)~(9).
光コンピューティングの研究開発は1980年代前後に極めて活発に行われたが,大規模集積回路に代表される電子技術の著しい進歩の中で,光そのものを計算の主体として展開する研究は一時陰を潜めた.これが2000年期になり,光本来の素材としての特長に改めて着目し,AIフォトニクスとも呼ぶべき革新的展開を指向した研究が世界で同時多発的に活発化した.その背景には,本小特集の焦点でもあるポストムーアにおける新たなアーキテクチャ研究の重要性の高まりがあり,加えて光関連領域では光デバイス技術を中心とした光技術の高度化が存在する.光導波路上の深層学習(MIT)(10),光ニューロモルフィック計算(Princeton大)(11),光リザーバコンピューティング(12)等が活発に研究されている.これらの研究は,一定の事前学習を伴う認識や予測の高度化あるいは超高速化に着目している.これに対し,本稿が扱う意思決定は,現実世界の不確実性を課題とし,原理面でも技術面でも他研究と一線を画しているが,機能補完的関係にもある.Kitayamaらはこれらの新しい光研究全体を「フォトニックアクセラレータ」という新概念として提唱し注目を集めている(13).
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